AKATHUKINITE…4

        ***
『ヒュー・アイザック 欠席』
センターの書類に柴崎は書き込んだ。ヒューが飛び出してから二週間たつが、彼は帰ってこず、センターにも来なかった。リトミックの授業はこれまで一度も休まなかったのに。今日もギリギリまで待っていたがヒューは現れなかった。子供達はまたヒューに会えなくてがっかりした顔をした。
「ヒューはまた来なかったの?初めに遅刻してから真面目に来てたのに、ちょっとがっかりだわ」
マギーがため息をつきながらつぶやく。
「シバ、大丈夫なの?もう少しで終わりなのに、これ以上さぼるようなら督促状がでるかもよ」
「…大丈夫です、最近アルバムが発売されて忙しいみたいで…今度は来るように言っておきます」
「シバが今まで担当した子は大丈夫だったのに」
「…………」
帰り道、人込みの中にヒューに似た人影を見つけ、柴崎は何度も自転車を止めた。
あれから柴崎はヒューについてずっと考え続けていた。そして自分がいかに、卑怯だったか自覚したのだ。
『俺はヒューを、淋しさという心の隙間をうめるのに利用していたんだ』
誰かに側にいて欲しかったから、自分はボランティアなどと称して人と接するようにしていた。でも、失う時を恐れて誰とも深く付き合わないようにしていたのだ。本当の気持ちに蓋をしたまま、大人の駆け引きで一定の距離を保っていた。施設の子供達にも彼等の求める仮の存在になる事ができた。
だから、彼等は自分の中の本物を見つけた時去って行く。現にジェーンは親元を飛び出した時、自分に連絡せず、他の者達と行動を共にした。子供達が自分の答えを見つけるまでの通過点になれるなら柴崎もそれで良かった。逆にそれが楽だったのだ。しかし、ヒューは違った。
彼の言葉は本物で自分をちゃんと見てくれていた。それが嬉しかった筈なのに……
なんて勝手なのだろう自分は。
嬉しかったくせに、思っていた以上のものを求められたら拒絶して……
それでも彼に離れて欲しくなかったから、彼の告白を真剣に考えようとせず、家族の情だと誤魔化していたのだ。もし、恋愛対象として考えれば答えは決まっているからである。
『俺には無理だ、ヒュー…だって俺には彼女が……』
しかし、それを伝えれば彼が離れていってしまうと思い、自分の気持ちもあいまいにしたまま、彼といっしょにいようとした。彼の求めるものを与えられないと、気付いているのに、見ないようにしていたのである。そして彼を追いつめて……
なんて卑怯なのだろう………
どうすればいいのだろう?彼をあんなに傷つけて……
どう償えばいいのか今の柴崎には分からなかった。仕事部屋でぼんやり考えていると、突然電話の音が鳴り響いた。もしかしてヒューでは!と期待しながら受話器を取ると、相手は思いもよらぬ人物であった。
「…お久し振りです…お義母さん……」
        ***
 ヒューはしばらくケイの家にやっかいなり、新しい部屋を見つけてそこに引っ越した。お金がなかったので、すごいボロアパートメントだったが、どうしてもアイリーンの用意してくれた部屋に行きたくなかったのである。
アルバムが発売された頃、ルイスとケイには柴崎の事を話したが、二人とも口をそろえて「お前が悪い」と言った。
「なにやらかしてんだ、ばかが、早く謝っちまえよ」
「そうよ、早く謝りに行きなさい。ボランティアもまだ残ってるんでしょ」
「俺もちゃんと行ってるんだから、お前もちゃんとこなしておけよ。でないと裁判所からまた金とられるぞ」
「………分ってる………」
「分ってねーだろ、でしょ!」
「………………」
二人はまた同時に怒鳴った。
彼等に言われるまでもなく、ヒューだって謝らなければと思っているのだ。しかし会いに行く勇気がなかなかでなかった。なんて謝ればいいのだ、完全に嫌われただろうに、軽蔑されたかもしれない。そんな瞳で彼に見られたらどうしようか、とかいろいろな事を考えてしまう。更にヒューの気持ちを落ち込ませる事件が起きた。
