※この話は映画「アンダー・ワールド」が元になっています。
そういった話が嫌いな方。映画のイメージを壊されたくない方は読まないで下さい。
お願い致します;
なお、映画の性質上、流血や残酷なシーンの描写がありますのでご注意下さい。
話の基礎となる設定の家系図です。こちら




ダーク・ワールド10

岩城はサミュエルの言った言葉がすぐに理解出来なかった。
ヴァンパイアに噛まれても、ヴァンパイアにならずにすむ方法があるなど、
今まで聞いた事がなかったからである。
「もちろん、トップシークレットだ」
サミュエルは驚いている岩城の心情を察して付け加えた。
「普通の人間ならヴァンパイアになど、なりたいとは思わないだろ。もし、
選択出来るとしたら感染しない方を選ぶ者が多い筈だ。だが、選べるのでは
困るのさ。自分が感染させたい者にはなってもらう。すべて自分がコントロ
ールする。奴隷制を好む、暴君のビクトルらしい考えだろ」
「……………」
この話が本当なら、感染して悪鬼と化した人間も救えたのではないか?
体内にアルヴァウイルスが入っても、身体が変化するまで一日以上の時間が
かかる。岩城は何度もそんな状態の人間をはがゆい思いで見てきた。
脳が完全に侵される前に、抗体を与えていれば…
デイ・ウオーカー達もそうだ。変化する前に、人間に戻せた者が大勢いたの
ではないか?
その時、異様な気配を感じ、皆は空を見上げた。
満月が厚い雲の中に隠れ、暗くなった空に不気味な影がいくつもこちらに向
かって飛んできている。
「…応援を呼んでいたか…」
サミュエルは舌打ちして岩城を見た。
「カミーラ、君は隠れていろ」
「もう、無駄です。あれは母の直属の親衛隊です」
羽をだして空を飛べるヴァンパイアは限られている。身体を変化させられる
者は、かなり濃い血の者でないと不可能なのだ。
血の濃さは、強さに比例する。
「…という事はヴァンパイア一族の秘密を知っている者達だな…」
親衛隊の者は屋根に降り立つと、羽をしまった。
「カミーラ様…一族を裏切ったのですか…?」
親衛隊長が前に出てきた。
「お前には分からないでしょう…」
岩城のほうに冷めた視線を向ける。
「貴様…ヴァンパイア一族の秘密を知ってしまったようだな…」
「…では、本当なのか…!」
「そうだ。どれもヴァンパイア一族の栄光の為だ。支配者は支配される者がい
てこそ成り立ち、繁栄していく」
「…俺の家族を殺したのは…」
「…長老方は人間の血しか飲まないのでな…仕方ない」
「…仕方がないだと…」
「ついでに貴様のような、ワーウルフの復讐の為に処刑人になる奴もいるから
な。一石二鳥だ」
「!なんだと…」
岩城は怒りで頭に血がのぼった。
ヴァンパイアとなったこの身を呪った事が何度もある。
家族を殺された悪夢に400年間、苦しみ続けてきた。その苦しみを悲しみを終わ
らせる為だと信じてワーウルフを殺し続けてきたというのに!
そのすべてが、嘘だったのか!?
本当の敵であるヴァンパイアに利用されていただけなのか!
「岩城さん…」
苦悶の表情を浮かべる岩城を見て、香藤は自分の胸が痛むのを感じた。
「秘密を知った以上、生かしておくわけにはいかん。皆、ここにいる全員を抹
殺するぞ!」
「しかし、カミーラ様は…」
「ソフィア様から了承は頂いている」
「お母様が!?」
「…さすが、ビクトルの妹だな…」
サミュエルが小さく呟く。
親衛隊が襲いかかってきた時、周りから変貌したワーウルフ達も応戦に屋根に
のぼってきた。周りは殺戮の戦場と化した。
「岩城さん!」
香藤は岩城を守ろうと、近くに行こうとしたが、ヴァンパイア達が襲いかかっ
てくる。
武器の扱いなど出来ないので、素手で払うが十分戦えた。その香藤の姿を垣間
見たサミュエルは
『やはり、他のワーウルフ達とは違う…桁違いの強さと可能性をもっている』
と確信した。
「岩城、やっと貴様を殺せるんで嬉しいぞ」
親衛隊長が真っ先に剣で岩城に襲いかかってきたので、岩城は剣を抜いて応戦
した。
「貴様のような平民の下衆が、ビクトル様の血を頂いているなど間違っている。
これで、貴様を消せる!」
この親衛隊長は貴族の出で、いつも平民クラスのヴァンパイアを侮辱していた。
親衛隊員の皆がそうなのだが、この隊長は人の尊厳を傷つけて喜ぶ差別主義者
だった。
「カミーラを安全な所へ!」
サミュエルの命令に二人のワーウルフが彼女を挟んでこの場所から連れ出そう
とした。
が、目にも止まらぬ速さで黒い影が降りてきて、カミーラの喉を切り裂いた。
「ぐっ!」
「カミーラ!」
彼女は床に倒れ、傷口からとめどなく血が流し、苦しそうに息を喘ぐ。
「カミーラ…よくも、母を裏切ってくれたな!」
舞い降りてきた黒い影はソフィアだった。
近くにいたワーウルフがソフィアに襲いかかったが、圧倒的な力でやられてし
まう。
「ソフィア様!」
「全員殺せ!」
ソフィアは瀕死の状態のカミーラを親衛隊員に抱させ、空に羽ばたいた。
「追うぞ!香藤、急げ!」
「で、でも…!」
香藤が岩城を振り返ると、床に血を流して倒れる彼に、隊長がとどめをさそう
としているところだった。
「やめろ!」
