一寸法師?


昔、昔あるところに…って巻きだ巻き。
某山の寺で修行している飛燕が、ある朝、掃除しに帚をもって寺の門に近付きました。
すると、門のところに毛布が敷いてある籠が置かれているのに気付きました。
「なんだろう?」と思って中を覗いてみると、身体の大きさが一寸程しかない小さな小さ
な赤ん坊が寝ているではありませんか。
驚いた飛燕は大急ぎでお師匠様の元に持っていきました。
お師匠様はふむふむ、と赤ん坊を見つめていましたが
「きっと誰かが置いていったのだ。この寺で育ててやろう」
と言いました。
その小さな小さな赤ん坊は「伊達臣人」と名付けられ、その寺で育てられる事になりまし
た。
いつか普通の赤ん坊の大きさになるかと思いきや、成長はどんどんしましたが、身体の大
きさは基本、そのままでした(成長して十寸程にはなりましたが…)
一寸の赤ん坊が大きくなったので、「一寸法師」というあだ名をつけられました。
伊達はその名前が大嫌いで、呼んだ人にはつっかかっていきました。
ですが、身体の大きさの違いから適う筈もなく、その度に伊達はたくさん怪我をしました。
顔にも跡に残る程大きな傷が六つもついてしまいました。
しかし、伊達は諦めずに修行を積み、自分を「一寸法師」と呼んだ奴には二度と呼ばない様、
思い知らせてやるぐらいの腕前にまでなりました。
身体の大きさに反比例したのか、武道の腕前と態度のでかさと神経の太さは巨人並みになっ
たのです。
寺の中で誰も適う者がいなくなったので、退屈になった伊達は山を降りて都に行く、と言い
出しました。
伊達の兄弟子(世話係)である飛燕、月光、雷電は必死になって止めました。
こんな暴れん坊が都に行けば、何をしでかすか分かったものではありません。
お師匠様もお年寄りだし、心配させてはいけない。
と、説得され、伊達はシブシブ都にくり出すのを我慢しました。
育ててもらった恩のある師匠を心配させるのは、憚られたのです。唯我独尊でゴーイングマ
イウェイで拳にものを言わす伊達ですが、根は優しいのです。
しかし、そのお師匠様が亡くなられてしまいました。
お葬式も済み、心の中にぽっかり穴が空いたような気分の伊達は、山を降りて都に出る決心
をしました。
飛燕にお弁当を作ってもらい、いつも使っている針で作った槍をピカピカに磨いて、お椀の
船と箸の櫂を用意して、都に続く川を下る事にしました。
飛燕、月光、雷電は今度は止めませんでした。
お師匠様が亡くなる前に、自分が死んだら伊達の好きにさせてやりなさい、と言ったからで
す。
三人は不安になりながらも伊達を見送ってやりました。
「いいですか、伊達。くれぐれも人様に迷惑をかけないようにするんですよ」
「拾い食いしないように」
「人の物を勝手に使用してはいかんでござるよ」
「…………」
見送る時ぐらい、もうちょっとましな言葉かけられねーのかよ…
と、心の中で毒つきながら、伊達は川に漕ぎだしました。
どんぶらこどんぶらこ、と流れていくと、景色がどんどん変わっていきました。
川の流れも穏やかになり、岸沿いに家が建ち並びだしました。人々の賑やかな声も聞こえて
きます。
『これが都か…』
寺に出入りしている業者から話しを聞いたり、本で読んだ事はあるけれど、実際見るのは初
めてです。
人がたくさんいて、みんな色の鮮やかな着物を着ていました。
『なんか…落ちつかねーな』
伊達にしては珍しく少し不安になったりします。
都の中心から少し離れたところの岸に船をつけた伊達は、陸に上がりました。お椀の船をよ
いせ、よいせ、と地面に上げて草で隠します。
さて、ここからどこに行こうかな?
