このお話は以前「春抱き同盟」の「クリスマス企画」に参加させて頂いた際、書かせてもらったお話の後日談です。
簡単に説明しますと、悪魔の岩城と恋人になってもらうという契約を香藤がしたのです。契約によって願いを叶える代わりに香藤は岩城に魂を渡さなくてはならないけど、今の所はまだ。という感じです。
それだけのお話なので、読み返しする必要はまったくないですよ〜。て、言うかしないでくだされ〜。

         初夜

 夜、ベッドの上に座りながら、岩城はもんもんと考え込んでいた。
 昨夜、香藤が仕事から帰るなり、いきなり尋ねてきたのである。
「岩城さ〜ん、俺達恋人同士だよね」
「多分な……」
「俺の事好き?」
「ああ……」
 クリスマスに悪魔を呼び出す儀式で岩城が香藤に呼び出され、契約したのは今から10年前の事。そして、約束どおり岩城は10年後のクリスマス前に再び現われた。それが去年の話だが、その時の約束で岩城は香藤の恋人になったのである。
 なんだかんだいいつつ、幸せな日々が過ぎていったのだが、三ヶ月を過ぎた頃から香藤が考え事をする事が多くなった。あの、いつも陽気な香藤の口数が少なくなり、帰りも遅くなっていったのである。岩城は仕事で悩んでいるのだろうかと、少し心配していた所にいきなりの香藤の言葉であった。
「だったらする事があるよね……」
「キスならいつもしてるだろう」
 朝のお目覚めのキスに始まり、いってらっしゃいのキス、可愛いからのキス、ご苦労様のキス、ありがとうのキス、ごめんなさいのキス、お帰りのキス、おやすみのキス、と一日に何回するのか分からない程である。
「それもあるけど…もっと…こう親密な恋人同士がする事だよ……」
「耳掃除ならいつもしてるだろ?」
「……それも気持ちいいんだけどさ……こう…もっと裸になって……」
「風呂にはいって背中を流すのは、お前がしなくていいと言ったんだぞ?」
 そう、しばらく前お風呂で背中流して欲しいな〜と香藤が言うので、岩城はいっしょにお風呂にはいり、背中を流してやったのだが、香藤が途中から「ごめん、もういいや……」と言って岩城を先にあがらせたのである。
「……その事じゃないんだよ……別の事なんだ……」
「なんだ?」
「……夜の営みだよ……」
「……………」
 岩城は一瞬理解できなかった。昔、人間だった事のある岩城だが、その時の記憶はほとんどない。人間界に来て、たまにデジャブのような感覚を感じて、人間だった時の記憶をかすかに思う程度である。
「人間の恋人同士ならすることだよ」
「……らしいな……」
「じゃあ、恋人同士である俺達がしたっていいよね?」
「………………………………まあな……」
「よし、やろうよ。それに、恋人になるって約束なのに、その行いをしないっていうのは契約違反になるんじゃないの?」
 痛いところつかれて岩城は押し黙った。
 確かに、香藤の恋人になるという契約なのに、その役割を果たしていないというのはまずい。契約違反として魂がもらえない可能性がある。
「分った…しよう……」
「本当?!」
 香藤が身を乗り出した。
『やった〜!』
 と心の中で小踊りする。
 香藤としても、こういう強引な展開は不本意なのだが、これ以上禁欲生活を送ると自分の身が危うい。岩城がその気になった時でいいと思っていたのだが、岩城はそういう感覚がかけているらしく、一向にそんな素振りがなかった。
『ま、まさか知らないんじゃ……』
 と、一時疑ったりもしたが、会話の端から知識はあると分った。そこで、AVビデオをいっしょに見たり、濃厚なキスをしてしかけたりしたが、それ以上にはどうして進めなかった。
 例のお風呂の背中を流してもらう事も、なんとかムードを沸き上がらせようとしたのだが失敗したのである。これ以上いっしょにいると無理矢理(しかも風呂場で)襲ってしまいそうで、岩城を先に上がらせたのである。愛する人との行為はちゃんと合意の上で、ベッドの上で行ないたかったのだ。
 そんなこんなで、たまる一方だった香藤は、つい先日乱交パーティーに出席してしまい、激しく後悔した。
『このままではいけない!』
 と香藤は一大決心をしたのである。
「ああ…どうすればいい?」
「んじゃあね〜明後日俺休みだから、明日の夜しようよ。一日中愛してあげるから(ハート)」
「…………」
 垂れ目の香藤の目尻がさらに垂れ下がっているのを見て、何か危険を感じる岩城であった。