センターから出席を促す電話があったが、ヒューの担当が替わったと言われたのである。柴崎はしばらく日本に帰っているので、その間、エドワードという男性が指導員になるとの事だった。
『日本に何の用事で帰ったのだろう?ビザ関係とかだろうか?帰ってくるよな…』
ヒューの気持ちはますます暗く落ち込んだ。
そんな彼の気持ちに相反して、発売されたアルバム『can`t on jamp』はラジオで紹介されたのをきっかけに爆発的に売れた。百万枚を突破し、続けてだした新曲もビルボードチャート36位という驚異的な数字をだした。レコード会社もこの結果に驚き、ヒュー達メンバーに五万ドルの契約金が支払われた。スタッフ一同も介し、盛大なパーティーが行なわれたが、そこでちょっともめ事が起きてしまった。キャロルがいつものごとくヒューに迫り、酔いつぶれた彼を自分の家に連れ込んだのである。結局二人の間には何も起きず、自尊心を傷つけられたキャロルは怒り狂った。
「女と一つの部屋にいて何もしないなんて信じられない!あんた本当に男なの!」
「……………」
ギャーギャーわめくキャロルを置いてヒューはさっさと退散した。自暴自棄になって流されたのも事実なので、少し可哀想だったかな、とは思うが彼女とよりを戻すのは柴崎の事がなくても嫌である。しかし、一方で望みのない恋にいい加減見切りをつけろ、とも思う。でも、やはり……
柴崎が好きなのである。我ながら諦めが悪い、と思うヒューであった。
        *
 次の日からキャロルがレコーディングに来なくなった。
「あの女いい加減にしろよ〜」
ヒューは怒鳴ってやろうと、キャロルの実家に電話すると、彼女は最近購入した別荘に泊まりに行っているとの事だった。場所を聞き出し、車で向かう。
『首に縄つけてでも連れて帰る』
場所はサウス・ブロンクスの中でも治安の悪い所だった。車で玄関まで乗り付け、屋敷の中に入る。途端にヒューは呆然とした。そこはランチキパーティーが行なわれたいたのである。部屋はピンクや赤などの派手な電灯が下品に灯され、大音量でパンクビートが流されていた。大勢の男女が踊り狂い、酒を飲み、マリファナを吸っている。キャロルもその中にいた。
『なんだってんだ、この有り様は!』
ヒューは怒りまかせにスピーカーのケーブルを抜いた。いきなり音楽が止んで、皆の視線が一斉に集まる。
「お前ら!パーティーは終わりだ!とっとと出て行け!」
「なんだお前」
「ちょっとどういうつもりよ、私達楽しんでるのに」
「早く出て行け!5分以内に出て行かないと、呼んで欲しくない奴らに来てもらうぜ。この有り様で、どうやって言い訳するんだ」
ヒューの言葉を聞いて、取り巻き連中はぶつぶつ文句をつぶやきながら出て行った。
「ちょっと、みんな待ってよ、もっと楽しみましょうよ〜」
「追い掛けるな!キャロル、お前一体どうゆうつもりだ。こんな所であんな連中と!」
「み〜んな私の友達よ!何よいきなり来て怒鳴ったりして!皆怒って帰っちゃったじゃないの!」
「なにが友達だ!あいつらたかりだろーが!ちやほやされて騙されてんじゃねー!」
「うるさいわね!あんたに関係ないでしょ!この女もろくに抱けない能無し!私知ってるんだからね!」
「はあ?」
「あんたがシバサキって男に惚れてるって事よ」
「な…………」
「あんたがバイだとは思わなかったわ。どうりで私とより戻さなかった筈よね〜」
「だからなんだ………」
「笑っちゃうわね〜男好きになったりして…ばかみたい…」
「何が言いたい!」
彼女のラリった口調にヒューはイライラしてきた。
「相手の男はどんな奴かしら、どうせナヨナヨした気色悪い男なんでしょうけど」
かっとなったヒューはキャロルの胸ぐらを掴んだ。
「おい、てめーもう一度言って見ろ。殴るだけじゃすまねーぞ!」
「ちょ……と……」
ヒューの迫力に押されキャロルは黙った。手を離すとヒューはそのまま屋敷を出た。
『なんなんだ畜生!』
なぜ、そんなにバカにされなきゃいけないんだ?俺は真剣にあの人が好きなのに!
