シンデレラ?(タイムリミット編)   


舞踏会の大広間に入ってきたカップルを見て、伊達を少し驚きました。
『桃じゃねーか?あいつ女装なんかして何やってんだ?』
伊達は桃と同じ道場の門弟です。伊達が勝負して唯一、勝てなかった相手が桃なのです。
それ以来、伊達は桃が気になって仕方有りませんでした。
『なんで、この舞踏会に…ん?桃じゃねえ?』
よ〜く見ると、桃だと思ったのは正真正銘の女性です。
『すげー似てるな。あいつ姉妹いたのか?』
伊達はしげしげと桃に似た女性の顔を見つめます。気づくと豪毅とくっついて歩いており、豪毅
の腕に手をまわしています。伊達は何故だか「ムッ」と不愉快な気分になりました。
桃と歩きながら、豪毅は
『女性にしては背が高いな』
と思いました。
自分と同じくらいの背丈の女性なんて初めてです。けれど豪毅はまったく気になりませんでした。
もっと、この女性の事が知りたい気持ちが溢れ出してきます。
『金剛寺氏はどこにいるのだろう?』
桃は大広間を見渡して探しました。この際、息子の頼光でもいいから。
でも、大きなフロアにひしめく大勢の人の中から探し出すのは、容易ではありませんでした。
『根気良く探すか』
桃はフロアを駆け回って探す事にしました。
「もう、大丈夫です。ありがとうございました」
ペコリと頭を下げて、桃は豪毅から離れようとしました。桃の手がスルリと離された時、豪毅は
なんともいえない喪失感を覚えます。離れていこうとする手を、思わず掴んで引き止めます。
「?なにか?」
突然、手を掴まれた桃は、不思議そうに豪毅を見つめました。豪毅も自分の行動に自分で驚いて
いました。
どうして、手を掴んでしまったのだろう?
しかし、どうしてもこの手を離したくない、と思ってしまうのです。
「…あ…踊って頂けませんか?」
手を離したくなくて、豪毅は咄嗟にダンスを申し込んでいました。
「え?」
ダンスなら踊れますが、女性のポジションになった事はありません。それに、早いとこ金剛寺氏
を探さねばならないので、桃はやんわりと断ろうとしましたが
『あ、フロアの中央からの方が見つけやすいかも』
そう思いついた桃は、踊りながら探す事にしました。
「お願いします」
豪毅は桃の手を取って、フロアの中央に誘い、優雅にステップを踏みだしました。
舞踏会に来ていたお客達は、豪毅が踊っているのに驚いて、相手のお嬢さんは誰なのか噂し始め
ました。
「むっ!豪毅が女子と踊っているではないか!」
藤堂氏も驚きの声をあげました。高貴な姫から申し込まれても豪毅が踊ることは滅多にないので
す。
「相手は誰じゃい。うむむ…見覚えのない顔じゃの〜大柄だし〜しかし、丈夫そうな身体をして
おるから、子供は何人でも産めそうでなによりじゃ」(←無理です)
くるくると踊りながら、桃は視線をめぐらせて辺に金剛寺氏はいないか探します。豪毅はそんな
桃の様子をじっと見つめます。
『不思議な人だ…』
と、豪毅は思いました。
踊っていても桃は周りばかり気にして、こっちに関心をはらっていないようです。時折、瞳が合
うと微笑んでくれますが、媚のない清々しい笑みです。
これまで名家のお嬢様と踊った事はありますが、いつでもピッタリくっつかれたりしてここぞと
ばかりに過剰アピールされたものです。
この人と踊っていると、自分まで清々しい気持ちになってきます。
『あ!いた!』
桃は金剛寺氏を見つけたので、足を止めました。
「すみません、用事を思い出しましたので、これで失礼致します」
「え?」
「どうも、ありがとうございました」
見失ってはいけないと、ペコリとお辞儀をすませた桃は急いで駆け出しました。
「あ、待って下さい」
人込みの中に消えていく桃の後ろ姿を、豪毅は追い掛けようとしましたが
「豪毅様、次は私と踊って下さいませ」
「いいえ、私よ」
「私でございますわ」
大勢のお嬢様達が豪毅に群がり、身動きが出来なくなってしまいました。
桃は人込みに紛れてこっそり金剛寺氏の後ろに忍び寄り、ササッとポケットに原稿を入れると、
すぐにその場を離れます。
『よし、うまくいった』
これで一安心v
桃はすぐに帰ろうと、大広間を出て人気のない廊下を足早に歩きだしました。12時になれば薬
