※この話は映画「アンダー・ワールド」が元になっています。
そういった話が嫌いな方。映画のイメージを壊されたくない方は読まないで下さい。
お願い致します;
なお、映画の性質上、流血や残酷なシーンの描写がありますのでご注意下さい。
話の基礎となる設定の家系図です。こちら




ダーク・ワールド9

「やはり、他の血液と違うよ。変化してる」
「そうだな」
香藤はワーウルフの基地の研究室で、顕微鏡で自分の血液を見ていた。
隣では研究者のワーウルフの戦士が立っている。
「お前のヴォルグウイルスを取り込んだ血液は、アルヴァウイルスが混入して
も死滅しないな」
「ええ、他のワーウルフの方の血液に、アルヴァウイルスを混入させるとウイ
ルス同士が殺しあってどちらも死滅するけど、俺のはならない…別の形に変異
する…」
「これで、お前にアルヴァウイルスを混入させても死なない事が分かったが、
その変異したウイルスがお前の身体にどういう影響を及ぼすか、今の時点では
不明だな」
「しかし、アルヴァウイルスがヴォルグウイルスより、かなり貧弱なものだっ
た場合、アルヴァウイルスだけ死滅してしまう」
「ああ…お前を感染させたのはサミュエルだからな…その濃さに匹敵するアル
ヴァウイルスでなければ…」
「あるの?そんなに濃いアルヴァウイルスが…?」
「ヴァンパイア一族の中に内通者がいて、その人が協力してくれるそうだ…」
「その人はヴァンパイア?」
「ああ、だが、サミュエルに共感して戦いを終わらせたいと思っているんだ。
今度の満月に打ち合う予定だ。そこでお前にアルヴァウイルスを感染させてく
れる」
「……………」
「怖いか?」
「…正直、少し…でも、後戻りは出来ない…」
「…お前は強いな…」
「え?友達には楽観主義だって言われるけどね」
「笑えるのは強い証拠だ」
「ありがとう…」
次の満月…
香藤はその時、ヴァンパイアの内通者に岩城の事を聞こうと思った。なんとか
彼と連絡を取りたい…
岩城の家族を殺したのは、ワ−ウルフではない。おそらく、大老のビクトル本
人だ。
サミュエルの話ではヴァンパイアの大老や長老も、血を欲して、人間達を襲う
そうである。
自分達の高貴な血を下賤の者共にやる気はないので、仲間にするのではなく確
実に殺す。
そして、それをワ−ウルフの仕業とみせかけているのだ。それは血清が作られ
た今も変わる事はない。
しりぬぐいを平民やデイ・ウォーカー達にやらせ、ワーウルフへの憎しみを利
用して従僕する部下を増やしている。
『卑怯な奴らだ…』
香藤はそう思う。岩城がどれだけ苦しんできたのか…
身体を震わせ、自分にしがみついてきた姿を思い出して、香藤は胸が痛んだ。
しかし、何故、ビクトルは岩城を殺さず、仲間にしたのだろうか?そこが分か
らないところだった。
岩城は信じるだろうか?
『簡単には信じてもらえないだろうな…』
信じてもらえたとしても、その後はどうする…?
ワーウルフの基地に連れてくるのは無理そうだった。
岩城の話をすると、ほとんどのワーウルフの戦士は憎しみの言葉を口にした。
ヴァンパイア一族の処刑人として、岩城の名はワーウルフ一族の中に知れ渡っ
ている。仲間を数多く抹殺されているのだ。中には、岩城は優れた戦士である
と、認める者もいてくれたが…
『もし、岩城さんにどこにも行くところがなかったら…』
その時は俺が側にいよう…どんな時でも…彼を守ってやりたい…
胸を熱くして、香藤は決意した。

