※この話は映画「アンダー・ワールド」が元になっています。
そういった話が嫌いな方。映画のイメージを壊されたくない方は読まないで下さい。
お願い致します;
なお、映画の性質上、流血や残酷なシーンの描写がありますのでご注意下さい。
話の基礎となる設定の家系図です。こちら




ダーク・ワールド5

浅野が兄から連絡をもらい、大学に駆けつけた時は、誰もいなかった。
仲間と共に急いで死体の処理等後始末を行い、証拠を隠滅した。
警備員の通報によって警官が調べに来て、浅野は話を聞かれたが、いつも
のように上手く誤魔化した。
警察は浅野教授は誘拐された可能性がある、と話していた。
浅野は不安そうな表情を作って話を聞いていた。
警察から解放されて家に帰った時、兄である浅野教授から電話がかかって
きた。
「兄さん、どこにいるんだい?ワーウルフが襲ってきたのか?岩城さんは
無事かい?例の人間は?」
『落ち着け、順番に話すから』
浅野教授と浅野伸之の関係は、世間的には祖父と孫、という事になってい
るが、実際は兄弟である。
浅野が母親のお腹にいた時、ワーウルフに襲われたのだ。
すぐに駆けつけたヴァンパイアの処刑人によってワーウルフは殺され、浅
野達は間一髪で助かったのである。
しかし、父親はその時、死んでしまった。母親と子供だった兄も重症を負
う。
兄はなんとか助かりそうだったが、母親は虫の息だった。
そこで、助ける為にヴァンパイアの処刑人は彼女に血を与え、仲間にした。
残念ながら、母親はウィルスに脳を侵され、悪鬼と化してしまった。お腹
に子供がいたのですぐに処分されなかったが、浅野を産むとすぐに処分さ
れ、灰となった。
お腹にいた浅野は遺伝子に変化が生じて、半吸血鬼(デイ・ウォーカー)
となったのであった。
太陽の光を浴びても大丈夫だし、身体能力も高いが、完全なヴァンパイア
と違って怪我をしてもすぐに治らない。
食事も普通だが、時々血を欲する。が、大した量ではないので「悪性の貧
血」という事にして一ヶ月に一度、輸血を受けていれば大丈夫だった。
日ごろの生活では、ほとんど普通の人間と変わりないが、年をとるのが極
端に遅いのである。
本当なら兄とは5歳違いなのだが、今では40歳ぐらい違って見える。
そこで、祖父と孫という家族構成にしているのだ。
話合った結果、物取りに襲われて怖くなって逃げた、という事にした。目
撃者である香藤は抑えてあるので、問題ないだろう。
彼が不死者の末裔なのかどうか確かめなくては…
どちらにせよ、彼はヴァンパイアの血の正体を知ってしまっている。
ヴァンパイアの協力者になるか、死ぬか…どちらかしか道は残されていな
い。
『だが伸之…一つ気になる点があるんだ』
「何?」
『…奇襲してきたワーウルフの中にサミュエルがいたんだ』
「なんだって!ワーウルフの長の!?」
『そうだ、余程の確証がなければ出て来ないと思うんだ。大体、ワーウル
フどもはどうやって香藤の事を知ったんだろう?』
「…確かに…」
『もしかしたら、情報をワーウルフに流した奴がいるかもしれん…』
「裏切り者がいるとでも!?」
『可能性はある…』
「…………」
     *
変な物音がして岩城は目を覚ました。
不審に思ってベッドから出て、部屋を出る。
医者である兄と兄嫁といっしょに日本を出て6年近くになるが、岩城は今
だにベッドに慣れず、寝つきは悪かった。
しかし、日本を離れたことを後悔はしていなかった。世界をこの目で見る
のが岩城の夢だったからだ。
あらゆる書物を読み、たくさんの人と出会い、多くの知識を得る事が出来、
このポルトガルで教師という職業につけた。
医者としての兄の評判は高く、近所の人々は東洋人という差別をせずに、
皆、親切である。
3年前に兄夫婦は可愛い娘も授かり、幸せの絶頂だった。
部屋を出て玄関に行くと、戸が開いているのが見えた。岩城は急いで駆け
寄ったが、後頭部に衝撃を感じて気を失ってしまった。
目を覚ました岩城が見たのは、血の海と化した我が家だった。
岩城は悲鳴をあげた。
「…さん…岩城さん!」
誰かの呼ぶ声で岩城は目を覚ました。知らない男が心配そうな瞳で覗きこ
