漆黒の瞳 5


天挑五輪での戦いが終わり、参加した塾生達は治療の為の休息が与えられた。
約一ヶ月後の夜、桃は久し振りに男塾の寮に戻って来た。
治療はもちろんだが、退院してからも太刀の手入れに刀匠の元へ出掛けたりしていたので、ここに帰ってくるのは本当に久し振りであった。
塾長に報告に行った後、桃は赤石の元に挨拶に行こうと思っていた。
明日から、桃は二号生となる。
時間としては夕食が終わってから大分たっている。まだ、就寝する時間ではないが、取りあえず桃は寮で先に会った江戸川にお伺いをたてた。
「ごっついの〜聞いてくるから、ちょっとここで待っとれや」
「まだ、この敷地におられるのですか?」
赤石達は三号生になるのだから、天動宮に移動しているかもしれない、と思ったのだ。
「ん〜何人かの塾生は三号生寮に移っとるよ。赤石さんもいつでも行ける筈じゃけどまだここにおるの〜」
「どちらに?」
「二号生筆頭部屋じゃ〜っておい、桃」
「二号生筆頭部屋ですね。分かりました、行って参ります」
江戸川の脇を素早く走りぬけ、桃は筆頭部屋に向かった。
「おい、桃。わしが聞いてきてからじゃ!」
「江戸川先輩の手を煩わせる必要はありませんので、気にされないで下さい」
「こら、桃〜!」
怒鳴る江戸川を後目に桃は廊下を走り抜けていた。
筆頭部屋の前に立って扉をノックする。
返事はないが桃はノブを回して扉を開けた。
「失礼します」
「…………」
ガランとした部屋の中には赤石が一人立っていた。珍しく帯剣していない。
「剣桃太郎、ただいま帰りました」
「…おう」
「明日から授業に出席させて頂きますのでご報告に参りました」
「…そうか」
「はい」
「桃…」
「はい」
「今日から、ここがお前の部屋だ」
「…はい…」
「荷物を運んでおけ」
もしかして、それを言う為に待っていてくれたのだろうか?と桃は思った。
「赤石先輩は天動宮に行かれるのですか?」
「柄じゃねえがな…」
先程の江戸川がちらりとした話によると、邪鬼が使っていた総代部屋や死天王の部屋はそのままにしているそうである。もし、死天王が戻ってきたとしても、赤石は彼等を三号生の塾生と同じに扱う気はないようだ。彼等が仕えるのは邪鬼だけであろうし、赤石も分かっているのだろう。
「…先輩…」
「ん?」
「…俺は先輩に甘えてますか…?」
「…………」
自分は赤石に甘えているのだろうか?桃はずっと考えていた。
赤石を好いている気持ちは本当だ。ただ、どういった感情の流れの中にあるかが分からないのだ。赤石といると気持ちが楽で、安心出来るから、と…
「…お前に甘えられていると思った事はねえ…」
「でも…」
「つきまとってくるな、うっとおしい、と思った時はあるがな」
「ひどいな〜先輩」
「お前が甘えてるのは別の奴じゃねえのか?」
「え?」
「お前が背中を預けているのは誰だ?」
桃は赤石の言葉にはっとする。
俺が甘えているのは…頼っているのは…
自覚がない程自然に甘えているのは…心配する必要がない程自然に頼っているのは…
自分は何が怖いのか…
何故、怖いのか…
「…先輩…」
「ん?」
「やっぱり俺は先輩に甘えてますね…」
「ふん…」
「…頼ってる…」
「何もちあげてやがる?」
「なんだかお父さんみたいですね」
「はあ?」
「頼りがいがあって、背中で語るっていうか…」
「ふざけんな、てめえみたいな正体不明なガキがいてたまるか。第一…」
「はい?」
「そんなに老けてねえよ…」
と、赤石がぼつりと、ふてくされながらつぶやくので、桃は吹き出してしまった。
