※この話は映画「アンダー・ワールド」が元になっています。
そういった話が嫌いな方。映画のイメージを壊されたくない方は読まないで下さい。
お願い致します;
なお、映画の性質上、流血や残酷なシーンの描写がありますのでご注意下さい。
話の基礎となる設定の家系図です。こちら




ダーク・ワールド8

『不死者の末裔を捕まえたの?』
サミュエルは作戦室の無線機を使って、ヴァンパイア一族の内通者と話しをしていた。
これまでの経緯を簡単に説明する。
「ああ…すでにヴォルグウイルスに感染している。次の満月でワーウルフとなるから
それまでに、アルヴァウイルスに感染してもらおうと思っている。どんな力を得るか
は未知数だが…」
『訳は話したの?』
「…少し話した…混乱している様子だったので、すべては説明出来なかった。だが、
ちゃんと話したうえで協力を頼もうかと思っている」
『拒否するかもしれないのでは…?』
「そうなった場合は仕方ない。すでに彼の人間としての平和な生活を奪ったのだ。無
理強いは出来ない」
『けれど、そのまま放置していれば、いずれはヴァンパイア一族に見つかり、殺され
たでしょう。彼の平和な生活が終わるのは必然だったのよ』
「…そうかもしれない…」
『サミュエル…あなたのせいではないわ…』
「ありがとう…」
『アルヴァウイルスに感染する事になった場合はどうするの?』
「…それも問題なんだ…こちらにもアルヴァウイルスは保存してあるが、平民クラス
の血しかないのでね。将軍達と相談するつもりだ」
『…私のウイルスを使って…』
「…それは…どういう意味だ?」
『その人間が協力を承知したら、私がその人を直接噛んでウイルスに感染させるわ』
「…しかし、それでは直接接触しなくてはならなくなる…君が危険だ…」
『危険は承知よ…でも、この機会を逃せば闘いを終わらせる好機も失われる…』
「覚悟してるんだな…」
『ええ…』
「分かった…また連絡をする…」
盗聴防止はしているが、会話が長くなる程気づかれる危険性が高くなる為、サミュエ
ルは急いで無線を切った。
内通者は無線を切った後、急いで無線機をミシン箱にしまった。裁縫道具の中にまぎ
れて、一目見ただけでは分からないようにカモフラージュする。
裁縫という古典的な趣味を持っているのは皆が知っているので、ミシンの箱を触って
いても怪しむものはほとんどいない。やりかけの刺繍を手にとった途端、ドアがノック
される。
「はい、誰?」
『大老のソフィア様がお呼びです』
「分かったわ…」
ソフィアの部屋に行くと、不機嫌そうな顔をしている彼女だけで、珍しく一人の取り
巻きもいなかった。
「また、部屋で刺繍をしていたの?このところずっとではないですか?少しは長老と
しての責務をまっとうしたらどう?」
「…責務はまっとうしております。毎回の定例会議にも出席していますし、報告も聞
いております」
「ただ、聞いているだけで何も指示を出さないそうね。たまにしたかと思えば処刑人
やデイ・ウォーカーに恩赦を与えたり…」
ソフィアはため息をついた。
「お母さま…」
「カミーラ…あなたは貴族で大老の血を受け継ぐ由緒正しきヴァンパイアの長老なの
ですよ。もっと威厳を保たなくては…下賤の者どもにつけいる隙を与えないように気
をつけなさい」
「…はい…」
『お母さまはいつもそうですね…』
と、カミーラは心の中で思った。
『貴族の血がどうとか、庶民の下等な者達とか…』
支配する為に多くの平民のヴァンパイアを作り出し、数名のヴァンパイアが頂点に君
臨してふんぞり返っている…こんな事は間違っている…
だからこそ、カミーラはサミュエルに協力したのだった。堕落したヴァンパイア一族
をこの世から消す為に…
「緊急会議が開かれるから、あなたも出席しなさい」
「何の会議です?」
「不死者の末裔の疑いのある者がヴォルグウイルスに感染したそうよ。ばかな処刑人
が取り逃したんですって。本当に無能な連中だわ」
「……………」
「処刑人にはすでに鞭打ちの刑を言い渡しておいたけど、これからどうするか会議で
決めるのよ。そうそう、会議中は「母」と呼ばないようにね。分かった?」
「…はい…」