     *

地下牢から岩城はようやく出る事を許された。
ふらつく足取りでなんとか自室に辿り着き、ベッドの上に倒れこむ。
考える事がたくさんあるが、身体の疲労が激しくて頭が働かない。
…あの人間はどうなったのだろう…
岩城の脳裏に香藤の顔が浮かんでくる。
彼は不死者の末裔だったのだろうか?ワーウルフに変貌したのか?ならば、い
つか俺の手で殺す時が来るかもしれない…
岩城の胸がズキリと痛む…
そして、そんな自分に戸惑う。
するとドアをノックが聞こえ、岩城は急いで身を起こし気を奮いたたせて背筋
をのばした。
衰弱している姿を誰にも見られたくなかったのである。
「誰だ?」
「浅野です」
「入っていいぞ」
浅野が部屋に入ってくると、岩城の顔を見て、あからさまにホッとした表情を
した。
「岩城さん、身体は大丈夫ですか?傷の方は?」
「傷はほとんど塞がった…」
「血液カプセルを持ってきましたので、どうぞ召し上がって下さい。地下牢に
いた間、何も口にしていないでしょう?」
「ありがとう…」
岩城は浅野の持って来たカプセルとコップを受け取り、飲み干した。力が戻っ
てくるのを感じて、岩城は大きく息をはく。
「例の事は何か分かったかい?」
例の事とは、内通者を調べる話である。
「…それが…」
「分からなかったのか?」
「…いえ…怪しい人物が一人、浮かび上がってきたのですが…」
「誰だ?」
「…それが…長老のカミーラ様です…」
「なんだって?」
意外な人物の名に、岩城は眉を寄せた。
しかし、浅野の調査報告を聞いていると、確かに情報が洩れたと思われる時点
で、カミーラしか知り得なかった情報がある。何より長老という立場であれば、
不死者の情報も怪しまれる事なく入手出来る。
「……………」
「…岩城さん…どうします…?」
「しばらく、彼女の行動を監視しようと思う…君はこの事は忘れるようにしろ」
「それは…」
「面倒に巻き込まれるといけない…」
「…分かりました…でも、何か協力出来る事があればお手伝いしますので、い
つでも言って下さい」
「…ああ…ありがとう…」

