※この話は映画「アンダー・ワールド」が元になっています。
そういった話が嫌いな方。映画のイメージを壊されたくない方は読まないで下さい。
お願い致します;
なお、映画の性質上、流血や残酷なシーンの描写がありますのでご注意下さい。
話の基礎となる設定の家系図です。こちら




ダーク・ワールド12

ヴァンパイア一族の使う周波数を利用して、岩城は無線機を盗聴してワーウルフ
の隠れ基地の場所を詳しく探った
駆け付けた時は、逃げ道である地下道で、すでにヴァンパイアとワーウルフとの
戦いが始まっていた。
銃撃戦の他にボーガンの矢や小剣などが飛びかっている。
数のうえではヴァンパイアの方が勝っており、ワーウルフは押され気味であった。
ほとんどのワーウルフは基地から去っていて、サミュエル引き入る数人しか残っ
ていなかったからである。
その中には香藤もいた。
「香藤!あまり前に出るな!」
「でも…」
銀の弾丸が頬をかすめ、香藤は少し後ろに下がった。
銃を撃ったり、剣を扱うなどの訓練をしていない香藤は、怪我人の手当てをする
だけの自分が悔しかった。
「ヴァンパイアは何人いる?」
動きを探知するセンサーを覗いていた部下にサミュエルが尋ねる。
「21です」
「こちらは6人か…なんとか突破口を開いて散ろう」
少ない人数では散らなければ、まとまっていては一度やられてしまう。ヴァンパ
イアが爆発物を使用出来ないのは、近くに配水管が通っているからである。爆発
の衝撃で配水管が破裂して水が流れ込んできてはたまらないのだ。水に弱いヴァ
ンパイアはそれで大きな攻撃が出来ないのである。が、それもこの場所にいる時
だけだ。
「あ!応援がきたようです。一人増えました」
「鼠などではないのか?」
「体温が摂氏28度。ヴァンパイアです」
「…応援が一人では解せんが…」
次の瞬間、ワ−ウルフに銃を撃っていたヴァンパイアの身体が吹っ飛ぶ。
「香藤、いるのか」
「岩城さん!」
香藤は岩城の声を聞いて、大声をだした。
俺が心配で来てくれた?!
命が危ない状況なのに、嬉しくて仕方なかった。
「岩城!この裏切り者が!」
襲いかかってくるヴァンパイア達を、岩城は剣を抜き放って気絶させていく。
「こっちへ!」
岩城の声にサミュエルは迷っていたが、香藤が飛び出したので仕方なく後に続く。
「みんな、続け!」
ワーウルフ達は銃や剣で応戦しつつ、下水道を走り抜けた。
「散れ!」
サミュエルの合図で二手に分かれる。
「岩城さん…傷は大丈夫なの?」
「…大丈夫だ…」
「…助けにきてくれたの?」
「…お前には貸しがあるからな…それだけだ…」
「ありがとう…」
「礼はここを切り抜けてから言え…」
岩城は恥ずかしくて、香藤の顔がまともに見れなかった。
だが、岩城の心は何故か晴れていた。
今まで戦っていた時とは比べ物にならない程、充実感を覚える。
…これまでの400年間の戦いは、どこか空虚だった。
どれだけ憎いワーウルフを殺しても、大切な家族はかえってこない…
分かっているけれど、自分という存在を肯定する為には何かしていなくてはなら
なかった。
一体、何の為に生きているのか…
ただ、自分の苦しみを誰にも味わって欲しく無い。
だから、原因を生み出すワーウルフを殺さねばならない。そう考えて戦ってきた。
疑問を感じても、見ないようにしてきた。
本当はどこかおかしい事に気づいていたのに…
自分は目を背けていたのだ。
でも、今は違う。
真実を知り、信じられる人が側にいる…
そして、この人を助ける為に戦っている。
復讐などではなく、命を守る為に戦っているのだ。
走る香藤、岩城、サミュエルの前に、ヴァンパイア達が襲いかかってくる。三人
は応戦していたが、突然、突風のごとき影が香藤に襲いかかった。
「ぐっ!」
剣が香藤の胸から突き出ている。
「!香藤!」
「…何!」
香藤が地に倒れ伏した後、そこに立っていたのは
「ソフィア…」
「貴様は私の手で葬ってくれる」
ソフィアがサミュエルに襲いかかり、二人は激しい攻防を繰り広げる。腕は実戦
経験の勝るサミュエルの方が上だが、他のヴァンパイア達の攻撃も躱しながらで
は、なかなか決定的な一撃をソフィアに出せない。
サミュエルがソフィアと他のヴァンパイアを引きつけているうちに、岩城は香藤
の側に駆け寄った。
「香藤!しっかりしろ!」
「…岩城…さ…」
抱き起こすと、香藤は口から血を吐いて意識を失った。顔が土色である。
胸にぽっかりと大きな穴が開き、そこからドクドクと血が流れ続けている。心臓
はすでに止まっていた。
「香藤!目を覚ませ!」
岩城は例えようもない喪失感と恐怖を感じていた。
香藤が死んでしまうかもしれない…
どうすればいい…
岩城は自分の中で香藤の存在が、信じられない程大きくなっている事に初めて気
づいた。
俺はまた失うのか!大切な人を!