恐怖にかられた香藤は隊長に飛び掛り、彼の身体を跳ね飛ばした。
「岩城さん!しっかり!」
抱えあげた岩城の傷は、サミュエルにやられた時と同じくらい重症だった。
傷口から骨がのぞき、出血が止まらない。
「…岩城さん…岩城さん…!」
気を失っている岩城の身体を香藤は揺さぶった。
「香藤!何をしている!行くぞ!」
「駄目だ!彼を置いていけない!」
「ヴァンパイアの処刑人を連れていけと言うのか!出来る訳ないだろ!」
他のワーウルフはカミーラを追い掛け、親衛隊はそのワーウルフを追いかけて
行ったので、この場には三人しか残っていなかった。
ソフィアがいる以上、自分が行かなければカミーラを奪い返す事は出来ない。
そして、彼女を奪い返した時、すぐに香藤に感染させなければならない。その
為に香藤を連れていかねば。
『やむをえん』
サミュエルは香藤を気絶させようと拳を突き出したが、香藤に止められた。
『なに!?』
驚いたサミュエルは、次の拳を出したが、それも香藤はなんなく払った。
彼の瞳は強い意志を宿している。
自分にこれ程拮抗出来る力を身につけているとは…
サミュエルは驚愕し、同時の感心した。
「…分かった…その処刑人を安全な所に運んだら、基地に急いで帰ってこい…
そこで落ち合おう…いいな…」
これ以上、時間を無駄にする訳にはいかないので、サミュエルは諦めて香藤に
言った。
「ありがとう…」
「…基地には連れてくるな…俺といえどもヴァンパイアの処刑人を庇う事は出来
ない」
「…分かった…」
「…助けたければ血清か血を与えるしかないぞ…」
サミュエルは、そう言い残して消えた。
「…岩城さんしっかり…絶対に助けてみせる…」
香藤は息が絶え絶えになった岩城の身体をなんなく抱え、軽々と大きく飛んだ。
もやは、香藤の身体能力は人間を遥かに超越していた。
     *
香藤が降り立ったのは、自分がかつて暮らしていたマンションのベランダだっ
た。
まだ、部屋が空いている事を祈って来たのだが、幸い、香藤が出て行った時の
ままだった。
窓ガラスを割って、鍵をあけると急いで寝室に向かう。
ベッドに岩城を寝かせるが、意識は戻らず、息がどんどん小さくなってきてい
た。
「…岩城さん…」
このまま岩城は戻らないのではないか…
考えるだけで香藤は絶望の淵に立たされたような気持ちになる。
胸が苦しくて、つぶれそうだ…
『血清か、血を飲ませなければ…でも、血清なんてないし、浅野教授に連絡を
取るか?だが、間に合うか?』
香藤はふと思いたった。
『血を飲ませる…俺の血なら…』
ウイルス同士の影響がないのは確認している。
香藤は意を決して自分の手首を食いちぎった。
流れ出る血を岩城の口に注ぎ込む。
すると、岩城の傷口があっという間に塞がりだした。
「やった!」
香藤は思わず喜びの声をあげる。
「…うう…」
「岩城さん!気がついた!大丈夫?」
「…香藤…か…」
「そうだよ。身体はどう?」
「…あ…!」
岩城は大きく身体をのけぞらせた。激しく息をつき、胸を上下させ始める。
「岩城さん!どうしたの!?」
血の影響だろうか?
香藤の脳裏に不安がよぎる。
しかし、自分の血ならアルヴァウイルスを死滅させない筈なのだ。
「…身体が…」
「岩城さん、何?どうしたの?」
「…熱い…」
自分の身体に何が起こったのか、岩城は分からなかった。
身体の内部から熱が湧き出し、指先まで痺れてくる。
同時に淫らな、欲望が滲み出してくるのを感じる。
人の血というものを岩城は初めて味わった。
こんなにも、甘美な妖しいものだったとは…
「…あ…あ…」
自分を支配していく、激しい欲望の熱に、岩城は身を捩じる。
頭の中が溶けて、何も考えられなくなってくる。
ただ、この熱の開放を望んでいた。
「…岩城さん、苦しいの?」
岩城は潤んだ瞳を香藤を向ける。その視線に射抜かれた香藤は身体中の血が沸騰
した。
それは欲情した瞳だったからである。
岩城が肉欲の熱に悶えているのを香藤は悟った。
「…香藤…」
耐えられなくなった岩城が香藤にしがみつき、激しく口付けてきた。
舌をからませ、熱い息が香藤の中に侵入してくる。
「…う…ん…」
香藤はその時、自分が岩城を愛している事に気がついた。
初めて会ったあの時から、自分は心を奪われていたのだ。
ずっと岩城を欲していたのだ。
「…岩城さん…」
情熱の炎を燃やした香藤が岩城に覆いかぶさり、激しく彼の唇をむさぼると、それ
に応えてくる。
二人はシーツの上に身体を投げ出す。
「…あ…香藤…熱い…」
熱から少しでも逃れようと、岩城は着ていたシャツの襟を自ら広げた。
乱暴な動作に、シャツのボタンがとれて弾け飛ぶ。
月明かりの照らされた彼の白い肌は、青白い輝きを放っている。
そんな岩城の動作のひとつひとつが、濡れた瞳が、まるで香藤を誘っているかのよう
である。
香藤はそれを見て、何もしないでいられる程、聖人ではなかった。
我慢出来ずに岩城に激しく口付ける。
岩城の唇は、甘い血の味がした…




H21.5.18

やっと、ここまできましたか…
初めに思い付いたこのシーンやっと書けました〜;どんだけ、かかってんだ…;