※この話は映画「アンダー・ワールド」が元になっています。
そういった話が嫌いな方。映画のイメージを壊されたくない方は読まないで下さい。
お願い致します;
なお、映画の性質上、流血や残酷なシーンの描写がありますのでご注意下さい。




ダーク・ワールド3

病院に大遅刻をして出勤した香藤は、教授からこっぴどく怒られた。が、すぐに気にして
いる暇もない程忙しくなり、それ以上叱られる事も嫌味を言われる事もなかった。
仕事が終わったのは日付けが変わろうとしている時刻だった。
香藤は誰もいなくなった実験室の部屋で一人居残った。
あの男が残していった血液を調べる為である。
鞄の中から袋を取り出し、その袋の中からジャケットを取り出し、ポケットの中から彼の血
のついたハンカチをそっと取り出した。照明は出来るだけ落としているが、消えていかない
か慎重に確認しながら机に置いた。
緊張しているせいか、胸が高鳴り、冷や汗が出てくる。
「ふー」
大きく息を吐いて血のサンプルを採取する準備をした。

自分の研究室で調べものをしていた浅野教授は、パソコンの警告音に身体を強張らせた。
『誰かが、ヴァンパイア一族の血を調べているな。どこだ?』
浅野教授は自分が及ぶ範囲のネット界に網をはり巡らして、誰かがヴァンパイアの血やサン
プルを調べると、どこのPCが使われているか分かるようにしてある。
もちろん、これは違法だが、人間でないものに人間の法律が通用するしないのは身にしみて
分かっている。今さら、という気持ちであった。
『場所は…なに!この大学病院内だと!』
はじき出された場所が、今自分のいる大学と隣接している病院だと分かって、浅野教授は驚
愕した。同時に恐怖にも似た不安と焦燥感に襲われる。
自分の聖域であったここでも、ついに殺戮が行われるのか…と。

