ダーク・ファング2

次の日の朝、桃が寮にいなかった事を知った教官達は
「校則違反として罰則じゃあ〜退学じゃ〜」
などと言ってわめきちらしていたが、塾生達は不安な気持ちに襲われていた。
今までにも桃が寮を抜けだすとか、ふらりといなくなる事は何度かあったが、夜が明ける前には必ず戻ってきていたのだ。
「どうしたんだろ〜桃?」
「誰も桃の行き先しらねーのかよ」
「なんか悪い予感がするの〜」
横で椿山や秀麻呂のやりとりを聞いていた伊達も、松尾の言葉ではないが嫌な予感を覚えていた。
「事故に合ったんじゃねーだろーな」
「桃なら車ぐらい軽く躱せるぜ」
「だがよ〜間の悪い時ってのはあるだろう」
「…う〜ん…」
「町の病院に確認してみますか?」
虎丸と富樫のやり取りを聞いていた飛燕が提案する。
「そうだな。念の為に…」
その時、教室に校内放送が入り、富樫と虎丸、J、伊達、飛燕、雷電に塾長室に来るよう呼出された。
「なんじゃろ?」
「桃の事かもしれねーぞ。急ごうぜ」
急ぎ足に富樫が駆け出し、他の皆も続いて塾長室に向かう。中では塾長が眉に皺をよせて座っていた。
「昨夜から桃が帰らんそうだな」
「おお、そうだ。あんた何か知ってるのか?」
「こら、塾長になんたる言葉使いであるか」
塾長の隣に立っていた教頭が富樫の口調を咎めるが、彼は無視した。
「桃の行き先を知っている奴はおらんのか?」
「…花を買いに行った」
皆の後ろで立っていた伊達が口を開いたので、皆は一斉に振り返る。
「花とな?」
「天挑五輪の供養塔に備える花だ」
「…そうか…さほど時間のかかる用事ではないな…だが、まだ戻らんところをみると…」
「伊達、おめえ、昨日は桃の行き先は知らんって言ってたじゃねーか」
「…………」
虎丸がくってかかるが、別に嫌味で黙っていた訳ではない。たんに邪魔臭かっただけである。花を買いに言った理由を話せば、目の前の愛嬌男はきっと落ち込むだろう、と分かっていたからでもあるのだが。
「…今、思い出した」
「てめえ〜」
知っていたくせに言わなかったのは明らかなので、虎丸は伊達に詰め寄ろうとした。が、塾長の言葉で虎丸は手を止めた。
「もしかすると桃はかどわかされたかもしれん」
「え?」
意外な塾長の言葉に、その場にいた皆は一瞬固まってしまう。
「誰に?何の為にです?」
「先週、桃と東郷の総代戦をやっている最中に「闇の牙」と名乗る輩がやってきてな」
「闇の牙?」
「それは、もしや…」
「知っているのか雷電?」
「うむ…裏の賭博世界で、生死をかけた戦いを行わせる巨大な組織の存在を聞いた事がある。確か、その組織の名が「闇の牙」…」
「そのとおりだ。奴らは命を賭けた対戦試合を行わせ、それを世界中に配信して賭博を行い、巨大な利益を得ている。天挑五輪で優勝した我が男塾にも参戦するよう申し入れてきた。むろん、断ったがな」
「そいつらがなんで桃を?」
「参戦を断るなら、総代の剣 桃太郎だけでも寄越せ、と言ってきたのだ。かなり食い下がっていた」
「桃だけでも、だと?」
「桃は天挑五輪で優勝した男塾の大将で現総代です。話題性を狙ったのでしょう」
「そうだ。賭事はおもしろい駒が揃う程盛り上がるという訳だ」
「桃がそんな大会に出る訳ねー!」
「だからこそ攫われたかもしれん」
「盛り上げ役の為に桃をさらったって言うのか?」
「奴らを甘くみてはいかん。過去に何度も生死をかけた賭博を行っているのに、表ざたになった事は一度もないのだ。巨大な力で圧力をかけ、隠し通している。人一人かどわかすぐらい朝飯前じゃろうて」
「しかし、桃がそう簡単に…」
「桃とて油断する時もあろう」
「…何故、俺達を呼んだんだ?」
今まで沈黙していた伊達が初めて口をひらくが、怒りを押さえた口調であるのを皆は感じていた。
「もうすぐ「闇の牙」が主催する大会に出場する参加者の名が発表される。そこに桃の名前があるかもしれん」
塾長の説明が終わるや否や、鬼ヒゲが部屋に飛び込んで来る。
「塾長〜来ました〜王大人から連絡が!」
鬼ヒゲは持っていた紙を塾長に渡し、それを見た塾長の眉がみるみる歪んだ。
「…悪い予感は適中したようだ」
冨樫が素早く塾長から紙をひったくる。周りにいた伊達以外の者もその紙を覗き込む。
その紙には
『七牙冥界闘の出場者』のタイトルがあり、下記に有名な格闘家達の名が並んでいる。その中に
『天挑五輪大武會 優勝「男塾」の大将、現総代 剣 桃太郎』
の名があった。
「桃がこんな下世話な大会に出る訳はない。無理に出場させる為に連れ去ったに違いない」
「くそ〜こいつら、よくも桃を!」
富樫が塾長の机に拳をぶつける。
「ちくしょう〜!」
暴れ出す虎丸の横を通り、富樫の握っていた紙を奪い取った伊達は、深呼吸をして確認する。そこに桃の名を認めると、怒りの炎が体中に漲るのを感じる。
「…何故、俺達を呼んだんだ?」
同じ質問を塾長に繰り返す。
「桃の救出に向かって欲しい」
「…言われるまでもねー」
「しかし、どこに捕われているのでござろう?」
「対戦の様子は観衆の前で行われる。テレビ中継も利用されるのだから、電波で場所を特定出来る筈だ」
「おっしゃ、桃を助けだすぞ!」
「おうよ!俺達の大将を見せ物にされてたまるか!」
必ず助け出してやるから待ってろよ!桃!
その場にいた全員の心の叫びだった。


H20.9.18

セブンタスクスは賭事なんだから、こういう風な展開もあってもいいかな〜と思いまして;
なんかシリアスに進んでいますが、絶対ギャグになると思います;私が書いてるんだし〜(いばれる事か;)
「知っているのか雷電」が書けて楽しかったv(ばかもの…;)