「…てめえな…」
「すみません。先輩って可愛いな〜と思いまして」
「…切られてえのか…」
「それはご勘弁願います」
豪剣を所持していなくて良かった。
「…まったく…」
「俺は先輩が好きです」
「…………」
「大好きですよ」
「…ふん…」
赤石は桃の言葉を鼻であしらいそっぽを向く。その姿は照れかくしに見えなくもない。
やっぱり俺はこの人が好きだ。と桃は思う。
もしも、赤石が自分を求めてきたら肌を許すだろう。しかし、それはありえない事だと知っているからそう思えるのだ。
赤石は決して自分を頼らない。求めない。分かっているから桃は安心して側にいられる。どうしようもない激情に翻弄される心配もなく。
赤石は常に自分の前を行き、一定の距離を保ちながら大切な事を身をもって教えてくれる。厳しくて重くもあるのだが、それが出来るのは赤石だけだ。桃自身も互いの間に存在する距離を縮めたいとは思わない。
そして、自分からは決して赤石を求めないだろう、隣にいるのは赤石ではないのだ、と桃は気付いた。
桃は赤石に近付き、肩にコトンと頭を乗せた。
「?」
じっとしたまま何も言わない桃を赤石が不思議そうに見つめる。
赤石を求めたのなら…怖くはなかったのだろうか…?
しかし、それは…
桃は顔を上げ、赤石に微笑みかける。
「…先輩…ありがとうございました」
「…礼を言われるような事はしてねえが…」
「いえ、ありがとうございます…」
「?」
「では、先輩。失礼します」
「おう…」
筆頭部屋を出ると、桃は新しい寮部屋に向かった。
戦いに参加しなかった一号生達は、すでに二号生寮に移ってきており、桃の顔を見ると一目散に駆け寄ってくる。
「桃〜怪我はもういいのか?」
「ああ、大丈夫だ」
「おう〜桃〜久し振りじゃの〜元気じゃったか」
「おかえり〜桃〜」
虎丸や富樫は、復帰祝いだ、と酒を飲んでいてすでに出来上がっている。
皆に挨拶をすませると
「伊達はまだ戻ってないのか?」
「ああ、確か三面拳とどっか外国に行ったんじゃなかったかの〜」
「月光の師匠に報告に行ったって聞いたぜ」
「飛燕も雷電もまだだな」
「…そうか…」
伊達に話しをしなければと思ったのだが、明日以降になりそうだ。
この時の桃はそう思っていた。
しかし、皆が寝静まった夜中、見知った人の気を感じて目を覚ました桃は、それが伊達であると確信して起き上がった。
伊達が男塾の寮に戻ってきたのは、丑三つ時に近い時刻だった。
早い飛行機に搭乗したのだが、天候の悪化で遅れてしまい、日本に着いたのは夜更けである。交通機関は止まっていたので、線路を歩いて帰ってきたのだ
男塾の門を見ると気が揺るむ。
帰る場所を持つのは初めての経験かもしれない。遠い昔に持っていたかもしれないが、忘却の彼方である。
部屋は二号生寮に移っており、伊達と飛燕、雷電の部屋は二階の一番端にあるらしい、と飛燕から聞いている。中に入ると、誰もいない部屋に新しい布団だけが置いてあった。
早速、上着を脱ぎ、裸足になる。
ここは自分の居場所なのだと思うと心が落ち着く。
窓を開け、窓枠に腰掛け足を乗せる。春先の気持ちのいい風が吹き、桜の花びらが部屋の中にまで運ばれてくる。
寮の庭に咲き誇る桜並木に、伊達はしばらく見とれていた。桜がよく似合う男の顔を思い浮かべながら…
すると、誰かが近付いてくる気配を感じて顔をドアに向けた。
ドアがゆっくりと開かれ、そこに立っていたのは
「…桃…」
「…やっぱり伊達か…おかえり…」
月光を浴び、窓枠に腰かける伊達の姿は、フレーム納められた一枚の絵画のようで、惚れ惚れする男っぷりである。