と、伊達が考えていると、背後から声をかけられます。
「こんにちは」
驚いた伊達が振り返ると、鉢巻をしめた男が微笑んで見つめていました。
『む!敵か!?』
伊達は針の槍を向けようと手をかけましたが、その男が地面に正座して丁寧な口調で挨拶し
てきたので手を止めました。
「はじめまして、俺は剣桃太郎という者だが、あなたは?」
伊達は面くらいました。
自分を初めて見た者はたいてい驚いて、次に珍しそうにからかって、おもちゃ扱いしてくる
のが常だったからです。もちろん、次の瞬間には絶対にそんな真似をしないように拳で分か
らせてやりましたが。
こんな風に相手の方から名乗られるなど初めてです。
「…俺は伊達臣人」
「伊達さん。どこかに行くのかい?」
剣桃太郎という男はにこにこしながら尋ねてきます。
別にお前に関係ねーだろ
と、言おうとした伊達ですが、次の瞬間お腹が盛大な音をたててなきました。
「お腹が空いてるのかな?」
「…………」
飛燕の作ってくれたお弁当は、とっくに食べてしまっていました。
「俺の家がすぐ近くなんだ。いっしょにご飯でもどうだい?」
「…………」
「急ぎの用事でもあるのかい?」
急ぎどころか行き先も決まっていません。
「なければ、ぜひどうぞ」
桃は立ち上がって歩きだします。その態度があまりに自然で飄々としているので、伊達は逆
らう気も文句を言う気も失せてしまいました。
ま、いっか…
伊達は桃の後を追って歩きだしました。

その日から伊達は桃の家に住み着き、桃とずっといっしょにいるようになりました。
ご飯を食べる時もいっしょ、寝る時もいっしょ、道場に行く時もいっしょ、勉強する時もいっ
しょです(この時は伊達は大抵寝ていましたが)
道場では桃の仲間達がたくさんいました。
初めは伊達を見て驚いていたけれど、伊達の強さを見て感心し、すぐに打ち解けました。
桃は道場の中でも人気者で皆から好かれていました。
仲間達は気の良い奴らばかりですが、伊達は一人だけムシの好かない男がいました。
それは、桃の先輩の赤石剛次という男です。
武道の腕前はかなりのもので、桃が尊敬するのも分かります。
そのせいか、桃は赤石先輩をとても慕っていました。ことあるごとに「赤石先輩〜v」と懐
くのです。
伊達はそれが気に入りませんでした。
赤石の大きな手が桃の頭をくしゃりと撫でるのを見る度に、伊達は訳もなく苛つくのです。
自分も、桃の頭を撫でてみたい…
伊達は自分の身体が小さいのを悲しんだ事はありません。しかし初めて、くやしい、と思い
ました。

ある春の日、伊達と桃は花見に出掛けました。
二人は桜吹雪の中、並んで座り、綺麗な桜の華に見とれておりました。
「綺麗だな」
「そうだな…」
桃は桜を見つめて言った言葉で、伊達は桃を見つめながら相づちを打ったのですが、桃は気
付きませんでした。伊達は桃がとても遠くにいる人のように感じられて、ちょっぴり淋しく
なりました。
「淋しい」という気持ちも、桃と知り合ってから伊達が初めて知った感情です。
すると、ズシ〜ンズシ〜ンと地響きをたてる程の大きな足音が聞こえてきました。伊達の小
さな身体が地響きの度に飛び上がります。
「なんだ、なんだ」
「あ、邪鬼先輩」
「おお、桃、来ていたのか?久し振りだな」
現れたのは近くの山に住む鬼の邪鬼です。
昔、雷に打たれて瀕死の状態だった邪鬼を、桃が助けてからの知り合いなのです。時々、武
道の指導もしてくれるので、桃は「邪鬼先輩」と呼んでいます。
「桜が綺麗なので花見に来ていたのです。邪鬼先輩もですか?」
「そんなところだ。ん?その小さいのはなんだ?」
邪鬼は桃の足元から鋭い目つきで睨んでくる伊達を指さして聞きました。
小さいの、とはなんだ!嫌なやろ〜だぜ!
