※「誘惑」「モナリザの微笑み」の続編となります。
オリジナルキャラの設定と話が続いておりますのでそちらを先にお読み下さい。
この話はオリジナルキャラがメインで進みますので、そういった話がお嫌いな
方はご注意下さい。


fall in love 後編(完結)


彼のマンションはセントラルパークを挟んで、アッパーウエストサイドにあった。
ジョン・レノンで有名なダコタアパートのある高級住宅街である。
亡くなった彼の祖父が遺産として残してくれたもので、成人してから相続した。
美術館からタクシーでここにやって来た。後部座席の隣に桃が座っていても、彼は夢
を見ているようで現実感がなかった。
アパートに着いて守衛に挨拶されても、エレベーターに乗った時も
『本当に現実だろうか?』
などという思いがぬぐえない。
寝室に入りサイドテーブルのスタンドをつける。ドアの前でやわらかな光に照らされ
て立つ桃を見た時、心臓の鼓動が跳ねて、やっと現実なのだと実感する。
桃の頬に触れて顔を見つめると、美しい黒い瞳の中に自分の姿が映っていた。
彼は桃に口付ける。
閉ざされた唇に彼は
「…駄目です…口を開けて…」
彼の言葉に、桃が唇を開くと、彼は舌をいれて深く口付けた。
濡れた桃の舌をからめて蹂躙する。ベルベットのような感触が伝わってきて彼は酔っ
た。
「…う…ん…」
桃のくぐもった声が耳に入ると、熱い目眩がしてくる。
口付けながら桃のネクタイをはずし、上着を肩から脱がせる。
シャツのボタンをはずして開き、露になった項に噛み付いた。
「…あ…」
甘い声があがり、彼の身体はますます熱くなる。桃の細い腰を掴んでベッドに連れて
行く。
ベッドの上に押し倒して、彼は自分の上着とネクタイを外した。
桃に覆いかぶさると、また深い口付けを落とす。唇と舌で桃の身体をたどっていく。
「…う…」
桃は目を堅く閉じて横を向いている。
身体を強張らせ、彼が触れる度に脅えたような震えがはしる。
その姿に、彼の心はズキリと痛みを覚えた。
『…俺は…何やってるんだ…?』
…桃が…自分を愛していないと知っているのに…
あの男の余裕の表情がくやしくて…ガキみたいな見栄で彼を抱こうとしているのでは
ないか…
恋人がいるのを知っているのに…
桃の身体を…他の男と共有するのか…?
…愛している人を…まるで、男娼みたいな扱いをして…それで、満足か?
『……何がしたいんだ俺は…?』
頭の中をグルグルと渦が回る。
いろんな記憶が蘇って、桃に初めて会った時、会えない日々に心配した時、恋してい
る自分に気づいた時…恋人がいると分かった時…
苦しくて…でも、幸せでもあった…
そのすべてを、こんな形で終わらせていいのか?
桃の身体が欲しかったのか…?
違う…俺は…
「…違う……」
彼は独り言のように囁いた。
「…違う…俺は…」
愛していなくてもいいなんて…我侭言って…甘えて…桃の優しさを利用している…
これじゃあ…本当にガキじゃないか…
「……どうした…?」
桃が優しい声をかけてくる。
「…俺は…あなたの身体が欲しいんじゃないんです…」
「……………」
「…あなたの…心が欲しいんです…」
「……………」
彼は苦痛の表情を浮かべて桃を見ていた。
「…駄目ですか……?」
「……………」
「…俺じゃ駄目ですか?どうして駄目なんです…?」
彼は桃に縋るように強く抱き締め、肩口に顔を埋める。
「…俺の何が…いけないんですか……?」
「……駄目とか…そんなのではなくて…悪いところなんてない…ただ……」
「……………」
「君は伊達じゃない…それだけだ……」
「……………」
決定的な言葉を聞かされ、彼はさらに桃を強く抱き締めた。
桃に縋り付きながら、彼は自分が完全に失恋した事を悟った。

