※この話は映画「アンダー・ワールド」が元になっています。
そういった話が嫌いな方。映画のイメージを壊されたくない方は読まないで下さい。
お願い致します;
なお、映画の性質上、流血や残酷なシーンの描写がありますのでご注意下さい。
話の基礎となる設定の家系図です。こちら




ダーク・ワールド7

香藤は森の中を走り続けていたが、妙な事に気がつく。
『あれ?真っ暗な森の筈なのに、どうして見えているんだろう?』
多少の月明かりがあるとはいえ、外灯があった大学内の森と違い、今走っている森は
うっそうとした木々の生えた深い森である。道は険しく、近くでは川が流れている気
配もする。
何故、こんなにも、どこに何があるか分かっているのか…
香藤はぼこぼこした道を躓きもせず、木々にぶつかる事なく走っている自分にとまど
いを覚えた。
と、目の前に強烈な殺気を感じて、足を止める。地面を蹴って横に跳ぶと、突然視界
が開ける場所に出た。
そこは険しい崖の上で、木々がとぎれた場所だった。
すぐ、近くに銃を持った処刑人が立っており、香藤めがけて撃ってきた。
『やられる!』
そう思った香藤だったが、自分に向かって飛んでくる銃の弾丸がはっきりと見えた事
に驚愕する。
『何!』
香藤はそれをなんなく避けた。そして、自分で呆然とする。
何故、銃の弾丸を見切るなどという事が出来るのだ?
銃がおかしくて弾がゆっくり放たれたのではない。香藤自身が確実に弾の速さより早
く動いたのである。
『ど、どうして…』
「くそ!」
処刑人は、また撃ってきたので、我に返った香藤は、また横に飛んで避けようとした。
が、思いのほか跳躍してしまい、崖の下に落ちてしまう。
「しまった!」
次の瞬間、香藤は崖の下に見事に着地していた。
30メートルはあっただろう崖下に飛び降りて、無傷で着地したのである。
「俺は…」
俺の身体は、一体どうなってるんだ!?
驚いている暇もなく、処刑人も崖下に飛び降りてくる。またも銃を撃ってこようとし
たので、香藤は振払おうと腕を払った。
処刑人はあっという間に大きく飛ばされ、岩に叩きつけられ気絶する。香藤のものす
ごい力で吹っ飛ばされたのだ。
「…な…なんで…」
香藤は驚きのあまり声も出なかった。たんに軽く振払っただけのつもりだったのに!
「こっちだ」
かけられた声に驚いて振り向くと、昨夜、香藤に噛み付いた男が立っていた。
「…お前は…」
「…来い…」
男は香藤に手を伸ばす。
「…俺は一体…どうなってしまったんだ…」
「何もかも説明してやる…」
「……………」
「俺と来い…」