「岩城さん!大丈夫ですか?!」
地下牢の冷たい石畳の上に倒れている岩城に浅野は急いで駆け寄った。岩城は完全に
気絶していた。
鞭を打たれた背中は目を背けたくなるような傷がぱっくりと口を開けている。
ヴァンパイアは再生能力がある為、鞭打ちの刑といっても普通の鞭ではなく、無数の
刃のついた鞭で打たれるのだ。傷が再生する前に鞭をうって新たな傷を作り、それを
何度も繰り返すので、受刑者は地獄の責め苦を味わう事になる。
「…うう…」
「岩城さん…気がつきましたか…」
「…浅野…君…」
「立てますか?さ、掴まって下さい。部屋に戻って治療しなくては…」
「…しかし…まだ…この地下牢にいなくては…」
「治療した後、戻ればいいんです。皆、黙っていてくれるそうですから…」
この地下牢はヴァンパイアの再生能力を少しでもにぶらせる為に、極度の湿度が保たれ
ているのだ。
ヴァンパイアは水に弱く、血の薄い者は聖水で死んだりもする。
「駄目だ…ばれたら君に害が…」
「そんな事はいいんです…ほんとに…こんな目に合わせるなんて…ひどすぎます…」
浅野は忍び泣きをした。これは演技では無かった。あまりに惨い岩城の状態を見て、涙
があふれてきたのである。
「駄目だ…それより…君に頼みたい事がある…」
「なんです?」
「…一族の中に内通者がいるかもしれないという話だ…報告をしたが、誰もまともに取
り合ってくれなかった…」
それどころか「自分の無能を他人のせいにする気か!この卑怯者!」と罵られたのだ。
「…そんな…」
「…だから…君と教授とで調べてくれないか?…例の不死者の末裔の情報が入った時、
誰が知っていたのか…無線を使用した形跡はないか…不審な動きをした者はいないか…
う!」
傷の痛みに岩城は苦しそうに顔を歪めた。
「大丈夫ですか?!」
「…大丈夫だ…さ…もう行け…長老や俺を嫌ってる者に見られたら…マズイだろ…」
「でも…」
「早く行け…頼んだぞ…」
「…分かりました…また来ますので、それまで頑張って下さい…」

