ダーク・ファング3

灰色の壁に囲まれた部屋で桃は目を覚ました。
一瞬、どうしてこんな所にいるのか分からず混乱するが、すぐに麻酔を打たれた事を思い出す。
『一体ここはどこなんだ?何の目的を俺を浚ったんだ?』
麻酔のせいか、ガンガン痛む頭を抱えて桃は起き上がった。
浚われた時と同じガクラン姿であったが、身につけていた武器はすべて奪われている。
部屋の壁はすべて灰色一色で、窓は一つもなかった。鋼鉄製の扉があるが、試しにノブを回すと予想通り鍵がかかっている。通路の入り口らしき空間が壁に空いていたので覗いてみたが、先は洗面場であった。そこにも窓はない。こういった設備が用意されているという事は、一時的に閉じ込めておく場所ではないという訳だ。
完全な密室か…
『お目覚めかね、剣桃太郎君』
どこからか聞こえてきた声に桃は顔を上げる。
壁の一部が開いて大きなモニターが現れる。そこには葉巻きを銜えたひとりの外国人男性が映っていた。
「…………」
桃はモニターに映った男を睨みつける。
この部屋のどこかに監視カメラがあって、自分の様子は見られているらしい。
どこからだ?
ざっと見渡したところ、カメラのある位置は分からなかった。
『君の天挑五輪での活躍は拝見させてもらったよ。実に素晴らしい戦闘能力だ』
「…………」
『その戦闘能力を今度は我が「闇の牙」に活かしてもらおうと思っている』
男は「闇の牙」が生死を賭けた試合賭博を行っている事や、世界中の顧客が楽しみにしている事。また、客を楽しませてくれた勝者には、相当の富が約束されていると力説した。
『君も男なら、その力を富と権力を手に入れる為に役立てたいだろう?』
「…断る…」
桃はますます鋭い視線を男に向けた。
『これを見た後も同じ事が言えるかな?』
「なんだと?」
『これを見たまえ』
モニターから男の映像が消え、変わって桃と同じ灰色の壁の部屋が映し出される。その部屋の中にはたくさんの子供がいた。歳の頃は8〜13才といった感じで十数人はいる。
「?」
『この子達は別の部屋に閉じ込めてある子供達だよ』
子供達の映像が映しだされたまま、先ほどの男の声が聞こえる。
桃が何ごとかといぶかし気に見ていると、子供達の前に男が現れ、いきなり鞭をふるって子供をぶちはじめたのである。子供達は丸くなって泣き始めた。
「な!」
桃は驚愕して思わず叫んだ。
「何をやっている!すぐに止めろ!」
『ああ、止めさせてやってもいいよ。君が試合に出るならね』
「なに!」
『どうする?君が拒否するなら、あの子達は鞭でぶたれ続けたままだよ。この先ずっとね』
「…く…外道が…」
男はおもしろそうに鼻をならすと
『さあ、どうする我が「闇の牙」の試合に参加するかね』
再度、桃に問うた。
「……分かった……」
桃は苦渋に満ちた表情を浮かべて承諾した。


一方、「男塾」では浚われた桃を救いだすべく策が練られた。まず、どこに連れ去られたか場所を探らなければならない。
今の時点で考えられる案は、試合賭博の映像が配信される場所へ行き、どこから電波が発信されているか探知する方法である。
問題はどこで「闇の牙」の試合が観戦できるか、だ。
「闇の牙」は世界中に顧客がいるので、試合は世界中に発信される。必ず、試合映像を観戦する場がある筈だ。
塾長が訳を話し、協力してくれる仲間を募ったところ、実に大勢の仲間が協力に名乗り出てくれた。
王家の谷のファラオやガンダーラの朱鴻元。宗嶺厳、泊鳳に蒼傑、ゴバルスキー、トウフウケツ。中には、あの藤堂豪毅もいた。
皆が調査してくれた結果、観戦可能な場所は極秘扱いだが世界中にあり、場所もそれぞれ突き止めてくれた。各自が一番近い観戦場所に潜り込み、逆探知してくれる事になった。
「おそらく逆探知妨害は行っているだろうが、どこか一つでも、妨害を突破出来るかもしれん」
塾長の言葉通り、数うち作戦で当たる事にした。
運が良ければどこかの観戦場所で試合が行われ、その場所に桃が現れるかもしれない。そうなった時は、即効、桃を取り戻せるのだが、可能性は低かった。
同じ日本にいた豪毅がコンピューターを搭載したトラックで男塾に駆け付け、世界中の皆と連絡をとってくれる事となった。
王大人の調べでは、賭博試合が開催されるのは三日後、との事である。