香藤は男と共に車に乗り込み、あるビルの最上階に連れていかれた。
迎えにきた男はサミュエルという名で、ワ−ウルフの長だと説明した。
ビルの中のハイテク関係の会社のように見える箇所に入っていく。サミュエルはすれ
違うすべての人に会釈されていた。
実験室に連れていかれ、そこにいた人達に出ていくようにサミュエルは言ったので、
部屋には香藤と彼だけになった。
「まあ、座れ」
「……………」
言われた通り、適当な椅子をみつけて香藤は腰をかけた。
「何が知りたい?」
「…俺はいったい…俺の身体に何かしたのか?」
「昨夜、俺が噛み付いたので、ヴォルグウイルスに感染したのだ。次の満月で君は完
全なワーウルフになる」
「!」
香藤は愕然とした。
俺が…狼男に…
あまりのショックに思考が停止してしまう。頭が変になりそうだった。
「君はワーウルフを、狼男を誤解しているようだ。満月の夜に狼に変身して人を襲い
殺すのが狼男だと思っているんじゃないか?」
「…違うのか…」
「それはただの迷信だ。俺達は滅多な事で変身したり、人を襲い殺したりしない」
「しかし、俺や浅野教授を襲ったぞ!」
「あれは君を保護する任務があった。それにヴァンパイア一族の処刑人と闘わなくて
はならなかったからな」
「…俺を保護する?なんで…?」
「君が不死者の末裔だからだ。ほおっておくと確実にビクトルに殺されてしまう」
…え…?俺が不死者の末裔?殺される?ビクトルって…岩城さんの言っていたヴァン
パイア一族の大老か?
香藤の頭は混乱してきていた。身体が熱くなり、気分も悪くなってくる。
「気分が悪いのか…?」
「…あ、ああ…少し…」
「無理も無い…二、三日前まで、普通の人間の生活していたんだからな」
サミュエルは実験室の隅に置いてあったコーヒーメーカーから、暖かいコーヒーをい
れて香藤に渡した。
「飲むといい。少し気分が落ち着く」
香藤は無言で受け取って少し飲んだ。言われた通り、少し気持ちが落ち着いてくる。
「…そういえば、事の発端は俺が狼男に襲われた時からだ…」
「君を襲ったんじゃなく、ヴァンパイア一族の処刑人と闘っていたんだ…君は保護す
るつもりだった」
「保護って…意味が…?」
「…何世紀も前の事だ…一人の不死者から二人の子供が生まれた。マイケルとカザウェ
ルという双児の兄弟で、ワーウルフ一族とヴァンパイア一族の始祖となった。君はそ
の不死者が別の女性に産ませた子供の子孫なのだ」
「…そんな…」
「君の祖先はアルヴァウイルスにもヴォルグウイルスにも感染しなかったので、普通
の人間として人生を歩んで終えてきた。君の代までな。しかし、その身体には不死者
の血が流れている…」
「…だから…?」
「君はアルヴァウイルスとヴォルグウイルスの両方に感染して、その両方の能力を得
る事の出来る人間なのだ」
「…え?…で、でも岩城さんは両方のウイルスに感染すると死ぬって…」
「普通の人間ならな…だが、君は違う…両方のウイルスを凌駕出来るのだ」
「…本当に…そんな事が…」
「ああ、実験では実証済みだ」
「…で、でも…どうしてそれが俺の保護に?」
「ビクトルは自分より強い者が誕生する事を許さないからだ。他にもいた不死者の末
裔は、全員彼に殺された」
「……………」
「おそらく他のヴァンパイア一族には、不死者がワーウルフの手に入ると、死なない
狼男が誕生して、脅威になるから殺せ、という理由で殺してきたのだろう。しかし、
実際の目的は自分の地位を脅かす者の存在を抹殺したいのだ。自分が最強の支配者で
いる為にな」
穏やかに話していたサミュエルの語気が少し荒くなる。
「…彼を…ビクトルを知っているの?」
「…俺の妻の父親だった…」
「え!」
驚きのあまり香藤は声をあげた。もう、頭の中がごちゃごちゃして訳が分からなくなっ
てくる。
「…今日はこれくらいにしておこう、疲れただろうから休むといい」
サミュエルは立ち上がり、部屋を出ていこうとした。
「このビルの空いている部屋に案内させるから寝るといい。話は明日にしよう」
「…え…ええ…」
「食事を運ばせるように言っておく。ヴァンパイアと違ってワーウルフは食事をしな
ければならん。歳もとるし、変身のコントロールさえ出来れば、普通の人間と変わり
ない生活が出来る」
「…歳をとる?でも、あなたは…?」
「俺も不死者の末裔だ。先程話したワーウルフの始祖のカザウェルは俺の父親だ」
「それじゃあ、あなたに噛まれた人は…?」
「俺からヴォルグウイルスに感染した者も歳はとらん。もっとも、君の場合はどうな
るかまったく不明だ」
「他にいないの?」
「ああ…俺から感染した者はワーウルフの将軍となっているが全員普通の人間だった。
彼等は、俺と共に何百年も闘ってきてくれた俺の友だ…これ以上、他の者はいらない…」
サミュエルの悲し気な声に香藤は彼を見つめた。
「どうして…新しいワーウルフの将軍を作らないの?」
おそらく力も普通のワーウルフより強力だろうに。大勢いた方がヴァンパイア一族と
の闘いには有利な筈である。
「…愛する人のいない世界…一人残るのは…辛く、苦しい事だからだ…」
苦しそうな言葉を残し、サミュエルは部屋を出ていった。
それを見た香藤は、彼が本当の事を話していると確信する。
香藤は知らなかったが、ワーウルフのウイルスであるヴォルグウイルスは、女性には
感染しないのである。
彼の妻は…きっと…亡くなったのだ…
思えば、彼と岩城が闘った時、サミュエルは微塵の殺意も抱いていなかった。闘う虚
しさや苦しみを理解している者の瞳だった。
彼はこの闘いの原因を知っている。
そしてそれを終わらせようとしているのだ。
それに、俺が必要だと言うのなら…
協力してもいい、と香藤は思い始めていた。
サミュエルの言葉が本当で、ワーウルフが人を襲わないというのなら…
『岩城さんの家族を殺したのは、ワ−ウルフではないかもしれない…』
だとすると、岩城にヴァンパイアの血を与えたビクトルが嘘をついている事になる。
『岩城さんは…騙されているのではないだろうか…?』
400年間もの長い間…




H21.4.25

書けるうちに書くべし、書くべし!精神で書いております;仕事が忙しくならない
うちに〜;
やっと、事の真相が見えてきましたかね?でも、話のつじつまが合っているか非常
に不安でもあります;
たいした真相じゃないんだから。もったいつける程のものでもないので、早いとこ
書いてしまいたいのです〜!急げ〜;