かなり激しい濡れ場がありますので、ご注意下さい

漆黒の瞳 2

夜の闇が満ちる林の中、桃は微かに動く影を見た。
『なんだ?』
桃は気配を消して膝を折り、五感を研ぎすませて影の正体を見極めようとする。
それは一人の男だった。
口元まで覆われた黒尽くめの服を着ているが、身長と体格からいって間違い無く男である。殺気はないが、桃でなければ気付かない程気配を殺せる技量から、その腕は相当なものであるらしい。
桃でさえも、動く影を偶然目にしなければ気付いたかどうか自信がなかった。
『何をしに、この男塾に夜更けに忍びこんで来たのだ?まさか?』
塾長の命を奪いに来たのではないか?
と、桃は刺客の可能性を考えた。
先日、脅迫めいた文が塾長に届けられたばかりなのだ。
塾長はいつもの決め台詞をはいて
「ただのいたずらだろう。捨ておけ」
と言っただけである。桃や他の塾生達も同感だったのだが…
『まさか、本当に刺客か?』
今の桃は寝間着の単衣姿で、武器を何一つ身につけていない。
珍しく夜中に目を覚まし、さわやかな風に誘われて、塾内のこの林に散歩に来ただけだからだ。
不利かもしれない…
だが、侵入者の目的が何なのか、確かめなくては。
桃は気付かれぬように後をつけるか迷う。が、これ以上塾内に近付けさせるのも危険だと判断して、男の前に出る。
「何しに来た?」
桃は直接男に話しかけた。男は歩みを止めて桃を見る。
男は口元を覆っていた布を下げるが、今夜は三日月の曇り空で光りに乏しく、男の顔が判別出来ない。
長い間、男は桃をじっと見つめている。林の中にいる男より、木々が少ない場所に立つ桃の方が、影が少なく、顔だちが確認出来やすい。
何かを確かめるような視線を桃は不思議に思う。
伊達は桃をじっと見つめ、雨に日のトンネルで出会った男だと確信する。
『桃、と呼ばれていたな…目は治ったのか…』
包帯の取れている姿を見て伊達は安堵する。同時にその瞳を見て確認したいという強い思いが込み上げてきた。
この男が遠い昔に自分を救ったあの少年なのかどうか…
伊達ははやる気持ちを押さえつつ、桃にゆっくり近付いていく。
桃は攻撃された時に供えて構える。二人の間に緊迫感が満ちてくる。
『やはり、相当な実力の持ち主だな』
並の実力者の持つ緊迫感ではない。これは心してかからねば…
「貴様は刺客か?」
桃の声に伊達は再び足を止める。
『刺客?俺が?』
何か勘違いされているようである。自分は確かめに来ただけだ。お前が一体誰であるか。
出会ったあの時から忘れられなかった、この男を…
顔をよく見せろ、と言っても刺客と疑われている以上、素直に従ってくれそうもない。訳を話すなど面倒だ。
実力行使させてもらおう。
伊達は地面を蹴り、一直線に桃に向って突進した。
いきなりの突進に桃は面くらったが、素早く後ろに飛んで間合いをあけると蹴りを入れる。
桃の突き出した蹴りは男になんなく躱される。今度は男からの拳が脇腹に入りそうになるのを桃が寸で躱す。
『こいつ!』
『やるな!』
幾度か拳と蹴りを突き出すが相手に止められ、躱される。互いの実力が近すぎて、一歩もひかない状況に陥ってしまう。
『油断出来ない』
男の実力は相当なものであると予想していた桃であるが、それ以上のものであった。
二人の息があがり始め、汗が流れ落ちてくる。
『埒があかねー』
この男を確かめる為だけに来た伊達としては、さっさと用事をすませたいところだ。ぐずぐずしているのは性に合わない。伊達は桃が丸腰なのを承知したうえで、槍を取り出す。桃の眉根が寄せられる。
『武器を出してきたか…こいつはまずいぜ…』
体術でこれだけの力のある奴なのだ。得意の武器を手にした時の戦闘力はどれ程のものであるか。
倒すまでもいかなくても、撤退させるだけの負傷を負わせるか、と桃は覚悟する。だが、何故初めから武器を出さなかったのか?