「…ああ…」
「電気、つけないのか?」
「…球が切れてる…」
「そうか、明日付け替えないとな」
「…ああ…」
人口灯がなくとも、今日は晴れわたった夜空に満月なので、差程暗くは感じない。窓から差し込む月明かりだけで、桃の柔らかな笑みが見える。
いきなり桃が現れたので、心の準備をしていなかった伊達は胸が熱くなる。
「飛燕と雷電はどうした?」
「明日の朝の便で帰って来る」
「そうか…」
「…桃…それ以上近付くな…」
「…え…?」
桃が部屋の中に入り、自分の側にやってこようとしたので、伊達はやんわりと制した。
この一ヶ月の間、伊達は飛燕らと共に黎明寺を訪れていたのだ。忘れられないあの日の土地へ。
幼い時、助けだされた後も、行き場のない伊達はそこで武道の訓練をしていた。
時折、自分のした行為に戦き、悪夢にうなされる事もあった。心に乾きと飢えを感じ、凶暴な破壊衝動を押さえられなくなる時も。自分が何者なのか、どこに行くのか分からなくて不安になる時も。
そんな時にいつも思い出すのは美しい漆黒の瞳。優しさを映した瞳の色。思い出すと不思議と心が凪いだのである。
変わりない黎明寺を見ていると、救われた日々を鮮明に思い出してしまった。
救ってくれた人が、今、目の前にいる。
抱き締めたい、という想いにかられる。
今、桃に触れると押さえられる自信がない。
伊達は二度と桃を自分の欲望で傷つけまい、と決めていた。
明日からは大丈夫だ。きっと、大切な仲間の一人として桃に接する事が出来るだろう。
けれど、今は…
「…伊達…黎明寺の近くの森で倒れていた少年はお前なのか?」
伊達は心臓が止まるかと思うぐらいの衝撃を感じる。
…今…桃は…なんと言った?
「そうなんだな?」
「……覚えて…いたのか?」
「思い出した、と言った方がいいな…」
あの夜の後、熱が引いて気持ちが落ち着いてくると、男の言葉を思い出した桃に、子供の頃の記憶が蘇ったのである。森に倒れていた少年と黎明寺の住職に言われた言葉を。
もしかして、あの男はあの時の…?
そうかもしれない、と思ったが考えたくない気持ちが勝っていたので、それ以上は前に進まなかった。
しかし、伊達が告白した時に確信したのだ。
あの男は森に倒れていた少年であり、伊達なのだ、と。
少年が運び込まれた後、黎明寺の住職は桃に少年の話は誰にもしないで欲しい、と頼んできたのである。
あの子は想像を絶する地獄を体験してきている。この先も、一生心に傷を背負って生きていかねばならない。
どうか、黙っていてやって欲しい、と。
きっと住職は孤戮闘の印を知っていたのだろう。
幼い桃にはよく分からない話だったが、自分が黙っているのが良いのなら、そうしようと思ったのだ。
伊達が告白した時に、住職の言葉の意味が桃に大きくのしかかってきた。
『一生心に傷を背負って生きていかねばならない』
伊達は心に大きな傷を抱えている…そして、天挑五輪の最終戦で、伊達は自らの過去を話した。自分達になら過去を知られてもいい、と判断してくれたのだ。伊達の心の傷を知り、やっと桃はすべてを理解した。
「言うのが遅くなってすまない…」
「…………」
「また、会えて嬉しいよ」
身体中が震えているのを伊達は感じていた。
桃、分かるか?俺にとっては世界が変わってしまうぐらいの出来事なんだぜ。
感謝なのか?安堵なのか?歓喜なのか?ありすぎて言葉に出来ない。いや、言葉に出来る程単純な感情ではないのだ。
乾いた心にいきなり水が注ぎ込まれても、溢れ出すばかりで飲み込めない。