      *

「…で……?」
「…でって…それで全部だ……」
彼のマンションを去った桃は、そのまま伊達の泊まっているホテルに来た。
少々おかんむりな伊達に
『今まで何をしていた?』
と質問されたので、簡単に話して聞かせたのだ。
「本当に何もされなかっただろうな…?」
「されてない」
「何も…だぞ?」
「…まあ…キスはされたけど…」
途端に伊達が噛み付くような口付けをしてくる。軽く歯をたてられ、桃は血の味がし
た。
「…唇なんて奪われてんじゃねーよ…」
「…仕方ないだろ…」
「調べる」
「え?ちょ、ちょっと伊達…;」
伊達は桃をベッドの上に押し倒して、その上に馬乗りになった。乱暴な仕草で強引に
服を脱がせる。
うつ伏せにさせて、桃の背中を手でたどる。
「よく見えねー…」
置いてあったアロマキャンドルに火を灯すと、伊達は手元を照らして桃の背中を探っ
ていく。
「…お、おい…伊達…」
「…お前の身体を探索する…」
「まったく…」
明かりが欲しいなら、間接照明だけでなく、部屋の電気をつければいいのに…
好きにしろ、と桃は諦めて前を向いた。
後ろは見えないが、伊達の手の動きに合わせて、チロチロとした火の熱さも感じる。
「伊達…あんまり火を近付けるな…熱い…」
ポタリとロウが背中に落ちて、桃は飛び上がった。
「あ…!こ、こら、伊達!変なプレイしてんじゃない!」
「…してねーよ…」
わざと落としたのではなさそうだが、気をつけるつもりもないらしい。
ロウといっても一滴落ちたぐらいなので、熱いのは一瞬だけですぐに固まる。が、い
つ落ちるか分からない不安があって、肌が変に緊張してしまう。
指と炎がたどりながら下がっていくのを感じる。
「…おい…伊達…もう、火を消せ…」
「…チェスの勝負…わざと負けたんじゃねーだろーな…」
「違う…だけど…」
「だけど…?」
「チェスをするのは初めてだった」
「なんだと…?」
「留学時代に友人達が勝負しているのを見ていただけだ。ルールは知っていたんだが、
実際に勝負するのは初めてだった」
「……………」
またロウが落ちてきて、桃は飛び跳ねた。
「だ!伊達…!」
今のはわざとだろ!
怒ってやろうとして桃は振り向いたが、伊達の口付けに遮られる。
「…ん……」
甘いそれに酔っていると、仰向けにされて胸元まで膝を抱えあげられる。
「…あ……」
足を開かされ、そこに伊達が舌で触れてくる。ぞくぞくした感覚が桃の身体中をかけ
めぐった。
足元のどこかにキャンドルが置いているのが熱で分かるが、どこに置いてあるのか分
からない。不安が桃をいつもより敏感にさせた。
「う…うん…」
「どうした?もうこんなに濡れてるのか…?」
「…あ、あのな…い…!」
伊達の舌先が焦らすように入ってくるので、桃は身を捩りたくなる。伊達は支えてく
れないので、足を自分で開いていなければならなかった。そのくせ、時折足の裏側に
歯をたてるので、背中を伝って頭にまで快楽の電流が走ってゆく。
中途半端に放りだされた足が震える。
シーツを蹴りたいが、ヘタに動いてキャンドルに変なところを焼かれるのが嫌だ。
動きを躊躇ってしまう事が、いっそう桃の身体をせつなくさせた。
「…く…伊達…火を消せって…」
「気になるのか?」
「…なる……」
「…それでこんなに感じてんのか?じゃあ、消さないでおこう」
「……お前な……」
「…抱かれるつもりだったのか…?」
「…え……?」
「…危ない勝負して…負けたら本気で抱かれるつもりだったのか…?」
どうやら、伊達は怒っているらしい。
「…彼が…止める事は分かってた…」
「…ん……?」
「真面目で、優しい子だからな……愛されてないのが分かってるのに…無理に抱いた
りしない…」
「…お見通しって訳か……」
「…そうだ……」
「悪い男だな……」
「…ああ…悪い男だ……」
彼の優しさを利用したのは分かっている。酷い仕打ちをしたのも…
しかし、彼が自分で自分の答を出さなければ、絶対に納得出来ず、桃をいつまでも諦
められなかっただろう。
彼自身に、答を見つけさせるしかなかった。
「お前も悪いんだぞ、伊達…」
「ああ?」
「彼を挑発したりするから…」
「…ふん…あいつが身の程知らずだからだ…」
桃に手を出すんなら、命を賭ける覚悟できやがれ
親元である俺に勝つ見込みはまずないが…
伊達が炎を消したらしく、足元の熱が消えた。桃の身体に覆いかぶさって激しく唇を
吸ってくる。
「…う…ん…」
桃は伊達の着ていたバスローブの紐を解いた。
「…あいつは命拾いしたな…」
「…ん…?」
「…お前を抱いてたら…俺が殺してる……」
「物騒な事を…」
いきなり伊達が桃の中に入ってきたので、桃の言葉は甘い悲鳴に飲み込まれる。
「…あ…!う…うん…」
「…感じてたんだな…食いついてくるみたいだ…」
「…ばか…あ…!」
激しく突き上げてくる律動に、桃は熱い吐息をもらすばかりとなった。
「あ…あ…伊達……」
伊達の背中にすがりつき、恍惚に浸ろうと腰を揺らしてくる。
桃の熱い内部を感じながら、彼がこれを知らなくてよかった、と伊達は思う。
一度知ってしまえば…虜になるしかないからだ……
そうなったら、本当に殺していただろう。
彼が懸命な男で何よりだった…
また、桃にちょっかいかける男が現れたら、その時は桃に分からないように、闇から
闇に消えてもらう事に伊達は決めた。


余談…
次の日の朝、やけ酒を飲んだ彼は強烈な二日酔いで目を覚ました。
さっぱりさせようとシャワーを浴びたが、あまり効果はなかった。
ベッドに腰掛け、昨夜の出来事を思い出す。
…あれで、よかったのだ…
身体ではなく、心が手に入らなければ何の意味もないのだから…
後悔はあるが、自分の決断に疑問はない。
………しかし、そうは言っても…
「あ〜ちくしょう〜!やっぱり、やっとくんだったぁ〜!」
かっこつけるんじゃなかった〜!
逃がした魚はウルトラ級に大きかった!
疑問がないとはいえ、彼は死ぬ程後悔したのだった。




H21.6.30

はあ〜やっと終わりました;迷ったわりには、あっさり終わりましたでしょうか?;
私が書く小説なんてこんなものね〜;ほほほのほ…;
やっぱりね〜桃が他の男に…なんてなったら、伊達は殺す可能性が高いよな〜と;
命まで取らなくても、腕1本ぐらいは取るぞ;絶対;
彼は知らずに命拾いしたという事で〜;完結