防犯カメラ

おかしい…絶対おかしい…
香藤は岩城の派手な下着を前にして唸っていた。
「所詮脱がせるのに着る意味があるのか…」
って考えているのではない。
佐和さんに言われて以来、洗濯物は出来るだけ外で干すようにしている。下着などは奥の方に
干して目立たないようにしているが、その下着が時折無くなる事があるのだ。
風でとばされているのか?
いや、それなら他の洗濯物が無くなってもいいだろうに、何故か無くなるのはいつも岩城の下
着である。
少し前だが、庭で落ちている岩城のそれを拾った事がある。
なんで、こんなところに落ちているのだろう?
と疑問だったがその時は深く考えずに放っておいた。そして、すっかり忘れていた。
が、先日、香藤の部屋に置いてあったそれを岩城に発見されてしまった。それから岩城は時々
下着を盗っていたのは香藤だった、と思いこんでしまったのである。
いくら香藤が
「違う〜拾ったの〜信じて〜」
と言っても信じてくれない。
『お前、そこまで変態に…』
なんて言葉が岩城の顔にモロに出ていた。香藤にとっては不名誉このうえない事である。
絶対に誰かが盗んでいるに違いない…
香藤はそう結論づけた。
『防犯カメラを取り付けよう』
絶対に犯人を捕まえて名誉を回復しなくては気がおさまらない。もし、捕まえなくとも下着泥
棒が防犯カメラの存在に気づけば犯行を断念する可能性もある。
とにかく、防犯カメラを設置する旨を岩城に伝えねば…

「防犯カメラ?」
「うん、そうベランダに設置するんだ」
いきなりの提案に岩城は少々面くらう。
「…でもうちはセコ●に入ってるんだぞ。そこまでやる必要はないだろ」
「駄目!岩城さんの下着を盗んでいる泥棒を捕まえなきゃ!」
「……………」
あれはお前じゃないのか?
と、出そうになった言葉を岩城は飲み込んだ。
ここまで言い張るところをみると、本当にあれは香藤ではないのだろか?
しかし、それでは自分の下着だけを盗まれている理由が説明出来ない。下着に名前などを書い
ている訳がないのだから、どうして自分のものだけ盗まれて、香藤の下着は盗まれないのか?
『まさか、無意識に盗んでるんじゃないだろうな…』
設置した防犯カメラに、夢遊病のような状態になった香藤が、岩城の下着を盗んでいるところ
が映らないのを祈るばかりである。
防犯カメラの設置をしぶしぶだが了承してもらった香藤は、早速次の休みの日に取り付けに来
てもらった。空き巣に入られた際、盗聴器が仕掛けられていないか調べてもらったセキュリティ
会社に頼んだ。
一台は抑止力も兼ねて取り付けてあるのが分かるように設置して、もう一台は分からないよう
に隠して設置してもらう。
この効果があって、岩城の下着がその後、無くなる事はなかった。

「良かったね〜下着泥棒が出なくなってv」
「そうだな」
やっぱり下着泥棒だったのか…
岩城は心の中で香藤を変態扱いした事を詫びた。
『でも、どうして俺の下着だけ盗まれたんだろう?』
その点だけは岩城は分からなかったのだが、答えは簡単。
香藤の下着は男らしいボクサーパンツで、岩城の下着はスケスケだの超ビキニだの薔薇柄豹柄
なんかで、かなり刺激的なラインアップ。
どちらに下着泥棒の食指が動くかは言わずもがな、である。
下着泥棒が出なくなって安心した岩城だったが、実は水面下である危険度が高まっていた。
今度は正真正銘香藤であった。
ベランダに防犯カメラを設置したが、もう一台の隠しカメラの存在は岩城には内緒にしていた。
初めは、見えないところにカメラがある、というので岩城が嫌な感覚を覚えないように、との
配慮で言わなかったのだ。ばれないようにモニターも香藤の部屋に設置してもらう。
が、それを見ていた香藤は、そこに映る無防備な岩城を隠し見る行為に、密かな楽しみを覚え
始めたのである。
そこに映っているのは「自分がいない時の岩城」「自分が知らない岩城」。
ベランダで気持ちの良い風に髪をなびかせる岩城。
猫のようにノビをする岩城。
鉢に水をやる時に溢れる岩城の笑顔。
自然で完全にリラックスした岩城はナチュラルで美しい。
「ああ〜岩城さん…可愛いよ〜」
眺めていた香藤の頬が思わず緩む。
岩城が知らない、というのがさらに香藤の欲情…じゃなくて欲望を煽っているのだ。まさに
禁断の味。
デレデレと脂下がる香藤。そして、思い付く。
『そうだ、こういう隠し防犯カメラを岩城さんの自室に設置したらどうだろう?』
きっと自分の知らない岩城が、もっとたくさん見れる筈…
そういうのは「防犯カメラ」って言わないんじゃないの?
ある意味下着泥棒より危なくなってくる香藤。
一番の敵は身内にあり。
岩城の身の上に新たな危険が迫っているのを、当の本人はまだ気づいていない…
危ないぞ、岩城さん!

H22.3.16

第7回アンケートのラッキーセブンにちなんで書いたこの話で御利益ありますかね〜?
………………………無理そうだな…;