だるい…
岩城は家のキッチンでお昼のメニューに悩んでいた。
東北生まれの岩城にとって東京の夏は過酷で、すっかり夏バテしていた。
温暖化現象の影響もあってか、年々過酷さは増していくように感じられる。
まだ、暑いだけなら堪えられるが、部屋の外と中の気温差がありすぎるのだ。
建物やスタジオの中は過剰なまでに冷房が効かされていて肌寒いぐらいなの
に、一歩外に出れば汗がふきだすぐらいの猛暑に襲われる。この気温差を一
日何度も繰り替えしていては、体力が奪われて当然である。
休日の日ぐらいは、寒くもなく暑くもない自分に合った快適な温度で過ごし、
体力と気力の回復に努めたいところなのだが、いかんせん、食欲がない…
気持ちとしては「食べたくない」のが本音だが、そんな事では明日からのハー
ドワークに支障をきたす。ここは無理矢理にでも何か食べておかなければ。
「…そうめんでも茹でるか…」
香藤が聞いたら
「また、そんなスタミナのないもん食べて!」
と言って怒るところなのだろう。しかし、今はこれが岩城の精一杯である。
許せ香藤。そうめんは夏の風物詩だろ。この季節の定番だ!
心の中で弁解して、岩城はそうめんの箱を取り出した。すると、その箱に付属
されていた一枚の紙切れが岩城の目にとまる。
『流しそうめん機!ご自宅でも風流な夏を手頃に体験!』
「……………」
自宅のテーブルに置いて、そうめんを水でぐるぐる回す機械の宣伝チラシであ
った。
「風流な夏って…;」
流しそうめんはさわやかな風の吹く景色のいい屋外で、竹に流れてくるものを
眺めて目でも涼しさを味わえるから意味があるのではないだろうか?
機械の中をぐるぐる回るそうめんに風流が味わえるのだろうか?
「こんなの買う人いるんだろうか?」
岩城がため息をつきながら素朴な疑問を呟いた時、玄関の扉が開く音がして香
藤の声が聞こえた。
予定より少し早めの御帰宅だ。岩城はそうめんメニューにおとがめを受ける覚
悟をした。
「ただいま〜岩城さん」
香藤は声を弾ませてキッチンに入ってきた。何か大きい箱を抱えている。
「おかえり香藤。早かったな」
「うん、カメラマンの都合で撮影が明日になったんだ。それよりこれ見て〜」
「なんだ?」
「おもしろそうだから買っちゃったv」
香藤が楽しそうに岩城に見せた箱には、しっかり『流しそうめん機』と書かれ
ていた。

風物詩岩城素朴疑問

「……………」
「どうしたの岩城さん?」
「…ここにいたか…」

問:こんなの買う人いるんだろうか?
答:自分の家にいる

H20.9.3 up

こういうタイトルの入り方、一度やってみたかったんです;