         *

 そして、次に日の夜、夜の営みは決行される事となった。
 香藤は帰ってくるなり、岩城を強く抱き締め熱いキスをした。そして、シャワーを浴びてくるよう促したのである。言われるまま、シャワーを浴びた岩城はパジャマに着替え、寝室に入った。次に香藤が浴室に向い、今、岩城は香藤がやってくるのを待っている所なのだ。
 ベッドの上で一人座りながら、岩城の心には不安が芽生えはじめていた。
 シャワーを浴びている時から、自分の身体に香藤が触れるのかと思うと、どうも落ち着かなくなってきたのである。第一、経験がまったくないし、人間だった時はあっただろうが忘れているので役にたたない。
 知識だけはあってどういう事をするのか知っているが、その時の感覚がまったく分からないのだ。自分がどういう状態になるのか、どんな気分なのか想像できない。
『考えてみたら、あーなって、こーなって…香藤のあれが自分の……』
 考えてみて岩城は青くなる。
『無理!絶対無理!あんなの入らないって!』
 岩城が逃げようかと思い始めた時、上半身裸で香藤が寝室に入ってきた。
「岩城さん……」
 香藤の瞳は今までいた事もないぐらい強い眼差しをたたえている。香藤がドアの近くにあったスイッチで電灯を消したので、部屋の明かりはベッドサイドに置いているスタンドだけになった。
 どうしよう、どうしよう、と岩城がおろおろしているうちに、香藤は岩城に近付き、キスをした。
「あ、あの…香藤……」
 岩城が口を開くとすかさず香藤の舌が入ってくる。
「……う…ん……」
 激しい口付けに岩城の頭の中がボーとなった。
 香藤にキスされるのは好きだ。
 優しいキスも、激しく熱いキスも、香藤のキスは自分に対する愛情に溢れていて、いつも岩城を夢心地にさせてくれる。
『これだけで十分なんだが……』
 と、岩城は思ったが、香藤はそんな岩城をベッドに横たえ、項に唇を落とした。手は胸元に伸び、パジャマのボタンをはずしだす。
「か、香藤……」
 岩城は不安になり、声をだしたが、香藤の手はパジャマを取り去り、直に肌の上を辿り始めた。
「あ……?」
 くすぐったいのと恥ずかしいのとで、岩城は身をもぞもぞとよじりだした。が、香藤の手は一向にとまる素振りすら見せず、唇が岩城の胸に落ちてくる。香藤が岩城の胸の飾りを舌で触れると
「や……!」
 岩城の身体に電流のような感覚が走り抜けた。体温が一瞬に上がった気がして、岩城は不安になる。
「……香藤…ま、待って……」
「ん………」
「ちょ、ちょっと待てって!」
 岩城は香藤の身体を両手で押し返す。
「なに〜岩城さん。やっぱ止めるなんてのはなしだよ」
「じゃなくて、おまえこそなんでしないんだ!?」
「へ?」
「SEXするんだろ?」
「うん」
「なんでやらずに俺の身体に触ってるんだ?」
「あ?」
「SEXって○○(ピー)が○○(ピー)で○○(ピー)なんだろ?」
「……いや、まあ……そうなんだけど………」
 香藤は絶句した。まあ、結果だけ言うなら岩城の言うとおりなのだが、そんな犬の○○じゃあるまいし……
 岩城の知識とは、小学校の保健体育の教科書を読んだ程度のものであったのだ。香藤は一瞬焦るが、考えてみると岩城がそれだけうぶだという証拠でもある訳だ。
『岩城さんの性感体を自分が発掘するのも悪くないかも……』
 と、香藤のいたずら心が頭をもたげる。
「SEXっていっても準備があるんだよ。前戯とでもいうか、身体を慣らす行為から始まるんだ」
「そうなのか?」
「うん、だから身体の力抜いて、俺にまかせて……」
「……だ、大丈夫なのか……?」
「大丈夫、優しくするから」
「……痛くしないか?」
「絶対しない!気持ち良くさせてあげる!」
「……本当だな……」
「本当です」
「誓うか?」
「誓います」
「何に?」
「神様に。あ、岩城さん悪魔だっけ。じゃあ悪魔に」
「悪魔は背徳だから誓われても、あんまり信用できないな」
「そんな〜じゃあ何に誓えばいいの?」
「香藤の宗派は?」
「……真言宗……」
 とりあえず思い付いた差し障りのないやつを言ってみる。(多分祖父がそうだったかも…)
「じゃあ、その開祖に誓ってくれ」
「分かりました。誓います」
「ほんと〜に痛くないか?」
「本当です!(だから早くやらせて〜)」
「……分った……」
 決心した岩城は身体の力を抜いてベッドの上に手足を投げ出した。

