ダーク・ファング5

閉じ込められていた部屋で、振動を感じた桃は起き上がった。
『なんだ?』
部屋は完全防音になっているらしく、外部から音が聞こえた事はない。しかし、この振動はなんだろう?
桃は床に耳をつけてみる。音は聞こえないが、部屋が傾き始めたところをみると何かあったのは確実であった。
『こうなったら部屋を出るか』
桃は扉に近付き、鉢巻の先端をこより状にしてから気を送り込んで尖らせ、鍵穴に入れた。鍵を解除しようと中を探りつつ動かす。
こうすればいつでも部屋を出れたが、監視カメラがあるので、鍵を解除している間に警備員が来るのは確実なのでやらなかった。自分一人だけなら倒して脱出する自信があるが、どこかに閉じ込められている子供達を置いていく訳にはいかない。
以前、虎と対決させられた時、虎が入って来た通路から微かに潮の匂いがしたので、桃はここが港に近い場所か、船の中ではないか、と予想していた。
港に近い場所なら問題ないが、船であった時は周りに逃げ場がないのでやっかいである。もっと探りを入れてから脱出方法を考えようと桃は思っていた。
が、何かあったのならば、このチャンスを逃す手はない。
桃は鍵を解いて扉を開けた。思った通り誰も駆け付けて来ない。潮の匂いと機械音に桃はここが船の中だと確信した。その時、爆発する音と共に船が大きく振動する。
『どこかが爆発している。事故か?』
子供達はどこに閉じ込められているのだろうか?
呼んでも聞こえないだろう。桃は他の部屋の鍵を解除し始める。
すべての部屋の扉を開け終え、この階には誰もいないと確認する。また爆発と振動が起こり、足元がふらついた桃は廊下の床に倒れた。
「いてて…」
その拍子に、見えにくいところに下に通じる階段があると気付く。
『まだ、地下があったのか?』
桃が階段を見下ろすと、下の階には海水が浸水していた。
この下に子供達が閉じ込められていたら!
桃は迷わず階段を駆け降りる。
伊達が地下三階に着いた時、その階の部屋の扉は全部開かれていた。
「桃!いるのか!」
叫んでみるが返事はない。
どこに行ったんだ?
甲板に上がったのならいいのだが、伊達は違う、という予感がしていた。
この階の部屋のすべての扉が開いていた事から、桃は子供達がいるのを知っていて探しているに違い無い、と思った。桃は子供達が甲板に連れて来られていたのを知らないのだ。
船の傾斜はますます激しくなり、バキバキという破壊音が響きだす。伊達は足元が浸水してきているのに気付いた。防水壁の警告となるサイレンが鳴り始める。
まずい!どこに行った!
「桃!聞こえたら返事しろ!」
辺りを見渡した伊達の目に、階下への階段が飛び込んでくる。
この下か!
伊達も急いで駆け降りる。下の階はすでに腰まで浸水していた。廊下に飛び出ると、反対側に歩いている人影が見えた。
「桃!」
振り返ったその人影はやはり桃だった。
伊達は時が止まったかのような錯覚を覚える。
「…え…伊達…?」
驚いて立ちすくむ桃の側に伊達が走り寄り、息が止まる程強く抱き締める。
「…伊達なのか…?どうして、ここに…」
「…………」
強く抱き締めたまま動かない伊達の身体は小刻みに震えていて、桃は泣いているのだろうか?と一瞬思う。
4度目の爆発が轟き、振動で二人は海水の中に投げ出された。
「うわ!」
「大丈夫か、桃!」
一気に水かさが増していき、この階の屋根まで届きそうになってくる。
「階段を登るぞ!急げ、桃!」
「待ってくれ!大勢の子供達がどこかに閉じ込められてるんだ!」
「子供達なら、もう助けだした!富樫や飛燕が避難させてる!」
「…そうか…良かった…」
桃はあからさまにほっとした表情をした。自分の危機はまだ去っていないというのに。
「急げ!後5分しかないぞ!」
「え?この爆発は事故じゃないのか?」
「子供を助けに来た奴が爆弾を仕掛けた。後5分で船が吹っ飛ぶ程の爆発が起きる」
階段を登りながら簡単に状況を説明する。海水が迫ってくる他に、船がぐらぐら揺れて、傾きもひどくなってくるので簡単に登れない。二人が地下三階に上がった時、防水壁が降りきってしまっていた。
「くそ!」
「どうなった?」
「…防水壁が降りちまった…ここから上にはもう上がれねー…」
「…なら、下に行くしかないな…」
「あ?」
上がって来た階段を振り返ると、海水が溢れだしていた。
ここも完全に浸水するのは時間の問題である。
「船尾が大きく沈んでいるから、多分、海水の入ってくる穴が船尾の方に空いてるんだろう。その穴から脱出しよう」
「…なる程…」
「だけど、問題が3つある」
「なんだ?」
「穴が見つけられるかどうか、俺達が通れる程の大きさかどうか、間に合うかどうか、だ」
「だが、それしか方法はないんだろ」
「多分な…」
「なら、行こうか大将」
「ああ」
二人は笑みをかわして、同時に海水に飛び込んだ。