『刺客ではないのか?』
睨み合い、張り詰めた空気の中、二人は渾身の一手を相手に放つ。
次の瞬間、桃は地面に組み伏せられていた。首元には槍が突き付けられている。
「…く…」
「動くなよ」
桃の渾身の一手は、確かに伊達の身体に決まった。が、ちょうどそこには懐剣が納まっており、衝撃力が半減してしまったのである。同時に桃の身体に入った伊達の一手は、桃の鳩尾に見事に決まり、入った瞬間桃は片膝をついた。そこを伊達に倒され、槍の穂先で動きを封じられてしまったのだ。
無防備で軽装な桃と、戦闘準備を整えている伊達との違いが出た結果である。
しかし、桃は不思議だった。
男は自分に一撃を放つ時、穂先ではなく柄の方に持ち替えたのである。それに気をとられてしまい、桃の緊張に隙が生まれたのだ。が、男はそれを狙った訳でもあるまい。
『やはり刺客ではないようだが…何をしに来た?』
穂先を自分に突きつけている男の目的が桃には不明なままだ。
伊達は桃の単衣の帯で桃の手首を後ろ手に縛り上げる。
これまでのやりとりから、桃がかなりの実力者だと分かった。これ以上暴れられて手間取らされるのはごめんである。勝負において自分にこれだけ拮抗した者はいなかった。けれど、どこか甘さのある男らしい。槍の柄を向けた途端に桃の緊張の糸が緩むのを伊達は感じていた。しかし、念には念をいれておこう。
桃は自由を奪われて屈辱を感じたが、男の目的がますます不明になってくる。気絶させるでもなく、詰問するでもないのだ。
再度、桃の身体を仰向けにして地面に押し付けた伊達は、自分の身体で押さえこんで、その瞳を覗きこむ。
真直ぐな眼差しが自分に向けられている。美しく、迷いのないそれは敵意が含まれていても清らかだ。
澄みきって、吸い込まれそうな光を宿す漆黒の瞳。
…お前だ…
桃の瞳を間近に見て、伊達は確信した。
この男があの遠い日に自分を救ったあの少年だ。
ずっと長い間、想い続けてきた少年だ…見まごう筈がない。この澄んだ瞳を忘れる訳がない…
今、自分の目の前にいるのだ。
やっと…会えた…
伊達は胸の奥底からせり上がってくる熱い想いに翻弄されそうになる。
胸が痛くて張り裂けそうだったが、伊達は必死に押さえ込んだ。
この想いはどうすれば伝えられるのだろう?感謝の気持ちを口にすればいいのか?こんな時は喜べばいいのか?
こんな想いはかつて経験した事がなく、誰も教えてはくれなかった。
「…目は治ったのか…」
「え…?」
男の言葉に桃は、ハッとする。
知っているのか?この男は?自分が目を怪我をしていたと…?しかし、何故?
「お前は…一体…?」
男は唯一の光源である月を背にしている為に、顔がほとんど見えない。
まさか…この声は…
雨の日に会った男なのか?自分の唇を奪った…
思い出した桃は頬を赤く染める。
「離せ!」
恥ずかしくなった桃は、身体の自由を取り戻そうと暴れるが、がっちりと伊達に押さえ込まれた身体はビクともしなかった。
「…黎明寺を知っているか?」
「な、何言ってる?誰なんだお前は?」
初めて会った時から、この男は訳の分からぬ事ばかり口走っている。
「行った事があるだろ。覚えているか?」
「だから、何が言いたいんだ?」
縛られた身体と唇を奪われた恥ずかしさで、桃はいたたまれなくなってきていた。
説明不足の男の言葉。その言葉の端に宿る気持ちを汲み取る余裕が無かった。先程まで気を張り詰めた勝負をしていたせいもあるが、桃らしからぬ事である。目の前にいる男は敵であり、理不尽な行為をする奴だという先入観が先にたっていた。
そんな桃の態度に、自分の気持ちを上手く伝えられないのも手伝って、伊達は次第に苛つき始める。
「…覚えてないのか?」
「…言いたい事が分らない…」
「…………」
「…お前は誰だ…?」
俺にあれだけ明確に己の記憶を刻みつけた当人は、俺の事を忘れていた訳だ…
伊達にとっての運命の日が、桃にとっては幼い頃に起きたなんでもない出来事であったのだ。
「…不公平…だ…」
「え?」
自分の言い分が一人よがりで勝手なものだと承知しているが、伊達は許せなかった。
自分にとってこの男はこれ以上ないくらい特別な存在なのに。こんなにも、胸が痛くて張り裂けそうな程…
どうしてこの男にとって自分はどうでもいい者なのだろう?