叫びたいような、泣き出したいような、熱く、激しい衝動が込み上げてくる。
この衝動が桃に向かってしまう前に、伊達は桃から離れなければ、と思った。
「…桃、出て行ってくれ…」
「伊達…?」
「…俺はお前に惚れてる…」
「…………」
「それだけだ…応えてもらおうなんて思っちゃいない。お前が誰を想っているのかも知っている…」
「…………」
「明日からは大丈夫だ。お前の横に仲間として立っていられる…だから、今は出て行け…」
「出て行かないと…どうするんだ?」
伊達の言葉を無視して桃は近付いてくる。
「早く…出て行けよ…」
「どうするんだ?」
「…お前が…欲しくなる…」
「…俺が欲しいのか?」
「…………」
ここは二階だが、窓から飛び降りてやろうか、と伊達は思う。
「…もういい…俺が出て行く…」
伊達が立ち上がって桃の横を通り過ぎようとするが。
「俺をあげたら、お前を俺にくれるのか?」
「え?」
桃の言葉の意味が分からない。
「俺は赤石先輩が好きだ。先輩だけじゃなく、富樫も虎丸もJも好きだ。飛燕も雷電も松尾も田沢もみんな好きだ。もちろん伊達、お前もな」
知っている。だから苦しいのだ。仲間としての信頼だけでは物足りない自分に気付いているから。
「…でも、欲しいと思うのはお前だけなんだ…」
怖いと思うのも…
伊達の強い光を持った視線が怖い。その中に自分への想いが見えるから。
嵐のような激しいそれに身を委ねそうになる自分が怖い…
でも、自分が求めているのは…
欲しいと思うのは…
欲しいと思うから怖いのだ…
自分の激情が怖い…
伊達は桃の言葉の意味が頭に入ってこなかった。期待しそうになる自分が怖くて、理解するのを心のどこかで拒んでいる。
「…桃…?」
「俺を全部あげたら、俺の欲しいものをくれるのか?」
もしかしたら、これは夢なのだろうか?春の桜が見せた夢か?
目の前に立つ桃は漆黒の瞳を輝かせ、窓から舞い込んだ桜の花びらを髪に落としている。本当に存在しているのか疑ってしまうぐらい美しい思う。だから、伊達は手をのばした。
前に立ってその頬に触れる。温かい感触を指に感じ、愛しく想う瞳を見つめて確信する。
ああ、桃だ。本当に桃が自分の前に立っている。あの朝会った同じ人だ…
触れて我慢出来なくなった伊達は、桃を強く抱き締めた。
桃はそんな伊達の背中にそっと手を回す。
「…俺の欲しいものをくれるのか?」
「……何が欲しい……?」
「…お前が欲しい…」
「…後悔…しないか…?」
「する訳ないだろ…お前なのに…」
「…俺の手は血まみれだぞ…」
「関係ない…伊達だから欲しいんだ…」
「…………」
「お前が俺のものでないと嫌だ…」
ぽそりと囁く桃の言葉に、伊達は抱く腕に力を込めた。
「…なら、もって行け…全部…くれてやる…」
月明かりに照らされた二人の影が、やがて一つに重なる。
「ん…」
深く口付けると、桃がそれに応えてくる。舌をからませ、吐息を奪い合った。
ゆっくりと、伊達は桃の身体を夜具の上に倒した。
まとっていた単衣を脱がせ、あらわになった肌に自分の唇を落とすと、桃がすがるように伊達の身体にしがみついてくる。
伊達は桃をうつ伏せにして、その背中を指で辿った。2つの大きな抉られた傷跡を見つける。
「…俺がつけた傷だな…」
「…ん…」
「…あの時はお前を殺せば、俺のものになるかとも思った…」
「…伊達…」
「…でも…違ったな…」
桃を自分のものにしたいのだと思った。しかし、そうではなかった。
「…お前のものになりたかった…」