     *

満月の夜。
カミーラはフード付きのコートをかぶり、こっそり基地を抜け出した。
尾行がついていないのを確認して、サミュエルとの約束の場所に急ぐ。
場所は某港の巨大な倉庫の上だった。
そこなら、登る事など出来ない人間の目に止まる事はないし、誰かが近付いて
きてもすぐ分かる。
空に輝く無気味な満月を見上げながら、カミーラはサミュエルを待った。
と、突然目の前に彼が現れたので、驚いて少し身を引く。
「驚かせないでサミュエル」
「すまない、久し振りだなカミーラ」
二人は親しい者同士が交わす挨拶として抱きしめ合った。
「不死者の末裔の彼は?」
「すぐ近くにいるが、周りの安全を確認してから、俺が呼ぶ手筈になっている」
岩城は倉庫の雨樋の影に隠れながら、二人の様子を観察していた。
カミーラを尾行するのは少し大変だったが、岩城程の処刑人なら可能だった。
なんとか気づかれぬように倉庫の天井の裏にはりついて様子を伺っていた。
何を話しているのか聞こえなかったが、彼女がサミュエルと親し気に抱擁を交
わした時は、驚愕した。
やはり、内通者はカミーラだった!
岩城は急いでトランシーバーを取り出し、浅野に連絡を取って、応援を寄越し
てくれるように頼んだ。
すぐに仲間に来てもらい、この現場を実際見せねば、また信じてもらえないだ
ろう。何しろカミーラは大老のソフィアの一人娘なのだ。
「そこにいるのは誰だ!」
声と同時に、刃のキラリと光るきらめきが見え、岩城は急いで上に跳んだ。今
まで岩城のいた場所には何十本ものナイフが突き刺さった。
天井の上で、カミーラとサミュエルに対峙する。
「岩城ではないですか?私を尾けてきたのですね」
「…カミーラ様…」
「知られた以上、生かしてはおけんな…」
サミュエルが剣を取り出す。実力の差はもう分かっているが、岩城はなんとし
ても応援がくるまで持ちこたえようと考えて構えた。
「待ってくれ!」
声のした方に目線を向けると、いつの間に来たのか香藤が立っていた。ここに
来れるという事は、すでにワーウルフの能力を身につけているという意味だ。
岩城の胸がチクリと痛む。
「岩城さん…」
香藤はゆっくりと岩城に近付いていったが
「来るな!」
というサミュエルの言葉に足を止めた。
「お前は死なす訳にはいかん。片がつくまで下がっていろ」
「待って下さい。この人を殺さないで下さい」
「何をいっているんだ香藤?今こいつを殺しておかねば、カミーラが私に協力
していた事がばれるんだぞ」
「…少しだけ…話をさせて下さい」
「…分かった…ただし、そこを動くな…」
香藤は頷いて、岩城を見つめた。
初めて会った時と同じように、彼は黒いロングコートに身を包んでいる。冷た
い月のような美しさも変わりなかった…
「…岩城さん…あなたの家族を殺したのは、ワーウルフではないんだ…」
岩城は少し眉を寄せたが、表情にまったく変化はなかった。
「血に飢えたヴァンパイアのやった事だ。血を吸った後、皆を殺してワ−ウル
フの仕業に見せ掛けているんだ」
「…ワ−ウルフになったお前の話を信じろというのか?」
「…岩城さん…」
冷たく言い放つが、カミーラの言葉に岩城は彼女を振り返った。
「本当です」
「…え…?」
「変身のコントロールが出来るワーウルフは、見境なく人を殺したりはしませ
ん。サミュエルの元、感染は厳重に制御されているから、はぐれワーウルフは
滅多にいません」
「…だが、襲う事もある筈だ…」
「確かに可能性は0%ではありませんが、あれ程頻繁に起きません」
「…あなたは…一族を裏切ったのです…簡単に信じる訳にはいきません…」
「だからこそ、一族を裏切ったのです。誇りも尊厳も失い堕落したヴァンパイ
ア一族に絶望したからです…」
「……………」
岩城は頭の中が混乱してきた。カミーラの言っている事には真実味があった。
ヴァンパイア一族は堕落している…
それは岩城が心の奥底で感じていながら、目をそらしている事実だったからだ。
迷いをみせた岩城に興味をもったのか、サミュエルが口をはさんだ。
「アルヴァウイルスとヴォルグウイルスがどうして発生したと思う?」
「は?」
「ヴァンパイア一族の始祖、マイケルとワーウルフ一族の始祖カザウェルが双児
の兄弟だったのは知っているか?」
「……………」
「母親の体内で兄のマイケルがアルヴァウイルスに感染した。本来ならカザウェ
ルも感染する筈だったが感染しなかった。何故だと思う?」
「……………」
「抗体を作ったからだ。ヴォルグウイルスはアルヴァウイルスに対する抗体なの
だ」
「…何…?」
「だからワーウルフはヴァンパイアにならず、ヴァンパイアはワーウルフになら
ない」
「ばかな…両方のウイルスが体内に入れば…」
「確かに二つのウイルスが体内に入れば死んでしまうが、それは細胞が二度の急
激な変化に耐えられないからだ」
「…どういう事だ…」
「つまり、ヴォルグウイルスを体内に持ちながらワーウルフに変化しなかった者。
保菌者となった女性はヴァンパイアに噛まれてもヴァンパイアにならない。そして、
ヴァンパイアに噛まれても、まだ完全にヴァンパイアに変化していない者にヴォル
グウイルスを感染させれば、人間に戻る事が出来るのだ。抗体をもっている以上、
二度とヴァンパイアになる事はない」
「……なんだって…」
「だからビクトルはワーウルフを抹殺する事にしたのだ。アルヴァウイルスに感染
しない人間が増えては困る。平民やデイ・ウォーカーという奴隷が作れなくなって
しまうからな」




H21.5.14

ようやっと書き残していた真相を書く事が出来ました〜;たいした事じゃなくて
申し訳ありません;岩城さんと香藤がほとんど離ればなれで話が進んでますね;
敵、味方に分かれているからしょうがないかもしれないけど…;
離ればなれの恋人達ってシュチュエーション、私は結構弱いんですが、あんまり
メジャーじゃないかな〜(^^;)それにしても…まだ続くとは;すみません…;