ヒューは自分の心が乾いていくのを感じていた。彼がいないと自分はどんどん厭な人間になっていくような気がする。自分を好きじゃなくてもいい、一目でいいから会いたいかった。あの笑顔を見たいとヒューは切望した。
        ***
「シバ、帰ってきたばかりなんだから少し休んだら?」
「ちょっと整理してるだけだから、すぐ終わるよ」
日本から帰国した柴崎は一度自分のスタジオに帰り、昔の写真を探していた。
「そう?無理しないでね。はい、これ、溜まっていた郵便物」
と、クリンスは手紙の入った箱を置いた。
「ありがとう」
事務的な手紙はクリンスが処理し、それ以外はすべて柴崎がチェックする。柴崎が手に取って確かめていると、中に真っ黒な封筒があるのを見つけた。消印がないので、直接届けられたものだと分かる。妙な感じがして封を切ると、中には同じような真っ黒の便せんが入っており、白いインクで『DEAD(死ね)』と書かれていた。
「……………」
いたずらだろか?随分質が悪い。
批判の手紙はたまに受け取とるが、こんなのは初めてだったので、柴崎は少々気味が悪くなる。
「あら、どうしたの?この写真?シバの昔の写真よね」
クリンスが、机に上に散らっばっている写真の中から一枚を手に取った。
「ええ、俺が初めて賞を取った作品」
「日本のお寺よね」
「神社だけど」
「懐かしいわね」
クリンスが手に取り、しばらく眺めていた。
「ねえ、シバ、あなた最近風景写真を撮りたいってスポンサーに申請したんですって」
「うん、まあ……」
「何を撮るの?」
「オーロラだよ」
「ああ……ずっと撮りたいって言ってたものね」
「……はい……」
クリンスが知り合った頃、柴崎はオーロラを撮るのが夢だと、瞳を輝かせて話していた。しかし、細君を失ってからは一言も言わなくなっていた。
「ちょっと、もったいないかしら『PIECE ON MY HERT』があまりに素晴らしいので、三号を期待されている人も大勢いるでしょう」
「……あれはもう撮れない」
「え、どうして?」
「……あれは文字どおり私の心のかけらだから」
「かけら?」
「昔に失ったものを取り戻そうと、必死に書き集めた私の心の破片。でも、いくら集めても最後のピースが見つからなかった」
「……………」
「でも、自分は見つけた。もう必死になってありもしないものを探す必要はなくなったんだ」
「ふーん……実を言うとね、私心配だったのよ、日本に帰る前シバがとても落ち込んでるみたいだったから」
「そうかな?」
「そうよ、でも、今のシバの顔見てほっとしたわ。すっきりしたいい顔してるから。何かあったの?」
クリンスの質問に、柴崎は何も言わずに美しく微笑んだ。
        *
「さぶ〜」
クリスマスの次の日、ヒューは夜中にアパートメントに帰った。新しいプロデューサーを紹介されて遅くなってしまったのである。新しいプロデューサーは有名な人だったが、そのえらそうな態度に不安を覚えるヒューであった。
『大丈夫なんだろうか……』
気持ちがクサクサしてくる。ふと、柴崎の顔が目に浮かんだ。
『……帰ってきたかな……』
ずっと、彼に会いたいと思っているが、彼が帰ってきたという連絡は来なかった。また暗いバスルームで独り泣いたりしていないだろうか。彼の痛みを思ってヒューは苦しくなった。俺が側にいたら抱き締めてやれるのに……
いや、また襲ってしまうかもしれない…気持ちが暗く落ち込んでいく。
アパートメントに到着すると自転車を止めて階段を上がった。部屋の階まできて、鍵を取り出すと、ドアの前に蹲っている人を見つけた。
「…シ、シバ………」
ヒューの声に柴崎は垂れていた頭を上げた。