どうすれば、お前の記憶に俺が刻みつけられるのだろう…?
伊達は無意識に桃に口付けていた。
雨に日にかわした触れるだけのものではなく、深く、激しく、唇を奪う。
「…ん…んん…」
桃はくぐもった声を上げ、身を捩って逃げようとするが適わない。が、伊達は唇に鋭い痛みを感じて顔を上げた。
口中に血の味が広がる。桃が伊達の唇を噛んだのだ。息をつきながら桃が激しい目線で睨みつけてくる。
「…なかなか…だな…お前は…」
純粋な瞳の光を浴びて、ぞくぞくするような感覚を伊達は覚える。
対峙した時の闘争心が身体に残っていて、伊達の内に潜む凶暴な思いに火をつけてしまう。
伊達は帯を失って開いていた桃の胸元に唇を落とした。
「…あっ…」
伊達の愛撫に桃の身体は素直に反応する。
指や、舌が触れる度に、桃の身体はビクリと跳ね上がる。伊達の手が肌を滑り、下腹部に触れると桃は慌てて足を閉じようとするが、すでに伊達の身体が間に入りこんでいて出来なかった。伊達の指がそこに絡み付くと、蜜があふれて伊達の指を濡らしていく。
「…やめ…ろ…」
瞳を閉じて必死に快感に堪えようとする桃の姿は煽情的である。
濡れた指を奥に有る秘部に入れると、桃の身体が反り上がる。
「…あ…!」
苦しそうに身を捩る。
ここまでするつもりはなかったのに、その姿を見ているともっとこの男の快楽を暴きたい、という思いに駆られ、止まらなくなっていく。
指を入れた時、伊達は桃が男を知らない身体なのだと分かった。きつく締め付けてくるそこは誰にも触れられていないのだ。
『俺がこいつの初めての男になる訳だ』
残酷な支配欲が沸き上がる。
内壁をまさぐる指がある箇所を突くと、桃の身体が電流が走ったかのような反応をした。
「ここが、いいのか?」
「…違…う…」
「嘘をつけ。濡れてるぜ」
桃は自分の身体の反応が信じられなかった。
『どうして…』
心は嫌だと叫んでいるのに、身体だけが男の愛撫に反応して淫らに暴走していく。快感に溺れ、男の愛撫を欲して揺れるのだ。ふりほどこうと何度も身体を動かすが、手首に巻き付いた布はまったく解けない。
桃が悔しさのあまり唇を噛んだ時、膝が抱えられて腰が持ち上げられる。
凌辱される…!
桃の心が恐怖の為に冷たくなった。
なり降り構わずもがいて暴れてなんとか逃げようとする。
「…いやだ…頼む、止めてくれ…!」
恐怖の為に無意識に懇願してしまう。さすがの伊達も、悲痛な色を含んだ叫びに手を止めかけたのだが…
「赤石先輩…!」
桃の口から出たその名前を聞いて、伊達は身体中の血が沸騰するのを感じる。
『…俺は…今、何を…?』
言葉を叫んだ桃自身、呆然とした表情をしているのに気付いて、さらに熱が上った。桃の膝を抱え込み、容赦なく自分の楔を打ち込む。
「…あう…!」
桃の身体が激しい感覚に大きく仰け反る。
足のつま先まで快感がはしり、震えていた。
伊達が桃の顔を覗き込むと、美しい瞳からはぽろぽろと涙がこぼれている。
あれ程愛しく思っていた瞳を涙で濡れさせているのは自分なのだ…
心のどこかがチクリと痛む。
けれど、止められない。
伊達はゆっくりと桃の身体を揺さぶり始める。
「…あ…あ…」
目を開いても桃の視界は涙でぼやける。
突き上げてくる男の顔も、男の背に光る三日月も身体と共に揺れていた。
けれど、男が自分を見つめる視線は感じる。内に押し入ってくる熱さとは別人のようにその眼差しは優しい。
どうしてそんな目で見る…?