桜の花びらが桃の背中にひらりと落ちてきたので、伊達はその花びらごと桃の背中に歯をたてる。
「…あ…」
甘い刺激に桃が背中を反らし、身を妖しく捩るが、伊達は愛撫を深くした。
「…んん…っ」
深くなっていく快感に翻弄されて、桃はシーツを強く握りしめた。
陵辱された時の記憶が頭をかすめ、一瞬、身を強張らせたが、今自分に触れているのは、見知らぬ男ではないのだと気付くと自然に解けた。それよりも、桃は自分の身体の反応に戸惑った。
伊達が自分の身体に触れる度に、身体が熱くなる。甘い刺激を欲して濡れるのだ
もう伊達が与える快感を知っている。知っているから、身体が求める。ねだるように身体が蠢いて啼く。
こんなに…感じるなんて…
はじめての感覚に桃は少し怖くなる。
「…ま…伊達…あ…!」
背後から伊達が自分の内に入ってくる。
獣じみた交合に羞恥を煽られ、身体が揺れて、快感に溺れる。
眠っていた自分の中の獣欲が呼び覚まされてきそうで怖い。
声を押さえようと桃はシーツを噛み締めた。
「…っ……ぐ…っ……」
そんな桃に気付いた伊達は、動きを止めて桃の頤に手をかけて顔を向かせた。
蒸気した頬に潤んだ瞳が伊達を見つめてくる。
「…声を聞かせろ…」
「…ん…」
「…お前を全部くれるんだろ…」
「…伊…達…」
「なんだ…?」
「……俺は……」
「……ん……?」
「…自分が怖い…」
「…俺も…怖い…」
お前を壊してしまうのではないか、と思って怖い…
伊達は身体を捩り、無理な体勢から桃に口付ける。身を捩った時、桃の身体に震えが走った。
桃は手をのばし、伊達の首に手をかけて引き寄せると、自分から口付けを深くする。ねだるように…
伊達が身体を揺さぶるので、桃は再びシーツの上に顔を沈めた。だが、今度声を堪えなかった。
伊達は自分を全部受け止めてくれる。
自分の激情も、欲望も、想いもすべてを奪ってくれる。だから、脅えなくていい…
そして、伊達も自分のすべてを与えてくれる。
彼の過去も、心の傷も、血まみれの手も、全部俺のものだ…
桃は伊達のもたらす快感に身を委ね、身体が溶け崩れる感覚を味わう。
どれ程繋ぎあっただろう、お互いの身体の境界線が分からなくなりそうになった時、桃は伊達に訴えた。
「…伊達…もう…無理……」
「…ん…嘘だ…な…」
「…本当に…駄目…だ…」
掠れた声で桃は駄目だと言うが、伊達が入ると、もっと深く誘うように熱く濡れた内がからみ、引こうとすると止めるように締め付けてくるので、説得力がなかった。
「桃…お前が悪い…」
「…な…に…?」
「男を溺れさせるお前の身体が悪い…」
「…そ…そんな…へ理屈…」
「…俺は…まだ…足りない…」
「あ…!」
伊達の揺さぶりを感じて、桃の意識が瞬間白く染まる。
「俺のすべてが欲しいんだろ…」
「…ん…欲しい……」
濡れた唇と潤んだ瞳で伊達を見つめる。
そういう瞳をするから離せなくなるのだ。
「…後悔はしないと言ったな…」
「……もう…してる……」
伊達は桃が意識を失うまで、空が白んでくるまで彼を離す事が出来なかった。

窓から差し込んでくる朝日に、桃の顔がはっきりと照らし出される。
ぐったりとして、しかし、規則正しい寝息をたてて眠っている。
伊達はそんな桃の寝顔を見つめ、前髪をそっとかき上げた。
桃と共に朝を迎えるのは二度目だと思う。
一度目は、あの運命の日。そして、二度目の今は、自分が彼のものになった日だ。
いや、一度目の朝から、自分はとっくに彼のものだったのかもしれない。
「…ん…」
腕の中の桃が薄く目をあける。自分を抱き締めている伊達に気付き顔を上げた。
「…伊達…」