と、思った伊達は、ますます凶悪な目つきで邪鬼を睨みます。
「伊達と言う者で最近知り合った友達なんです。今、いっしょに暮らしています」
「そうか…」
「伊達、こちらは邪鬼先輩だ。」
「ふ〜ん…」
「こら、挨拶しろよ」
「…………」
「伊達!」
「…………」
「気にするな桃。ところで、こいつが小さいのは生まれた時からか?」
「さあ、どうでしょう?伊達、そうなのか?」
「…それが、どうした?」
乱暴な口調で吐き捨てるように伊達は呟きましたが、邪鬼は気にした風もなく
「う〜む…もしかして、神仙の仲間かもしれんな…」
と、答えました。
「神仙の仲間?伊達がですが?」
「ああ、もしかしたら、これが使えるかも…」
邪鬼は懐から小槌を取り出しました。
「それは、なんです?」
「代々大豪院家に伝わる家宝の一つだ。天女が落としていった物と聞いている」
「それで、どうするんです?」
「確か、そ奴に向けて振るんだったかな?」
大きくな〜れ、大きくな〜れ、と邪鬼は伊達に向けて打出の小槌を振りました。すると…
なんという事でしょう。
伊達の身体がみるみる大きくなっていくではありませんか。
伊達はびっくりして、自分の身体を何度も見つめました。そして、桃を振り返ります。
桃は驚きの表情を浮かべていましたが、すぐに嬉しそうに微笑み、伊達の肩を掴みました。
「すごいな、伊達。俺と同じくらいになったじゃないか」
「…桃…」
「気分悪くなったりしてないか?身体でおかしなところとかないか?」
伊達は胸が苦しくて、言葉がなかなか出てきませんでした。
桃を同じ目の高さで見る事ができるなんて…
いつも思っていたけど、やっぱり美しい瞳をしている…吸い込まれそうだ…
桃の頭を伊達はガシガシと撫でました。頬や唇にも触れました。
「はは…くすぐったいぞ、伊達…」
楽しそうに笑う桃を伊達は強く抱き締めます。肩に顔を埋め、身体は少し震えていました。
「伊達…」
「…………」
感動して言葉が出ないのだろう、と桃は優しく伊達の背中をさすります。
が、次の瞬間、桃の唇は伊達のそれに奪われていました。
何をされているのか分からず、桃は瞳をぱちくりさせました。
口付けが深くなって濡れた舌が入ってきて、桃はやっと我に返りました。
「う〜ん、う〜ん!」
なんとか伊達から離れようと手足をばたつかせますが、がっしりとホールドされた身体は
びくともしません。それどころか、足を引っ掛けられて、地面に転がされてしまいます。
唇から離れると、今度は項を吸ってきました。
「ちょ、ちょっと伊達!」
なんとかして伊達の腕から逃れようとする桃ですが、桜の木の根っこで腰を打っていて、
あまり力が出ませんでした。
伊達の手が、ますます妖しい動きをし始め、着物の中に侵入してきます。
「や!こ、こら伊達!お前、何してるんだ!」
「…お前に触ってる…」
「どこ触って…あ…!や、やめろって!」
「ずっとお前に触りたかった…」
「ば、ばか…そんなとこ…いやだ…って!」
「お前にこうしたかったんだ…」
伊達は自分は桃が大好きで、ずっと欲しかった事に気付きました。
したかった事が出来る状態になったのに、どうしてやらずにおれましょうか?
即、実行です。迷い無しです。傍若無人、独走体勢、ゴーイングマイウェイです。
桃は暴れながらも、強くはね除けられませんでした。自分に触れる伊達の手や唇がとても
優しかったからです。
恥ずかしいけれど、気持ち良かったりして…
思わず、身を委ねてしまいそうになります。
でも、駄目〜駄目〜!恥ずかしい〜!
「邪、邪鬼先輩!」
「ん?」
桃は自分達をじっと見ているだけの邪鬼に声をかけました。
「み、見てないで助けて下さいよ!」
「助ける?何を?」
「伊達を止めて下さい〜!」
「行為を止めさせるのか?」
「そ、そうです!なんとかして下さい!」
「…結構、おもしろいんだが…」
「邪鬼先輩〜!」
半泣き状態の桃が叫びました。
しょうがないな〜と邪鬼は、小さくな〜れ、小さくな〜れ、と小槌を逆に振りました。
それに合わせて伊達の身体はみるみる小さくなって、元の大きさに戻りました。
「てめ〜何しやがる!」
これから、いいとこだったのに!(BGMはペッパー警部)
伊達は邪鬼に飛びかかって蹴りを食らわせますが、厚い胸板にバイ〜ンと跳ね返されて
しまいました。
「これは、お前に預けておく。どうしてもあいつの身体を大きくしなければいけない時
に使え」
邪鬼は小槌を桃に渡しました。
「あいつにさっきみたいな事されたくなかったら、大きくするのは止めておけ」
「は、はい…」
頬を赤く染めながら頷く桃を見て、邪鬼はこの二人が両思いになるのはそう遠くないな、
と思いました。
ちくしょ〜せっかく大きくなった身体を元に戻しやがって〜
伊達は怖い視線で、山に帰っていく邪鬼を見送っていました。
まあ、いい。
身体を大きくする方法が分かったんだから、上手い事やって大きくなればいい。
と、伊達は思いました。
早速、その日の夜。
布団を敷いて寝ようとしていた桃は、ぐったりとして畳の上に倒れている伊達を見つけま
した。
「伊達!どうしたんだ!」
「…………」
伊達は身体をうつ伏せにして胸を押さえて、ピクリとも動きません。こんな状態になった
伊達は初めてです。
どうしたんだろ?もしかして昼間、身体を大きくしたからそのせいでどこか悪くなったん
だろうか?
