こんにちは、赤ちゃん


夕食が終わり、自宅の自室でくつろいでいた伊達は、内線が鳴ったので受話器を
手にとった。
『親分、電話です』
「誰からだ?」
『獅子丸と名乗ってます』
「…分かった」
男塾に電話はなかった筈。公衆電話からかけているのだろうか?
何か緊急の用事か?
伊達は急いで外線に切り替えた。
「伊達だ」
『あ、伊達さん、こんばんは〜いつも親父がお世話になってます〜』
明るい声が耳に飛び込んでくる。
緊張感がまるで感じられない獅子丸の声に、伊達の気持ちがほころぶ。
『出たか?』
『早く聞けよ』
一人ではないらしい、周りで人の声がしている。
「どうした?」
『伊達さんに聞きたい事があるんだけどさ〜』
「なんだ?」
『赤ちゃんってどっから産まれるの?』
「……………」
意外すぎる獅子丸の質問に伊達は言葉を失った。
何故、どうして今、こんな時にこんな質問をされねばならないのだ?
『伊達さ〜ん、聞いてる?あんたなら知ってるよね?』
「…他の奴に聞け…」
『誰に?』
「教官とか塾長とか…」
『教官には聞きたくねーなー。塾長は出張でいないんだ』
「……じゃあ桃に聞け…」
どうして自分が獅子丸に性教育をほどこさねばならんのだ。
『親父がそういう方面なら伊達さんの方が詳しいから、伊達さんに聞けって言う
んだ』
「……………」
桃、てめぇ〜逃げやがったな…やっかい事押し付けてきやがって…
俺がそういう方面に詳しいってなんだよ!
伊達が怒りにうち震えていると、獅子丸がおずおずと聞いてくる。
『…や、やっぱり…頭から産まれるの…?』
獅子丸の言葉に「なんだ、そういう意味か」と心の中で息をつく。
「ああ、そうだ」
『え!本当なのか!?』
周りからも、え〜!という声があがっている。
えらい驚きように伊達は少し妙なものを感じるが、とりあえず本当だと応える。
『そ、そうか…十蔵の言った事が正しかったんだ…』
十蔵…ああ、あの赤石の息子か…
『…やっぱり…赤ちゃんが小さいのは喉とか通れる為なのか…?』
「は?」
獅子丸の質問の意味が分からず、伊達はすっとぼけた声をだした。
『だって小さくないとお母さんの喉とか通れないだろ?そのせいか?』
「………もしかして…頭から産まれるって「母親の頭から子供が産まれる」って
意味か?」
『そうなんだろ?今、伊達さんが言ったじゃん』
「……………」
何と言っていいのか分からなくなった伊達はそのまま黙っていた。
遠くから「後頭部がパカッって開くのかな〜」
などと話している声が聞こえるが、聞かなかった事にする。
『この前、日登の叔母さんが子供産んだそうなんだ。それで「赤ちゃんってどこ
から産まれるんだろ」って話になって、十蔵がそう言うんだ。でも、みんなそれ
はないだろ〜って話になって。そんで知ってる人に聞こうと思ったんだ』
「それで俺に電話かけてきたのか?」
『うん、そう』
「………十蔵は誰から聞いた……?」
『え?親父さんからって言ってたよ』
……赤石…てめえ……お前の口数が少ないのは知っている…だが、ちゃんと息子
が正しく理解したか確認ぐらいしとけ!
伊達は軽い目眩を覚えた。
『どうやって赤ちゃんが出来るのかは知ってたんだけど…』
伊達は嫌な予感がして、尋ねてみる。
「本当に知ってるのか?」
『昔、師匠に聞いたぞ。満月の夜に妖精がキスしたキャベツに赤ちゃんの種が宿
るって。だから、結婚した女の人はキャベツをいっぱい食べなきゃいけないんだ』
「……………」
嫌な予感は当たった…
『もしかして伊達さん知らなかったの?』
知らねーよ!
『駄目だな〜親父は知ってたぞ』
「へ?」
『俺が本当か?って聞いたら本当だって答えたぞ』
…桃…てめぇ〜子供の教育放棄するな!
『俺はコウノトリが運んでくるって聞いたぞ〜』
『ペリカンじゃなかったか?』
『ペンギンだろ?』
『いくらなんでもペンギンは無理だろ〜』
「……………」
周りで話している声が聞こえるが、これも聞かなかった事にしようと伊達は思う。
どうしたら分からせる事が出来るのか、分からなかった。
何をどう、どこから話せばいいのか、それすらも分からない。
このご時世…塾生の性教育はどうなってるんだ…
…男塾だからこそ、この時代遅れなのかもしれないが…
よーするに基本的知識が欠けているのだ。
夜の営みの「寝る」を、ただ布団を敷いて「寝る」だけなのだと解釈してしまう
のと同じである。
『あ、もう金がたんねーや。じゃあ、伊達さんありがとう〜』
「……ああ……」
返事をするや否や電話はブチッと切れた。
……獅子丸が真実を知るのはいつの事になるのやら…あ、十蔵もか…
「……………」
伊達は大きくため息をつきながら、受話器を置いた。



H21.5.11

塾歌聞いてたら、塾生って童貞が基本なのでしょうか?
情けはあっても色は無し…;「男塾」でいろいろ学ぶのか?
でも女人禁制、交際不可では?そこをかいくぐるの?
は!(Σ ̄□ ̄;)「男」になれ!ってそういう事!?(←あほか…;)
同級生が「赤ちゃんは頭から産まれる」をずっと「お母さんの頭から産まれる」
と勘違いしていた子がいまして…怖くて母さんに聞けなかったそうです。
「あんたを産む時は足が喉に引っ掛かって大変だった、とかリアルに話されるの
が本当に怖くてさ〜」
そりゃ怖いわ!;