  ***

次の日の朝。香藤は自分のマンションの部屋に戻って来ていた。
サミュエルから話を聞いた香藤は、彼に協力する決心をした。
ワーウルフとヴァンパイアの戦いは、闇の世界の覇権をめぐって行われているのでは
ない。
すべてはヴァンパイア一族の大老、ビクトルと妹ソフィアの支配欲が原因である。
不死者であるゴードンとその息子のカザウェルとマイケルは、家族が仲良く暮らせる
静かな生活を望んでいた。
しかし、「不死者」の血を狙う人間達に狙われ続けた。
例え「不死者」の血を飲もうが、噛まれようが「不死者」になれないのに、信じようと
しない浅ましい人間達は後をたたなかった。
当時、欧州の某国の領主だったビクトルに、ゴードンは助けを求めた。
自分がいれば絶えず争いが起きる。自身をどこかに封印するから、息子達を頼む、と。
ビクトルは永遠の命をもつヴァンパイアになる事を条件にしたので、マイケルが彼に感
染させた。
ワ−ウルフでなく、ヴァンパイアをビクトルが選んだのは、ワ−ウルフが永遠の命を得
られるか確証がなかった為。
それと、ワーウルフの始祖であるカザウェルは、変身のコントロールが出来ず、満月に
なると獣に変身して暴れていたからである。
本来は温厚な性格であるカザウェルは、とても苦しんでいた。
満月が近付くと自ら地下牢に入り、変身が解けるまでそこに隠っていた。
が、カザウェルの息子のサミュエルは変身をコントロールする事が出来た。変身しても
知性も理性も保つ事が出来たのだ。
共に暮らしていたサミュエルとビクトルの娘のクレアが恋に落ち、結婚の許しを申し込
んできた。
平和主義者で非差別の考えをもつサミュエルは、暴君のビクトルとことごとく対立して
いたので、ビクトルは最初は了承しなかったが、これは自分より強い者達を一気に葬る
チャンスと考えたのである。
マイケルはすでに騙して封印していた(まだ、誰も気づいていなかったが)
カザウェルには息子の結婚を許すから、他の地で隠居生活をするように説得する。
そして、クレアにはすぐにヴァンパイアになるよう強制した。ヴァンパイアは生殖能力
を持たないから、子供を産めなくなる。
ビクトルはサミュエル以外に「不死者」の血とワーウルフの血を受け継ぐ子供の誕生を
阻止しようとしたのである。彼の勢力を高めたくない。
サミュエルの性格からいって、妻以外の女性を作る心配はないとビクトルは見抜いてい
た。
ヴァンパイア一族の中では、始祖であるマイケルを押さえている以上、自分より強い者
が誕生する恐れは無い。
サミュエルとクレアは迷いに迷った。
いつかはクレアはヴァンパイアにならねばならなかった。永遠の命をもつサミュエルと
共にある為には、それしか方法がないからだ。しかし、ヴァンパイアになれば太陽の下
を歩けなくなる。血を飲むようになってしまう。それらの理由から、子供が産まれてか
ら、と言って引き延ばそうと思っていたのだ。
「いつかはヴァンパイアにならねばならないのです…」
と決意してクレアはヴァンパイアになった。
その後、すでに妊娠している事に気がついたのである。
「不死者」の血とワーウルフの血どころか、ヴァンパイアの血さえも受け継ぐ子供が出
来たのだ。
自分より強力な力を持つ可能性にビクトルは恐れをなした。
もう一つ判明した事実を知って、ビクトルは実の娘のクレアを殺したのだ。
そしてワーウルフをこの世から抹殺する決意をした。
妻を殺され、父親であるカザウェルも騙して封印していた事(隠居生活とは嘘で、そう
見せ掛けて封印していた)を知ったサミュエルは、ビクトルを倒す決意する。
それが、ワーウルフとヴァンパイアの600年にわたる闘いの理由であった…

香藤は、サミュエルに協力する決心をしたが、その前に自分の両親や家族に最後の別れを
告げにいきたい、と申し出たのである。サミュエルは簡単に了承してくれた。その態度か
らも、彼が優れた指導者である事を感じる。
少し接しただけだが、ワーウルフ一族はサミュエルに対する信頼が深く、戦士同士の団結
力も強いのが分かった。
簡単な手紙を両親に送り、部屋の中を片付ける。病院にも連絡をした方がいいか、と思う
が警察が網を張っている可能性がある為、止めておいた。
『もう、ここには帰ってこれないかもしれないな…』
香藤の胸に寂寥感が沸いてくる。
しかし
『自分は決心したんだ。もう、後戻りは出来ない…岩城さんに真実を告げなくては…助け
てやりたい…』
どうして、ほんの数日前に会ったばかりの岩城にこれ程執着しているのか、香藤は自分で
も不思議だった。理由は分からないが、香藤はどうしても岩城に会いたかったのである。
彼の事を考えると胸が熱くなる…
『本当に…俺はどうしちゃったんだろう?』
分からない事を考えていても仕方ない。香藤は顔を上げ、これまでの生活を振り切るよう
に部屋を出ていった。




H21.4.30

よ、ようやく真相が半分書けましたかね;で、でもまだ、続くのかよ〜;自分でもこんな
に長編になるなんて思ってなかったので驚きです;ご利用は計画的に…しろよ;