桃は心配でオロオロしました。
「伊達…大丈夫か?どこか痛いのか?」
「…胸が…」
小さな伊達の声が聞こえます。
「胸がどうした?」
「…胸が…痛い…」
「そうか、すぐに医者を呼ぶから…」
「この身体じゃ医者は看てくれねー…」
「…あ…」
「身体が普通の人と同じくらいの大きさだったら看てくれるかも…」
「じゃあ、小槌で身体を大きく…で、でも、余計に悪くなったりしないかな?」
「それはない(キッパリ)」
「そうか、じゃあ、持ってきてお前の身体を大きくするからな。待ってろよ」
心配で気が焦っていた桃は、昼間に伊達が自分に何をしたかすっかり忘れていました。言
われるままに、小槌を振って伊達の身体を自分と同じ大きさにします。
ふっ!ちょろいぜ!
伊達は心の中でVサインをしました。(良い子は真似しちゃいけません)
「医者を呼んでくるから、ここで休んで待って…」
立ち上がりかけた桃の身体を伊達は布団の上に押し倒しました。
覆い被さってくる伊達を、桃はきょとん、と見上げます。
「昼間の続きをさせてもらうぞ…」
あ!と桃は気付きました。
「伊達!お前、騙したのか?!ずるいぞ!」
「騙してねー本当に胸が痛い」
「じゃあ、この状況はなんなんだ!」
「お前を想って胸が痛ーんだ…」
「…え…?」
「お前が欲しくて気が狂いそうだ…」
伊達の告白を聞いて、桃は自分の顔が赤くなるのを感じました。
彼がこんなに熱い瞳で自分を見つめているなんて、今まで知りませんでした。
心臓が高鳴って桃の胸もせつなくて、苦しくなります。
だから、つい伊達の深い口付けを受け止めてしまいました。
なんとか逃げ出そうとしたのですが、伊達の愛撫が優しくて、気持ち良くて、身体の力が
抜けてヘニャンとなって逃れられません。
夢心地な気分になって、現実との境界線が分からなくなってきます。
どうしよう、どうしよう…
と桃が思っている間に、伊達はあれよあれよと事を進め、桃はその夜、伊達においしく食
べられてしまいました。
翌朝、恥ずかしくて怒っていた桃は、小槌で伊達の身体を小さくしてやりました。
「あ〜!なんで、元の大きさに戻ってんだ!」
「……………」
「桃!お前の仕業だな!」
「うるさい!本気で心配した俺を騙した罰だ!しばらく、そうしてろ!」
「騙してねーって言ってんだろ!」
「病気どころか、元気ハツラツだったじゃないか!…そのおかげでこっちは…///…」
「恋わずらいは立派な病気だろーが」
「!(桃の頬が真っ赤に染まります)…///…へ理屈をこねるな!」
「…う…頭が痛い…」
「もう、その手はくわないからな」
「チッ…」
まあ、いい。
桃以外の誰かに上手い事言って大きくなればいい。
と、伊達は思いました。
まさしくその通りで、次の日の道場で、伊達は虎丸に上手く話をして、身体を大きくして
もらいました。
大きくなった伊達は、やりたい事を即、実行です。
今回は寸でのところで桃はなんとか伊達の身体を小さくする事が出来ました。
かなり、危なかったようです。

その後も伊達は大きくなったり、小さくなったりしながら、桃と楽しく幸せに暮らしまし
た。
伊達は何度も身体を大きくしたり、小さくしたりしましたが、武道の腕前と態度のでかさ
と神経の太さは、一寸たりとも小さくなる事はありませんでしたとさ。



H21.3.11

「かぐや姫?」に引き続き日本昔話シリーズです。書いてて楽しい。
そう、それだけシリーズ;
「一寸法師」がお姫さまと結婚する箇所ですが、鬼に会う前に、一寸法師が作戦を用いて
結婚した説があるようです。
話の後半の展開は他にもいろいろ考えていたのですが、この「作戦説」をとらせて頂きま
した〜「マヌケヤロウ」とか、伊達って結構、作戦練っているよな、と思ったので;