そして三日後、男塾の校庭に装甲戦車並のトラックが駐車し、荷台に事情を知る一号生らが乗り込んだ。
桃の誘拐を知らされたのは、あの日、塾長室に呼ばれた者達の他に、田沢、松尾、椿山、秀麻呂だけである。
田沢は桃の居場所を突き止める逆探知装置機を三日で作りあげていたが、使えるかどうか疑わしいところであった。
トラックに乗った皆は中のコンピューター設備のすごさに感嘆した。
「この度はご協力に感謝します」
飛燕が頭を下げて礼をいうが、豪毅は無言で会釈を返しただけだった。
「儂の作ったタザワ3号も逆探知したいんじゃがの!」
「…………」
豪毅は田沢の持込んできたラジコン操作機に似た物体をうさんくさそうに見つめたが
「…おい、こいつの機械も探知できるように繋いでやれ」
と、エンジニアに言ってくれた。
「このモニターに「闇の牙」が発信している賭博試合が映し出される筈だ。観戦場に忍び込んだ者が送ってくれる」
皆は一斉にモニターを見つめた。
「来たぞ!」
モニターに映し出された映像は一人の外国人の男だった。
『Lady and gentelman!皆様!「闇の牙」へようこそ!』
ボクシングのリングに立った男はマイクを握り、延々と前説を語り始める。周りにいる大勢の観客がそれに応えて歓声や野次をとばしている。
『さて、今回はいつもの試合の前に食前酒を味わってもらおうと思います!あの天挑五輪大武會で優勝した
「男塾」の総代、剣桃太郎に登場してもらいましょう!』
モニターを見つめていた全員が身を乗り出す。
男が立っていたリングの上から巨大なスクリーンが降りてきて、そのスクリーンに桃が映しだされていた。残念ながら、観戦場に直接現れて戦うのではなかった。
「桃じゃ!」
「無事だったのか、桃」
「とりあえず無事だったんじゃな!よ、良かった!」
「…………」
伊達は胸に強烈な痛みを感じて、声が出なかった。
―桃!―
桃は何もない灰色の部屋に一人立っている。スクリーンに映しだされた桃は心なしか青ざめていて、痩せたように思えた。
『さあて、この剣選手には今から飢えた虎と戦ってもらいます!もちろん素手で!』
「なにを〜!」
「素手で虎とだと!」
「なにをさせやがる!」
男が言うや否や、部屋に一匹の虎が放たれた。
『さあ、皆様、勝つのは虎ですか?剣選手ですか?倒されるとしたら、何分でしょう?1分ですか?2分もつでしょうか?さあ、どんどん賭けて下さい!』
『俺は1分で食われるに5千ドル賭ける!』
『俺は3分に7千!』
『10分で嬲り殺しに1万!』
周りの歓客達が大声で叫び始める。
「くそ〜あいつら!桃を見せ物にしやがって!」
富樫が悔しそうに壁を殴る。伊達はなんとか込み上げてくる怒りを押さえた。
「逆探はまだか?!」
「まだ、駄目です。妨害されていますし…トラップもしかけてあります…」
「タザワ3号!桃の居場所をつきとめるんじゃ!」
桃は自分に威嚇してくる虎と向かい合っていた。虎はグルグルと桃の周りを回りだすが、隙が見つけられず、なかなか襲いかかれずにいるようだった。
「逆探はまだか?!」
「駄目です」
「タザワ3号!頑張ってくれ〜!」
タザワ3号から煙が立ち上り始め、火が吹き出てきた。
「うわ〜タザワ3号が〜!」
「うるせ〜ぞ田沢!」
「早く火を消せ!」
その時、スクリーンの中の虎が桃に襲い掛かった。
桃は虎の真正面に立ち、避けようともせず虎に拳を放った。桃の拳は虎の眉間に鋭く決まり、虎は動きを止めたかと思うと床に崩れ落ちた。
司会の男も観客も一瞬、言葉を失う。
「…や、やった…」
「…虎を一撃で倒しちゃったよ…」
「眉間の急所を狙って叩いたんだ」
素手で野性に肉食獣に立ち向かうにはそれしかない。おそらく虎は気を失っただけであろう。桃ならやるだろう、と思っていたが緊張していた伊達は、ほっと力を抜いた。
『お、大番狂わせです!剣選手、虎を1分で撃退しました!さて倍率はどのぐらいでしょうか〜!』
歓客のあちこちからブーイングが飛び、桃が映しだされていたスクリーンの映像が消えた。
「あ!もう消えちまった!」
「逆探知出来たか?」
「駄目でした…」
「ああ〜桃〜早く倒しすぎじゃ〜!」
この時ばかりは、桃の力量を恨めしく思う。
「ま、待てタザワ3号が、なんか数字をはじきだしちょるぞ!」
水をかけられ、電気がスパークしているタザワ3号が確かになんらかの数字を示している。
「タザワ3号には経度と緯度をだすようにしとった。きっと桃のいる座標じゃ!」
田沢が数字を言うと、エンジニアがコンピューターに場所をはじき出すよう命令した。
「場所はどこだ?」
「香港の近くですが…海です」
「こら田沢!でたらめな数字出すんじゃね〜!」
松尾が田沢の頭をゲンコツでぶつ。
「いや…待て…」
豪毅が考え込む。
「どうかしましたか?何か覚えのある座標ですか?」
飛燕が尋ねると
「もしかしたらカジノ船かもしれない…」
「カジノ船?」
「ちょうどこの海域はカジノ船が多数出没する場所だ。闇の牙も幾隻か所有していた筈」
「他の場所で逆探知していたのはどうなった?」
「駄目だったそうです。ですが、アジアの中国近くから発信しているのは間違いない、と言っています」
「…行くしかないな…」
「行きましょう。今は迷っている時間はありません」
次の目的地は香港と決まる。
「タザワ3号のお手柄じゃぞ!」
えっへん、と田沢は胸を張ったが誰も聞いていなかった。


H20.10.14

逆探知の方法とか全然知りませんので、全部想像で書きました;ですからデタラメ書いていると
思いますが、申し訳ありません;トウフウケツは漢字がありませんでしたのでカタカナにしました;
伊達と桃がず〜と離れてます;こういう離ればなれの恋人ってのも結構好きなのですv再会する時に
ドキはムネムネするのです!(あほです;)
多分5、6話で完結すると思いますので、もしよろしかったらおつきあい願います;