「岩城さん、ここに触るね……」
「は…あ……ああ……!」
 香藤が岩城の内腿に舌を這わせる。岩城の身体はどんどん熱くなる一方で、返事をする事さえ出来なかった。香藤の手が、舌が触れる度に身体中に快感がかけめぐる。
「…香藤…俺…変だ……」
 訳の分からない熱に翻弄される。どんどん大きくなるそれは今にも出口を求めて爆発しそうだった。
「……香藤……」
「どんな感じなの?岩城さん」
「え……あ……!」
「いいの……?」
「……あ……いいって……?」
「気持ちいい?」
「……変…だ……」
「変って?」
「あ、ああ……!」
 香藤の長い指が岩城にからみついてくる。快感に襲われて岩城は頭を振った。
「あ……あ……」
「岩城さん、気持ちいい?」
「…や……やめて……」
 岩城の瞳から涙がこぼれる。
「やめたら、辛いよ……もう少しだから……」
 香藤がそう言って動きを激しくすると、岩城は大きな波に飲み込まれて香藤の手を濡らした。
 岩城の頭が真っ白になって、激しく息をつく。
 そんな、岩城の身体を香藤はうつ伏せにして、膝をたたせた。まだ、意識の朦朧としている岩城は気がつかない。
 香藤は白桃のように美しい岩城の双球を目にして喉を鳴らした。その間にそっと舌を這わす。
「ひゃ!」
 濡れた冷たい感触に岩城は声を上げた。やっと自分が恥ずかしい格好をさせられているのに気付く。
「か、香藤…な、何してるんだ……?」
「……岩城さんのココ舐めてんの」
「な!」
 香藤は悪びれない口調で明るく答えてくる。岩城の身体がカッとまた熱くなった。
 身を起こそうとするが、香藤に腰をしっかり掴まれて動けない。先程の余韻で身体に力が入らないのもあるのだが。
「な、なんでそんな事するんだ……!?」
「慣らさなきゃ岩城さん辛いでしょ」
「他に方法はないのか〜」
「……ない事もないけど……そっちにする……?」
「そっちにする!」
 岩城が必死に答える。
「……分った……」
 と、香藤は用意していた潤滑油になるものを取り出し、指につけた。そしてそのまま岩城のソコに入れる。
「わ!?」
 やっぱり岩城は声をあげた。
「か、香藤!何!なんだ!?」
「だから別の方法だって」
「他に方法はないのか〜」
「……岩城さん……結構注文多いね……」
「…だ、だって……ああ……!」
 香藤が入れた指を動かしたので、岩城は大きな快感にこらえきれずに顔をシーツに伏せた。一度達した身体はほんの少しの刺激にも敏感になっている。岩城はふたたび沸き上がってくる感覚に支配された。また、あの快感を欲して無意識に腰を揺らしてしまう。
「……岩城さん……」
 香藤が慎重に指を増やしていく。傷つけないように、岩城の内をさぐりながら快感を与えていく。香藤もそろそろ限界だった。岩城の肌は予想以上に綺麗で滑らかで、触れる度に心臓が高鳴った。それに、岩城の感じている表情を見ていると、嫌でも身体が昂っていく。
「岩城さん、大丈夫?痛くないよね?」
「……痛い……」
 息も絶え絶えな岩城が呟いた。
「え!痛いの!?」
 焦った香藤は岩城の顔を覗き込んだ。
「……胸が……」
「何?」
「……どきどきする……」
「え?」
「……お前に触れられると…どきどきする……」
 潤んだ瞳で恍惚の表情をしている岩城にそんな台詞を言われて、香藤の身体が一気に燃えた。
『岩城さん!かわいい〜!もう駄目!我慢できない!』
「岩城さん!」
 指を抜くと香藤は岩城の身体を仰向きにさせて、足を大きく広がせる。
「か、香藤……」
「大丈夫、ゆっくりいれるから……」
「だ、だって…お前のおっきいぞ!」
「すぐに慣れるよ」
「……嘘だ……!やっぱり無理……あ、ああ!」
 香藤はゆっくりと岩城の中にはいっていった。
「……岩城さん……もっと力抜いて……」
「……駄目……だ……」
 言ったとおり痛みはないが、圧迫感が苦しくて岩城は背中を反らせる。香藤はそっと岩城に指をからませ快感を与えた。
「あ……ああ……ん……」
 岩城の力が抜けたタイミングを見計らってゆっくりと腰を進めていく。やっと全部収まった時は二人とも汗まみれであった。
「岩城さん……」
「う…ん……香藤……」
「俺…岩城さんの中にいるよ…感じる……?」
「あ………」
「分かる?岩城さんの中……熱くてすごく気持ちいい……」
「か…香藤……」
「動くよ……」
「…え……ああ……はあ……!」
 激しく揺さぶられて、岩城はまた大きな快感の波にのまれていく。もう香藤の事しか考えられず、二人はひとつになって高みへとのぼりつめていった。