の効き目がきれて戻ってしまうのですから、着替えはすませておきたいところです。
「そこの女、ちょっと待て」
桃の後ろから、かっこつけて声をかける一人の男がおりました。
「……………」
「おい、待てって言ってるんだ」
「……………」
桃はどんどん遠ざかります。男は慌てて追い掛けました。
「聞こえないのか、待てと言ってるんだ!」
「え?…ああ俺?」
肩を掴まれて、桃はようやく振り返ります。別に聞こえていなかったのではなく、女性になっ
ているのを忘れていたのです。
引き止めたのは、桃の知らない男性でした。慌ててダッシュしたせいか、少々息切れぎみです。
「なんですか?」
「お前…豪毅の女か?」
「はい?」
「さっき豪毅と踊っていた女だろ?豪毅と付き合っているのか?」
「何言ってるんですか?」
「どこの名家の出だ?」
「…どうしてそんな事を聞くんですか?」
「とぼける気か。まあ、いい」
「はあ?」
「俺は豪毅の兄だ」
「そうですか…」
「豪毅は親父に気にいられているとはいえ、しょせん末っ子だ。藤堂家のすべてを継ぐのは長
男である俺だ。あいつなんかより、俺と付き合っていた方が得だぜ」
「え?」
桃は目の前の男の言っている意味がよく分かりません。頭のまわりをクエッションマークが飛
び交います。
「あいつは武道の腕前はまあまあだが女の扱いを知らん奴だ。いずれ幻滅するに決まってる。
その点、俺は女との付き合い方を心得ている」
「お兄さんなのに、弟さんの悪口を言うのは良くないですよ」
その桃の言葉を聞いて、男は不愉快な顔つきになりました。
「なかなか、言うじゃないか」
桃の顎を掴んで上向きにさせても、男の方が桃より背が低いので、いまいち格好が決まりませ
ん。
「無理しない方が…」
手を離した男はゴホンとせき払いをして、気障ったらしく前髪をかきあげます。
「と、とにかく、お前は俺と付き合うんだ。いいな」
「勝手に決められても…」
父親に一番気に入られている豪毅は、兄達にとって目の上のたんこぶです。先日も、武道勝負
をして兄達は全員完敗しました。それから父親の藤堂は跡継ぎを豪毅に決めたらしく、遺言状
も書き直したという噂です。
生意気でムシの好かない豪毅の想い人を奪ってやれば、少しは気が晴れるだろう、と、この狭
小な心根の兄は考えていたのです。
「では、俺の部屋に行こう。ベッドで一晩過ごせば俺に惚れるのは間違いない」
「あの〜こっちの話聞いてますか?」
桃の言葉に1ミクロンも構う様子はなく、いやらしく桃の腰を掴んで引き寄せます。その時、桃
の目に12時15分前を差す時計が映りました。
『やばい!もうすぐ時間切れ』
「失礼しま〜す!」
この際、遠慮していられません。
「グホッ!」
桃は兄を吹っ飛ばして駆け出しました。急いだせいで靴が片方脱げてしまいますが、取りに戻っ
ている暇はありませんでした。
塀を越えて、草むらに隠してあったかぼちゃの馬車に潜り込みます。
ちょうど12時を告げる鐘が鳴り、桃は無事に男の子に戻りました。ちゃんと大事なものもつい
ています。
「あ〜良かった」
男の子の姿でドレスを着ていてはマヌケなので、すぐに隠してあった服に着替えます。着替え
ていると声をかけられました。
「桃、こんなとこで何をやっている?」
「あ、伊達。舞踏会に来てたのか」
「まあな…お前はなんでここにいるんだ?もしかして妹を連れてきたのか?そっくりな女をフ
ロアで見掛けたぜ」
「ふふ、違うよ。俺が女に化けて参加してたんだv」
結構、楽しかったな〜と桃はぼんやり思いました。
「完全に女に見えたぞ」
「王大人の秘薬で本当に女の子になってたんだ。今、薬の効き目がきれて戻ったところ」
「……………」
という事は、豪毅と腕を組んだり踊ったりしていたのは、本当に桃だったのです。
伊達の胸の奥に黒い靄が立ちこめて、嫌な気持ちになりました。
自分以外の誰にも、桃を触らせたく無い。
伊達は自分の強い思いに、一瞬戸惑いを覚えましたが、これから、桃を自分だけのものにする
事を決意しました。

続?;


H22.5.12

書いてて楽しいシリーズ再び…
さて、この後はどうしましょうかね?(考えてない…;)