んでいるのが目に入る。
「…あ…」
「大丈夫?すごくうなされていたけど…」
『…こいつは…』
そうだ、確か香藤とかいう不死者の末裔かもしれない男だ…
また、あの日の悪夢を見てしまったらしい…
自分が人間だった最後の夜…
兄夫婦と幼い姪を殺したワーウルフに復讐を誓った夜…
自分の未来に希望があると信じていた時の…
もう、400年も昔の事なのに、決して岩城を離さない悪夢である。
岩城がほっと力を抜いた時、自分が香藤の胸に抱かれ、彼の腕にしがみつ
いているのに気がついた。
急いで手を離して香藤から離れる。恥ずかしくて少し顔が火照るのを感じ
た。
「大丈夫?」
突き放すように身体を離した岩城を心配そうに見つめてくる。
どうして?この男はそんなに優しい瞳で見つめるのだろう…
岩城は香藤に見つめられて、落ち着かない気分になってきた。
「…ここは?」
「浅野教授の隠れ家だってさ。ドアに鍵がかけられているから出れないよ」
「…………」
香藤を逃がさない為か…
もう、肉片のサンプルを採取する必要はなさそうだ。この男はアルヴァ
ウイルスの存在を知っている。
基地に連れて帰り、不死者の末裔か確認した後で、選択を迫るしかない。
ヴァンパイアの協力者になるか、死ぬか?
それともヴァンパイアとなるか…
しかし、仲間にするには長老の許可がいる。
不死者の末裔を仲間にするだろうか?
アルヴァウイルスによって不死者の血が変質しかねないから、その可能
性は低い気がする。
立ち上がった岩城は眩暈を感じて、座り込んでしまった。昨日の深手で
大量に出血したので貧血を起こしたようだ。そういえば、傷が治ってい
る?誰かが血清を打ったのか?
「岩城さん、大丈夫?無理しちゃ駄目だよ。すごく大きな傷だったんだ
から」
香藤が駆け寄り、岩城の身体をささえてベッドに座らせる。
「…お前が…?血清を?」
「注射の事なら、教授に言われて俺が打ったよ」
「…………」
「…岩城さん…人間じゃないんだね…」
「…………」
「もしかして、吸血鬼ってやつ?」
「…そうだ…」
「そっか…そうじゃないかな〜って思ったけど。やっぱりね」
「…お前…怖くないのか?」
「別に…。なんで?」
「…なんでって…俺は吸血鬼だぞ。お前の血を吸って殺すかもしれな
い…」
「そのつもりなら、とっくに吸ってるんじゃない?」
「…………」
「俺が分かってるのは、岩城さんが俺を助けてくれたって事…」
「…………」
「ありがとう…」
香藤が優しい微笑みを浮かべたので、岩城は目をそらした。彼の太陽の
ような微笑が自分にはまぶし過ぎると感じたからだった。
どうして、そんな優しい笑みを向けられるのだろう?
恐れも軽蔑も残酷さも微塵も浮かんでいない瞳で、どうして見つめられ
るのだろう?
人間でない、ヴァンパイアである自分に…
     *
サミュエルは持ち帰った香藤の肉片を分析するよう研究班に命じた。
そして、結果が出た。
「間違いありません。彼は不死者の末裔です」
「…ついに、やったな…」
「早速、保護しに向かいましょう」
「いや、彼の方から会いに来る」
「というと?」
「彼は俺に噛まれた…ワーウルフのウイルスであるヴォルグウイルスによ
って次の満月までに体内が変化するだろう」
「しかし、危険では?」
「内通者から連絡が来る筈だから、それまで動かない方がいい。幸い、今
目覚めているヴァンパイアの大老はソフィアだ。ビクトルと違ってすぐに
は殺さんだろう」
ヴァンパイアの頂点に君臨する大老は3人いるが、二人が眠りにつき、一
人が目覚めてヴァンパイア族を統治する仕組みになっている。
100年ごとに交代が行われている。表向きは…
「…分かりました」
「やっと見つかった俺の一族の末裔を、むざむざ殺させんぞ…」
サミュエルは首に提げたペンダントを握りしめた。




H21.4.5

なんか、のろのろ進んでますね;もうちょっと早く書けないもんでしょうか?
自分の遅筆がはがゆいわ!あまり期待される話でもないので、早く書きあげ
たいのですが…;
私の書く話って結構「設定倒れ」だし;うごごご…;