「か、香藤……もう……駄目……」
「もう一回だけ……」
 香藤はあれから何度も岩城と一つになった。激しい香藤の攻めに岩城の腰はもうガクガクである。優しくしなきゃ、と気をつけていられたのは初めのうちだけである。香藤の方が岩城の身体に溺れていた。
「……こ、こんなに…何回もするのか……?」
「うん。平均すると7、8回かな。それぐらいが普通だよ」
「……う、嘘だ〜!」
 嘘です。岩城さん、騙されてます。
 結局、香藤はこの夜、明け方まで岩城を離さず、気を失うまで営みを続けたのであった。

        *

 翌日。
「岩城さん大丈夫?」
「……………」
 当然だが岩城はベッドで寝込んでいた。
 昨夜の激しい情交のせいで立つこともままならない状態である。気を失うまでやられて、今朝も香藤は岩城を抱きかかえてお風呂につれていったのだが、そこでもやられてしまったのだ。さすがに、香藤がやり過ぎという事はいくら岩城でも分かるというものである。
「岩城さ〜ん……」
 岩城は香藤に背を向けたまま、一言も口をきいてくれない。香藤にしても、やり過ぎてしまったと反省はしていた。
 今まで我慢していたからという理由もあるが、岩城の身体が素晴らしくて、ついついのめりこんでしまったのである。
 岩城の身体は綺麗でとても感度が良かった。それに快感に正直な岩城の乱れた姿も、香藤に火をつける原因となった。濡れた瞳や反らされる背中、揺れる腰。それらをみせつけておいて押さえろというのも無理な話なのである。しかし、風呂場でもやったのはまずかった。
『朝食でも、つくるか〜』
 と、香藤は岩城の御機嫌をとるべく、キッチンに向った。
『エシレのバター、もうそろそろ注文しておかなきゃな〜』
 岩城は人間ではないので、あまり合成的なものは受け付けない。いっしょに暮しだしてから、香藤はしごく素材に気を配るようになった。外食もほとんどしないものだから、香藤の料理の腕はかなりあがった。
『ここは豪華にいくか〜』
 香藤は頭の中で今日のメニューを考え始めた。
 岩城はベッドのなかで身体のだるさと腰の鈍痛と戦っていた。
『くそ〜香藤め〜』
 こちらが何も知らないと思って好き放題やりやがって〜と香藤に対する恨み言を呟いていた。
 岩城の怒りには恥ずかしさも多々含まれていた。香藤の腕の中で自分が乱れてしまったのがくやしかったのである。香藤のもたらす快感に溺れてしまったのがくやしい。
『こうなったら、いつか俺が香藤を溺れさせてやる〜』
 今まで興味もなかったし、ちょっと恥ずかしい気がして、その手の知識はもとうとしなかったのだが、これからは勉強しまくってやる!と岩城は決心していた。
 そんな二人に少々黄色い朝日が眩しく降り注いでいた。