愛しいものでも見るような優しさと憂いを感じる視線で…
「う…!」
桃は訳を考えようとするが、激しい律動の波にさらわれて思考がとんでしまう。苦しくて息を喘ぐと、男が唇を重ねてくる。
血の味がする…
と思った時、背中から脳まで駆け上がってくる快感に、桃は何も考えられなくなってしまった。
高まっていく快感と共に、桃の身体が変化してくるのを伊達は感じていた。
締め付けている内奥がうねり、熱く濡れたそこが伊達にからみついてくる。こちらが快感を与えると、それに反応して何倍もの快感がかえってくるようだ。
やばい…
と、伊達は思う。
初めてのくせになんて身体してやがる…
伊達は異性とも同性とも契りは何度か経験している。けれど、こんなにも良すぎるのは…
惑溺している自分に気付く。
まるで禁断の果実のようだ。
一度、その味を知ってしまうと引き返せなくなってしまうのではないか…?
もう、それ無くしては生きていけないような…
そんな予感が頭をかすめる。
だが、構うものか…
もうとっくに自分はこの男に惑溺しているのだ。
あの日から…この美しい漆黒の瞳を見た時から…
この瞳を見た時から自分が新たな生を受けたのを、伊達は知っている。

高みに上りつめた二人の身体は力を失い、草むらにその姿を投げ出した。
特に桃は四肢はぐったりとさせて激しく息をついている。それでも、そっぽを向いて
「…もう…どけよ…」
掠れ切った声で自分の上に乗っている伊達に命令した。
伊達はまだ桃の内にいて、熱い内壁にまとわりつかれている。
「…まだ、足りねえんじゃねーの?」
「さっさと抜け!」
「…………」
悲鳴のような桃の声に、伊達はそっと身体を離す。
離れる瞬間、伊達から快楽をむさぼりとろうと絡み付いてくるので、伊達は歯を食いしばらねばならなかった。
男の欲火を煽る身体だな…
それを知っているのは今のところ自分だけであるが、桃はある男の名前を呼んだ。
いつか、あの男もこの肌に触れるのだろうか?
自分の思考によって、内に燻っている情欲が煽られるのを感じて伊達は苦笑した。
らしくない…
伊達が離れて手を縛っていた帯を取ると、桃は自分の単衣をたぐりよせて身体を隠すように覆った。
まだ起きあがれないのだろう、草むらにうつ伏せになり、胎児のように身体を丸める。背中は屈辱の為か、怒りの為か、小刻みに震えていた。
その背中を見て、微かな罪悪感が伊達の心を横切る。だが、後悔はしていない。
好意をもたれるなど自分には無理な話だ…
ならば、憎しみによってでもいい、この男の胸に刻みつけられたい…
二度と、忘れられたくない…
「…じゃあな…」
伊達は桃に背中を向けて、歩き始める。
また、再び会う事になるだろう。
今度は関東豪学連の総長として…
その時、桃は自分に気付くだろうか?
桃は草むらに横たわりながら、男の気配が遠ざかっていくのを確かめた。完全に消えたのが分ると、張り詰めていた気が弛んで涙がまた溢れてくる。
「…う…」
怒りと屈辱で、桃の心は切り裂かれそうだった。身体には男が触れていった感触が、まだ生々しく残っていて、桃は怖かった。自分の身体が自分のものでないようである。内に宿った炎がまだ燻って身体が火照る。
あの男は一体何者なのか?
何をしにここにやって来たのか、その目的も分からない。
どうして去っていったのだ?哀れに思ったからか?
自分を凌辱したあの男を、桃は絶対に許せない、と思う。だが一方で、あの男を憎みきれない事にも気付いていた。
自分を見るあの男の視線が、淋し気で縋りつくようだったからだ。
どうしてそんな目で見る…?
疑問は尽きないが、今の桃には考える力さえなかった。
ただ、自分の理解出来ない思いに対する戸惑いは増すばかりである。
「…赤石先輩…」
そして、初めて気付いた自分の気持ちにも…

                              


H20.9/16修正加筆

1とは別物と考えて下さっても結構です;こういうパターンもある、ぐらいに;いい加減ですみません;これって赤×桃になるんでしょうか?桃→赤か?
すみませんのう…;つい、出来心で…;「漆黒の瞳」の続話という感じで考えてくださったらいいと思います;(もしかしたら別バージョンという形になるかも;)
脳内妄想ですが、桃は結構「いい」と思ってるんです(すみません下世話な言い方で;)伊達が経験豊富な方だと思ってるんで、その伊達を虜にするんだからな〜と(脳内妄想;)
一応、続き話もあるんですが、どうしようかな〜と思ってます;
男塾の寝間着はアニメによると「あれ」なんですが、それはちょっとな〜;という訳で単衣にしました。Tシャツ、ジーパンをはいてる桃ちゃんは想像出来んかった;