「なんだ、こりゃ?」
顕微鏡を覗いていた香藤は思わず声を上げた。
血の分析を試みたが、コンピューターは『分析不可能』とはじきだしてきた。
量が少なかったのか、変質してしまったのか、と思い、今度は自ら顕微鏡で見てみたのだが、
それは今まで見た事もないような形をした血液細胞だった。
『赤血球も白血球も血小板も数が多すぎるし変質している。特に赤血球の変質が著しいな…
ウィルスか何かによって変化したような…』
未知の領域に踏み入った香藤は、研究員の顔になって夢中で顕微鏡を見つめていた。その為、
部屋に誰かが入って来た事に気がつかなかった。
「…何をしている…」
「うわ!」
いきなり後ろから声をかけられ、香藤は驚いて飛び上がる。
振り返ると、遺伝子研究の教授である浅野教授が立っていた。
「浅野教授…驚かさないで下さいよ…」
「…………」
「…ちょっと調べたいものがあって…あ、そうだ、教授も見て下さいますか?出来れば見解
を聞かせて頂きたいのです」
浅野教授はかなりの高齢だが、その道の権威である。65歳を過ぎて退職したが、まだ大学内
に個人研究室を持つという破格の待遇を許されている身である。
「…………」
「ある人の血液なんですか、普通の人の血液とかなり違っているんです。ウィルスによって
変質したかもしれないんですが…」
「…アルヴァウィルスだ…」
「は?」
「…血管に入るとあっという間に他の血液細胞に取付き、変化させる。急激な細胞の変化に
堪えられず、脳に異常をきたす者もいる…」
「…教授?」
「異常をきたした者は血を求めてさまよう悪鬼と化すが、ウィルスを克服した者は不死身の
肉体となる。血からの生命エネルギーの補給さえ怠らなければ、歳を取る事もない。驚異的
な治癒能力によって、普通の人間なら死に至るかもしれない外傷もたちどころに治る。一部
の決定的な弱点を除いては、ほぼ無敵の肉体となる…」
「…教授…あなたは知っているんですね?」
彼はこの血液の正体を知っている?新しい病例だろうか?
そう香藤が考えた時、教授は懐から銃を取り出して自分に向けた。香藤は一瞬何をされてい
るか理解出来なかった。
「…あの…教授?何かの冗談ですか?」
もしかして玩具の銃で俺を驚かせようとしているのだろうか?引き金を引いたらお花が飛び
出してきたり?
などと思おうとした香藤だったが、教授の青ざめた真剣な表情を見て、冗談ではない、と悟
った。
「…この血液をどこで手にいれた?」
「…聞いて、どうするんです…?」
「…いいさ…聞くのは私ではない…連絡をしておいたから、すぐに現れる。話した後は処分
されるだろうが、私を恨まんでくれよ…」
「処分は困る」
知らない男の声とともに、教授の身体が宙に飛んだ。投げ飛ばされた教授の身体は壁にぶち
当たって地面に転がった。香藤が呆気にとられながら、教授を投げ飛ばした男を見つめた。
日本人ではなく外国人でかなり毛深い男性だった。香藤はやけにぎらついた男の蒼い目を気
味悪く思う。
「さあ、いっしょに来てもらおうか」
英語で話しかけてくる。
「どこに?」
「闇の世界(ダークワールド)だ」
「そいつはごめんだ」
香藤は机の下にあったスイッチに手をのばして、部屋の明かりを消した。男が一瞬、怯んだ
隙に机を飛び越え、処置室に入った。暗闇で見えなくともどこに何があるのかは身体が覚え
ている。ドアを素早く閉め、緊急ベルを鳴らす。辺一面にサイレンの音が響きわたり、赤い
非常照明灯が点いた。
香藤が奇怪な出来事に、こうまで冷静に対処出来たのは、昨夜のせいか免疫がついているか
らだろう。
処置室のガラスの窓から狼狽える男の姿に、香藤はふふふん、と鼻を鳴らした。
『これで、すぐに人が駆けつけ来る。俺はそれまでここ閉じこもっていればいい。やったね!』
喜んだの束の間、次の瞬間、処置室のガラスの窓を体当たりで突き破って男は入ってきたの
である。
ガラスの破片が香藤の足元にまで飛び散ってくる。
「嘘だろ〜」
愕然としつつ、香藤が入ってきた男の顔を見ると、闇の中で目が光っていた。口元から唾液
を垂らし、無気味な鼻息を鳴らす。昨日の夜に見た毛むじゃくらの怪物のように。
『こいつらは一体なんなんだ!』
押さえていたドアから香藤は急いで外に飛び出した。
床に倒れている浅野教授の姿が目に映るが、構っている暇はなかった。
サイレンが鳴り響く廊下を走っていると、途中で駆け付けた警備員と遭遇する。
「何があったんです?」
「…え…と…変な外国人が浅野教授に飛びかかったんだ。浅野教授は実験室で倒れている」
「分かりました。我々が見てきますので、あなたは警備室に避難していて下さい。場合によ
っては警察に連絡します」
警備員は香藤に告げると走り去っていった。香藤は自分もいっしょにいった方がいいだろう
か、と思うが、あいつらの狙いは自分であるようだから、彼等に直接危害を加える可能性は
低いと考えた。
むしろ自分は離れた方がいいだろう。
香藤は警備室に向かわず、大学を離れようと考えた。急いでエレベーターに乗り込み1階の
ボタンを押す。
1階に着いてエレベーターの扉が開くと、実験室で香藤を襲った外国人がいた。
逃げる間もなく香藤は胸ぐらを掴まれ、ものすごい力で外に投げ飛ばされる。反対側の壁に
ぶつかり床に倒れた。
「…う…」
背中をしたたかに打って、息をするのも苦しかった。男がまた胸ぐらを掴んで、香藤の身体
を壁沿いに高く持ち上げる。
「これ以上痛い目をみたくなかったら、もう、逃げようなんて思うなよ」
息も絶え絶えになりつつも、脅す男の顔を睨み付けた香藤だったが、その男の容貌を見て驚
愕する。
男の目は闇の中で爛々と輝き、口からは泡が吹き出ていた。
だが、その顔の輪郭は人間のものではなかった。鼻と顎が異様に前に突き出ており、口先が
頬のあたりまで裂けている。顔全体は毛で覆いつくされ、身体もシャツの破れ目から毛が飛
び出していた。
まるで、雪男のような…いや、顔の輪郭は犬のようで…
その時、香藤の脳裏に一つの単語が浮かんできた。
『…狼人間…そんな…ばかな…』
香藤の思考は轟いた銃声音によって中断される。
男がうなり声を上げて腕を押さえたので、香藤の身体が離され床に落ちた。
男と香藤が振り向くと、明かりの消えていた廊下の端に誰かが立っているのが目に入る。
黒いロングコートをなびかせた黒髪の男。
昨夜会った、あの美しい男であった。蒼白い月のように冷たい彼。
香藤の胸の鼓動が途端に早鐘を打ち始めた。




H21.3.12

この話の元ネタである「アンダー・ワールド」ですが、今週末にまた新しい映画が公開
されるみたいです。
そんなに人気あったんだ〜でも、三木さんの声の俳優さんは出ないみたいで;なんで〜;
出せよ!(怒)彼がいなくちゃ話にならんじゃん!プンプン!
まあ、多分観に行くと思いますけど;気になるから;