「やあ…おかえり………」
「……ただいま…ってどうしてここに?」
「ケイに教えてもらって……」
あいつ、一言も俺に言わないでー、とヒューは心の中で叫んだ。
「いつからここにいたんだよ?」
「…九時ぐらいかな……」
という事は三時間以上この寒い廊下にいた訳である。どおりで柴崎の顔色が悪い。
「とにかく入れよ、さ」
引いた柴崎の手は氷のように冷たかった。部屋に入るとヒューはミルクを電子レンジで温め、柴崎に渡してやる。ああ、本当に彼だ、とヒューは黙ってミルクを飲む柴崎をじっと見つめていた。嬉しくて胸が高鳴る一方、何をしに来たのだろうかと、不安でもあった。
「日本に帰ってたんだろ?」
「ああ……」
「ビザかなんかが切れたのか?」
「いや…彼女の…命日で……」
ヒューの息が一瞬止まる。胸の奥から黒い感情が沸き上がってきた。嫉妬という名の黒い影……
「俺、ちょっと風呂の用意してくる……」
柴崎を残し、ヒューはバスルームに向かった。自分はシャワー派なのであまり使っていないバスタブを洗い始める。すると、柴崎がバスルームに入って後ろに立った。
「……ヒュー……」
「なんだ?もうちょっとだから待っててくれ」
振り返らずに、洗い続ける。
「……あの…さ………」
「ん?」
「日本に帰って、彼女の墓参りに行ったんだ…」
スポンジを持つ手が止まる。
「…毎年…彼女の母さんと行ってるんだけど…いつも、彼女との思い出が浮かんできて辛かった……」
聞きたくないと思ったが、ヒューは言えなかった。嫌だと思っていても聞かずにはいられなかった。
「今年も、同じだろうと、思っていたんだ…でも違った……浮かんでくるのは彼女の顔じゃなくて……」
「……………」
「……ヒューの…顔が……」
『え………』
「…ヒューの顔が…浮かんできて…」
「……シバ………」
ヒューが振り返ると、柴崎ははにかんだ様子で壁にもたれていた。
「…ヒューに…会いたいって…思って……」
墓参りを済ませた後、義母はこう言った。
『もし、あなたに好きな人ができたら、気持ちに正直に従いなさいね』
『え………』
『誰かが千尋を好きになってくれて、その気持ちに応えたいと思ったら、そうしなさい』
『お義母さん………』
『あなたがいつまでも、あの娘を想ってくれるのは嬉しいけど、悲しみに捕われたままでは駄目よ。そんなあなたはあの娘も見ていて辛いだろうから…』
『はい………』
『自分の気持ちに正直にね……』
『はい……』
『小さい頃から知っているあなたが息子になってくれた時は本当に嬉しかった。これからもあなたは私の息子よ』
『はい…ありがとう…お義母さん……』
義母は今一番自分が必要としていた言葉を言ってくれた。彼女の言葉は頑だった柴崎の心をゆっくりとほぐしてくれた。蓋をしていた心をやっと見つめる事ができた気がする。どこかで愛する事に怯えていた自分。誰かを愛する事は、彼女に対する裏切り行為のようで、自分が許せなかった。たくさんの自分の気持ちが見えてきた。やっと目を覚ましたような気がする。
「俺…ずっと昔から夢があった…でも、怖くて…忘れようとしてた…思い出といっしょに…」
「…シバ………」
「でも…もう一度…夢を見たい」
そして、もう一度誰かを愛したい、愛されたい、その勇気が欲しかった。日本に帰って、今本当に欲しいものが分ったから、もう迷わない。
「ヒューが、忘れてた夢を思い出させてくれたんだ……」
誰かを愛する事の素晴らしさを、思い出させてくれた。
「…俺は……ヒューが……」
ヒューがゆっくりと柴崎に近付き、彼の顔を覗きこんだ。彼の瞳は濡れていて、困ったような、苦しいような、照れたような表情をしている。