「岩城とやら」
サミュエルが岩城と香藤を庇うように前に立つ。
「噛め…」
「…え…」
「香藤を噛め。感染させろ」
「…なに…」
「アルヴァウイルスに感染させろ!彼は死なん!」
「……しかし…」
「助かる道はそれしかない」
昨夜、戦っている時に聞こえた話で、サミュエルは岩城がビクトルから血をもら
ったのを知っていた。
大老からの血を受け継いだ者なら、その血の濃さは長老と同じ筈。
必ず変化する。
岩城は意を決して、香藤の喉に牙をつきたてた。
暖かい血が牙を通して伝わってくる。
彼の暖かい血が…
甘いその蜜を味わいたい欲望が込み上げてくるが、岩城は必死にこらえ、血を飲
み下さないようにした。
「岩城!いったぞ!」
サミュエルの脇をすり抜けた翼をもったヴァンパイアが岩城に飛びかかってきた。
岩城は剣を抜き、なんとか攻撃を受け止めたが、剣を跳ねとばされ、大きく後ろ
に吹き飛ばされてしまう。
壁に背中を大きく打ち付ける。
「う!」
「岩城、今度こそ息の根を止めてやる!」
ソフィアの親衛隊長が岩城に剣で攻めてくる。岩城は避けるのに精一杯だった。
が、その隊長の動きがいきなり止まる。
「?」
岩城は何が起きたか一瞬分からなかったが、見ると隊長の首がなかった。
首なしとなった胴体から血飛沫が吹き出す。
「…な…」
後ろを見ると、香藤が隊長の首を持って立っていた。あまりに早い香藤の動きに、
岩城の目が追い付かなかったのである。
「…香藤…助かったのか…」
胸の傷は完全にふさがっている。
岩城は香藤が助かった喜びで心が熱くなるが、彼の様子がおかしい事に気づく。
「…香藤…?」
瞳がいつも彼ではなかった。
真っ黒に塗りつぶされた暗黒の瞳。
冷たい、見つめられただけで、凍えるそうになる瞳だった。
香藤はヴァンパイアの戦士達に向かい合った。
轟くような咆哮をあげる。
周りのすべてのものを圧倒するワーウルフの咆哮だった。
しかも、香藤の背中からヴァンパイアの翼が現れる。
「…ついに新しい可能性が誕生したな…」
そう呟いたサミュエル以外は何が起こったのか分からず、全員呆然としていた。
沈黙を破ったのは香藤だった。
翼を広げて大きく跳ぶと、ヴァンパイアの戦士に襲いかかった。戦士達に反撃の
隙も与えない程素早い動きで、鋭い爪で首を跳ねていく。
「くそ!」
見ていたソフィアが、香藤の後ろから襲いかかる。
「香藤!」
岩城はソフィア目掛けて剣を投げるが、ソフィアは簡単に弾き飛ばした。が、次
の瞬間、ソフィアの心臓に剣が突き刺さっていた。
「…な!なに…!」
ソフィア自身、信じられない、と言った表情であった。
「…貴様…」
ソフィアはサミュエルを睨み付けた。
「カミーラの仇だ…実の娘さえ手にかけるお前に情けは必要ない…」
岩城が剣を放った瞬間、サミュエルも剣を投げていたのである。ちょうど、岩城
の投げた剣に隠れるようにしたので、ソフィアは気づかなかったのだ。
ソフィアの身体が地面に倒れるのを見て
「…ソ、ソフィア様がやられた…」
大老がやられるという事実にショックを受けたヴァンパイア達は、逃走し始めた。
それを香藤が追おうとしたので、岩城が急いで止めにいく。
「香藤!よせ」
しかし、香藤は止まらない。
「もう、いいんだ。逃げていく者を追う必要はない!」
だが、すごい力で振払われる。岩城は香藤の胸にしがみついて必死に止めようと
した。数メートル引きずられると、香藤が足を止めた。
「…あ…あれ?」
岩城が顔を見上げると、そこに優しい瞳をしたいつもの香藤がいた。思わず、ほっ
と息をつく。
「…い、岩城さん…どうして俺に抱きついてんの?」
「え?…ち、違う!これは…!」
急いで離れると香藤が少し淋しい顔をした。
「え〜と…俺、どうしたの?」
「覚えてないのか?」
「…うん…背中にすごい激痛を覚えて気を失ったとこまで…気がついたら岩城さ
んが俺に抱きついてて…」
顔をへにゃ、とさせる香藤を見て、先程の圧倒的な存在感はどこにいったのかと、
岩城は呆れた。
「貴様達…これで助かったと思うな…」
虫の息のソフィアが最後の恨み言を呟く。
「…私が死んでも…ビクトルがいる…彼が目覚めれば貴様らなど…」
そう言い残してソフィアは灰になった。
「…確かに…戦いはこれからだな…」
「サミュエル…」
「香藤。身体は大丈夫か?」
「ああ、全然。すごく気分が良くて、力が漲っている感じがする」
「では、皆と急いで合流しよう」
「悪いがサミュエル…俺はいっしょに行けない」