5度目の爆発は、それまでとは比べ物にならない程、巨大なものだった。
火柱が上がり、船体が炎に包まれ海に飲まれていく。
子供達は乗り込んだ漁船から、カジノ船から海に飛び込んだ者達は泳いでいる途中で船を振り返る。
「…桃…伊達…」
「うあああ〜嘘だろ〜」
「桃〜!伊達〜!返事をしてくれ〜!」
漁船に乗っていた松尾と田沢が沈みゆく船に向かって叫ぶ。すると
「なんだ?」
と、どこからともなく声が聞こえる。
「え…?」
「…い、今…声が…」
「ここだよ」
横へりに捕まって、桃と伊達が漁船の甲板に上がって来た。
「桃!伊達!無事だったんか〜!」
「ああ。みんな、心配かけたな」
「うわ〜桃〜!良かった〜!みんな〜桃は無事だぞ〜!」
「やった〜全員、無事だ〜!」
秀麻呂の声に皆は歓声をあげた。
「…伊達…」
甲板に上がってきた富樫が伊達に声をかける。
「…言ったろ?」
桃は必ず助け出す、と。
伊達の不適な笑みが富樫に無言で語っていた。
「おう!」
富樫は伊達の肩をバンと叩く。
海を泳いでいた他のメンバーも船に上がり、桃の救出成功で甲板は歓喜に包まれた。