「…ん…?」
桃が柔らかい笑みを伊達に向けるので、伊達も口元を綻ばせてそれに応えた。その笑みを浮かべたまま、桃は幸せそうに眠りに落ちる。
伊達は彼を見つめているだけで、想っているだけで心が満たされていると気付いた。
人が人を想うのは、それを伝えるのは、実は簡単な事なのだ。
その簡単な事が分からずに、随分遠回りしてしまったように感じる。だが、その道のりを経なければ分からなかったとすれば、すべて受け入れられるだろう。
遠回りをして、彷徨って、いつもここに辿り着く。
新たな生を受けた日と同じところ。
漆黒の瞳の君に…

       


H20.10.3

す、すみません…あの〜まあ、これはタラレバの話という事で…;脳内妄想という事で…;
実際(原作)では桃は伊達の過去に関与していませんから;
私としては二人はもっと強くて「したたか」だと思っていますが、まあ、こういうバージョンが
あってもいいかな〜と;
この話は「目の見えない桃ちゃんって萌える!」から書いた「1」から始まっておりまして、本
当に続きを書くとは思っておりませんでした;(「1」と「1〜5」と分けて考えて下さるありが
たいです;)
「続きがあるとしたら、こんなんだよな〜」と妄想してはおりましたが、形にするとなると見送
ったりする事がありますので、これもそういう風になるだろう、と。
「2」を書いたのはR様の「闘っている最中にお互いそんな感じになってきて〜」というシュチュ
エーション案をご提供して頂き、それが元になっております。書いた時は結構エロくなってしま
ったんで「お、怒られるんじゃないか…?;(誰に?;)」と少々ビビッておりました;が、某様
が「読みたい」とおっしゃって下さったので、続きを書く決意をした訳です;(ご両人とも、後
悔されていないか心配です;あわわわ…;)
「5」の濡れ場は書くかどうか迷いました;
「床に二人の身体が…」→一気に「次の日の朝」になる
的な、流れでもいいかと思ったんですが、そうなると、濡れ場で一番激しいのが「2」になって
しまうので、「無理矢理なやつが一番激しいのは嫌だな〜」なんて考えてしまって;
「やっぱ想いが通じたうえでの濡れ場が幸せな筈!エロ度も一番でなくては!」
とあほな思考回路で書いてしまいました〜自分の文才不足忘れてんじゃないのよ!(本当ばか;)
せ、説明をさせて頂くとですね〜
伊達が「5」で桃に告白できたのは「男塾」で自分の気持ちを伝える術を学んだというか…自分
の過去が話せるようになった伊達なら、気持ちを桃に言えるんではないか、と…;
無理矢理っていうのは自分の気持ちの押し付けなんだと分かるようになった、って感じで書きま
した;
赤石先輩は私の中では桃のお兄さん的位置ですね〜そこから全然動かせません;
桃は私の中の脳内妄想で、幼い頃に保護者を失っている、ってのがありまして。だから兄貴肌の
年上の人に懐いてしまう、と;アニメの桃が私の中で基本なんで、どうしても受です;伊達が怖
かったのは、好きな人が一番怖いというか…
伊達も桃も要求するって事が少ないように思うのです。人に対して「〜して」みたいな。でも、
「〜欲しい」という感情が芽生えた時、戸惑うのではないか、と。
伊達は強引な方向にいって、桃は気付くのに時間がかかる、という裏設定がありました;
自分の小説の説明するなんて情けないですね;すみません;
み、皆様のお怒りはすべてお受けする覚悟です!でもチキンハートなんで、やんわりと怒って下
さるとありがたいです…;(←ヘタレすぎ;)