「何?」
「俺は彼といっしょに行く」
香藤は岩城に振り向く。狼狽したのは岩城の方だった。
「な、何いってるんだ香藤」
「手紙読んでくれた?俺は岩城さんといっしょにいるって言ったでしょ」
「…ば、ばかな事言うな…俺はヴァンパイアで一族から追われる身だ」
「だから?」
「だからって…味方は誰もいないんだぞ。そんな俺といっしょにいたら命がいくつ
あっても足りんぞ」
「俺がいるよ…」
「…え…?」
「岩城さんは一人じゃないよ。俺がいるから…」
「香藤…」
「…分かった…何を言っても無駄みたいだな…」
「ごめんね、サミュエル」
「定期的に連絡は取り合おう。ヴァンパイアと戦うという目的はいっしょだからな。
だが、処刑人だった者を味方とみなす訳にはいかん。そのところの事情は分かって
くれ」
「ああ…分かっている…」
「ソフィアが言った通り、ついにビクトルが目覚めてくるだろう…戦いはもっと過
酷になるぞ。覚悟しておけ」
「マイケルの他にドラクルも目覚める可能性があるのではないか?」
岩城の言葉にサミュエルが言葉を返す。
「いや…ドラクルは目覚めない…眠りについてから一度も目覚めた事はない」
「なんだって?」
「では聞くがドラクルに会った事は?」
「…いや…ないが、大老は百年ごとに交代で目覚めて、いろんな土地から一族を管
理しているから、遠くの土地にいるのだろうと思っていた」
「ドラクルの正体は始祖のマイケルだ」
「何!」
「ビクトルはマイケルに始祖ではなく、大老の身分に落ちろと約束させた。自分よ
り上の者がいないようにな。そして、大老が交代で眠りにつくシステムも、マイケ
ルを封印させるのが目的で考え出されたものだ」
「そんな…」
「実際にはビクトルとソフィアが交互に目覚めていたのだ。ヴァンパイアの処刑人
やデイ・ウォーカーは寿命や戦いで大体200年程で死ぬ…君のように400年生きて
いる者は滅多にいないから、気づかないという訳だ」
「……………」
「…じゃあ、そのマイケルを目覚めさせれば、力強い味方になってくれるかも…」
「そうだ、香藤、カザウェルもな。まずはどこに封印されているか調べねば…」
「…ああ…」
「香藤…お前には無限の可能性がある。決して死ぬなよ…」
「俺も死にたくないよ。大丈夫だ」
「じゃあな…」
笑顔を浮かべてサミュエルは去っていく。
「…香藤…いいのか…サミュエルといっしょに行かなくて…」
「言ったでしょ。俺は岩城さんといっしょにいたいって。嫌なの?」
「嫌とかそういう問題じゃないんだ…本当に危険…」
香藤は指で岩城の唇を押さえて言葉を封じる。
「嫌じゃないなら、いっしょにいさせて…」
「…香藤……」
腕を回して、香藤は岩城の身体を優しく抱き締めた。
「…愛してる…」
岩城は抵抗もせずに、その暖かさに包まれていた。
どうしてなんだろう…
と、岩城は不思議だった。
状況は絶望的である。
最強の戦士であるビクトルを敵にまわし、すべてのヴァンパイア一族から追われる
というのに。
ワ−ウルフと仲間にもなれず、味方になってくれそうなマイケルの行方も分からな
い。
それなのに、岩城の心には希望の光が宿っていた。
香藤がいっしょだからだ…
彼だけが、信じられる自分の味方なのだ。
暗闇の中で彷徨い、憎しみと哀しみで目を閉じていた時とは違う。
今の自分は真実が見える。
成すべき事を知っているのだ。
「…香藤…」
岩城は香藤の背中にそっと手を回す。
彼を愛しているのか、岩城には自分の気持ちが分からなかった。
それでも、大切な人だという事は分かっている。
自分に希望を与え、あの世界から連れ出してくれたのは彼なのだ。
ダーク・ワールドから希望のみえる世界に…




H21.6.12

や、やっと終わりました〜;あと2回ぐらいかな〜と思っていたのですが、
これ以上伸ばしてはいかん!と思って終わらせました〜;す、すみません…
なんか中途半端な終わり方で…;
で、でもこの話の元になる「アンダー・ワールド」もこんな感じで終わって
るんです;
はあ〜本当にこんなに長くなるとは…;計画性のなさが命とりに…;
二人の情事のシーンですが「想いが通じ合ってない」ので、情愛より肉欲的
な感じにしよう、と思って書いたつもりなんですけど、あ、あんまり伝わら
なかったですかね〜;うごごご〜;ぶ、文才の無さも命とりか…;
本当におつき合い下さって、お読み下さった方、
ありがとうございましたm(__)m