「……好きだ………」
小さな声でそう言うと、柴崎は顔を真っ赤にして俯いた。ヒューは両手で彼の頬を包み顔を上げさせた。
「…ヒュー……」
目の前にヒューの顔がある。恥ずかしさが更にこみあげてきて、柴崎は俯こうとするが、ヒューはどんどん顔を近付けてくる。
彼の唇が優しく頬に触れていく。微かに唇が重なって、柴崎は思わず身を引いた。しかし、後ろには壁があり、それ以上下がれなかった。ヒューは柴崎の背中に手を回して身を寄せると口づけた。
「…ヒュー…う…ん……」
優しく触れるだけだったそれが、激しいものに変わっていく。冷たかった柴崎の身体が徐々に熱を帯びてゆく。
「……は…あ……」
唇を離すと柴崎は苦しそうに息をする。そんな彼の身体をヒューは強く抱き締めた。
「……信じらんねー……」
「……ヒュー……」
本当に信じられなかった。彼がこの腕の中にいるなんて……
「……すげー…うれしー……」
今まで味わった事のない幸福感に包まれて、ヒューは柴崎を抱き締める手に力を込める。彼の背中に柴崎は同じように手を回した。
ヒューはそのまま彼を抱き上げベッドに運ぶ。ベッドに横たえた柴崎に口付けるが、まだ信じられない気持ちで一杯だった。
「……本当にいいのか……」
「…もう…聞くなよ……」
「うん………」
微笑みながら額にキスを落として、ゆっくりと柴崎の服を脱がせ始める。
「……あ………」
ヒューの手が触れて、柴崎は甘い声をもらした。自分の声が恥ずかしくて口を塞いでしまう。
項から胸へとヒューの唇が降りていき、いつしか彼も服を脱いでいた。柴崎の綺麗な肌の感触を感じてヒューは目眩がしそうだった。
本当に彼に触れている……
確かめるように手を柴崎を愛撫した。柴崎はヒューの触れられたところから、熱くなっていく自分を感じていた。
「ヒュー………」
激しくなる快感に、柴崎はシーツを掴んで堪えた。
「あ!」
ヒューの指を感じてた柴崎は思わず足を閉じた。
「……ん………」
「怖い?」
「………………」
不安そうな彼の瞳が飛び込んでくる。
「大丈夫……優しくする………」
「……ヒュー………」
泣き出しそうな表情を浮かべながら柴崎は足を開いた。口付けながらヒューはその間に身体を入れる。とまどいながらも受け入れようとしてくれる柴崎がたまらなく愛しい。
柴崎は少し怖くて、とても恥ずかしいけれど、同時にとても幸せな気分だった。
「あ………!」
柴崎の身体が強い刺激を感じて跳ねる。
「ヒュー……そ、そんなとこ……あ……」
身体中を快感が駆け巡っていく。なんとか逃れようと身体をよじるが快感は大きくなるばかりである。柴崎の瞳から涙がこぼれた。
「あ…ああ…やだ…ヒュー……」
自分が濡れていくのが分かる。もっと大きな快感を求めているのも……
「……いい?……」
「……ああ……」
柴崎が頷くとヒューは彼の内にはいっていった。声をあげて逃げようとする身体を押さえて、ゆっくりと深く自分を沈めていく。
「…俺が……分かる………?」
「……ヒュー……」
柴崎の濡れた美しい瞳がヒューを見上げた。彼が自分の内にいる。改めてヒューの存在を感じて、柴崎は身をよじった。
「……あ……ヒュー………」
いつまでも動かないヒューにじれた柴崎は、足で何度もシーツを蹴った。乱れたシーツが濡れた身体にまとわりついてくる。
「…もう少し…このままで…シバを感じたい…」
「そ、そんな……あ……」
「……動くよ………」
「あ……うあ……ヒュー…あん……!」
二人は一つになって身体を激しく揺さぶらせた。
ヒューと一つになった自分を感じて、柴崎はたとえようもなく幸せだと思った。