      *****

救出された桃がまっ先にやった事は、自分を助ける為に力を貸してくれた皆に、お礼と無事を知らせる事だった。
皆は一様に大喜びしてくれて、次の日、塾生が男塾に帰った時には、桃の無事をこの目で確認しようと、藤堂豪毅、宗嶺厳、トウフウケツ、が待っていた。
桃は彼等に直接礼をのべた。
「…豪毅…」
「…………」
彼にとって自分は仇とも言える人間であるのに、力を貸してくれたのだ。
「…ありがとう…」
「…礼には及ばん…」
「…豪毅…俺は…」
「気にするな…」
その日は男塾の校庭で「桃、救出成功の祝い」と称して盛大な宴会が催された。それまで知らされていなかった塾生にも事の成りゆきが知らされ、宴会は全員参加となる。
校庭の真ん中の薪を囲み、飲んで歌って皆は歓喜に酔い、思う存分騒ぎまくった。
桃は常にその中心にいる。
そんな桃の姿を見ながら、伊達は無事で良かったと安堵する一方、少々苦々しくも思う。
本当は今すぐにでも桃を抱き締めたいからだ。
『ま、今日は無理か…』
桃を大切に思っているのは自分だけではない。
『桃を助けたいと思っているのはお前だけじゃねー』
と言った富樫の言葉を思い出す。
彼等の気持ちも考えてやらねばなるまい。
宴会が盛り上がってしばらくすると、伊達は少し離れた木の影で一人静かに酒を飲み始めた。と
「伊達…」
顔をあげると桃がいた。
「こんな所にいたのか?途中から姿が見えないんでどこにいったかと思ったよ」
「お前こそ、主役が抜け出していいのか?」
「みんな酔っぱらってるから気付かないよ」
桃は伊達の隣に腰を降ろす。
「伊達、助けに来てくれてありがとう…」
「ん?」
「嬉しかったよ…」
「礼を言われる覚えはないな。俺は自分のしたい事をやっただけだ」
「…今度は手を離さなかっただろ…」
桃の言葉に伊達は彼を振り返る。桃は伊達の手をそっと握った。
船穴から脱出した時、二人は海の中を手をつないで上っていったのだ。
暗い海の底から月光を浴びて煌めく水面に向かって…
「…手を離されるのは二度とごめんだからな…」
桃は富士の火口で伊達が手を離した時の事を言っているのである。
「…桃…」
「どちらか助かる為に、どちらかが犠牲になるんじゃなくて…二人とも生きればいいんだ…」
握っていた伊達の手を、桃が愛しそうに頬をよせる。伊達は桃を自分の方に向けさせた。
酔っているせいか、桃の瞳は潤み、頬は微かに紅く染まってる。誘っているかのような濡れた唇に伊達は口付けをした。
「…う…ん…」
桃の甘い声に誘われて、口付けが深くなる。
堪えていたものが溢れ出してきた伊達は、手を桃の腰のあたりに這わせた。
「ちょ…ちょっと…伊達…」
伊達の怪しい手の動きに、桃が危険信号を察知する。
「…なんだ…?」
「…だ、駄目だぞ…こんな…とこで…」
すぐ側で皆が盛り上がっているのだ。これ以上先に進む訳にはいかない。
「何が?」
「…な、何がって…こら、やめろって…あ…!」
ますます怪しくなる伊達の手の動き。桃が思わずその動きに身を委ねてしまいそうになった時
「桃〜!どこに行ったんじゃ〜!」
「出てこいよ〜桃〜!」
富樫と虎丸の酔っぱらった声が辺りに響き渡った。その声に、思わず伊達の気が削がれる。
「こ、ここだ〜富樫、虎丸!」
桃が今だ、と言わんばかりに立ち上がる。
「そんなとこにいたんか〜!主役がいなくなっちゃいかんぜ!」
「伊達もそんなとこで飲んでないで、こっちへ来い!」
「…………」
いいところを邪魔しやがって…
と言いたい気分ではあるが、伊達もため息をついて立ち上がった。
やはり、桃を一人占めするのは今日は無理なようである。
『明日はこうはいかないからな…』
桃の一人占めは明日に見送る事にして、伊達は宴会の場に戻った。
富樫に引っぱられて宴会に戻った桃は
明日は伊達の好きにさせてやろう、と思っていた。
しかし
『あ、でも明日は朱鴻元が来るって言ってたかな?』
と、頭の隅で考えていた。

次の日。桃が思い出した通り、朱鴻元が仲間と共に桃の無事の確認に訪れ「桃、救出成功の祝い、第二弾」が催された。
その次の日は泊鳳、蒼傑らが訪れ「桃、救出成功の祝い、第三弾」が催された。
またその次の日はファラオが訪れ「桃、救出成功の祝い、第四弾」が催され、またまたその次の日にはゴバルスキーが訪れ「桃、救出成功の祝い、第五弾」が催された。
結局、伊達が桃を一人占め出来たのは、六日後の夜の事である。


(仮)終

六日後の夜の話はこちらに濡れ場有18禁です
(多分;自分の感覚に自信がないんですが;)
注意:この「ダーク・ファング」をかわいい話、として読み終えたい方は「六日後の夜」の話は読まない方がよろしいかと思います;多分;


H20.10.22

一応(仮)終という事で;こんな恋人が離ればなれになってる話グヘグヘ言いながら書いてるの
私ぐらいでしょうかね;?「離れているシュチュエーションに萌える〜v」って;
でも書いてる本人は楽しかったvぐへへへへ…(やめろ;)本当はもっとギャグ要素いれるつもり
だったんですが、ただでさえ爆発する経緯とか書いてややこしいのに、これ以上余計な要素入れた
ら読みにくくなるかと思いまして;まあ、文章力がないって事で断念したのです、はい;ニセ桃と
か出す予定でした;(これは出したかった〜!あああ〜文章力さえあれば!ぐやし〜)
桃は伊達が自分の命に執着してないの見抜いてると思う。