この話を読む前の注意事項
1.この話は映画「ポイズン」を見て思い付きました
2.この話では岩城さんは男娼です
3.岩城さんと他の男のシーンがあります。結構キツイです;
 香藤とはないです;;
4.一つの話としては書きません
 (今回書いてて思いました;こんな暗いの無理;)

以上の事柄が駄目な人は読まないで下さい;;;頼みます;;

    暗闇でワルツを(別シーン1)

 暗い室内で、猥褻な声が響いていた。
 夜具の上に裸体を投げ出している岩城の下肢に、一人の男が
顔を埋めている。
「……あ……ああ……う………」
 男によってもたらされる快感にのまれまいと、岩城は堪えて
いたが、それももう限界であった。
「あう……く………」
 岩城が我慢できすに精を放出してしまいそうになった時、男
は身体を離して夜具の上に座して足を広げた。
「今度はお前がやれ」
「……………」
「どうした?今俺がお前にしてやったみたいにすればいいんだ。
舌使いを教えてやったろ?」
 岩城は昂ったまま放りだされた身体と、屈辱に身を震わせて
男を睨んだ。だがそれは男にとってなんの効果もなかった………
「さっさとしろ。また薬ぶちこまれたいのか?」
 以前に媚薬を投与されて気が狂いそうになる程乱れてしまっ
た事を思い出し、岩城は怯えをその瞳に宿した。
 唇を噛みしめながら岩城は男の言う通りにした。
「……そうだ………上手くなったな………」
 男は熱い吐息をもらしながら笑った。
 岩城が男に口淫するのは初めてではない。
 初めは何度も嘔吐したが、そのうち耐える術を岩城は覚えた
のである。
 覚えさせられた、と言った方が正しいだろう。男は根気良く
岩城を調教していった。
 男を虜にする身体に作り返る為にであり、岩城には極上の身
体になる資質がある事を見抜いていたからである。
 男が岩城を抱いたのは最初の一度だけだった。
 愛撫と快感に従順な身体にしなければならないが、抱かれる
事に慣れてもらっては困るのだ。
 岩城の裡にある高貴な白さを残しつつ、淫らな身体にしなけ
ればならない………
 いつも男は岩城の身体を舌で、指で巧みに追い詰めていった。
強張っていた岩城の身体が愛撫に身を委ねてきても、最後までい
かせず、自分も挿入しなかった。
 昂らせるだけ高めておいて放置したのである。
 その度に岩城は熱く燃え上がった身体をもてあまし、熱が冷め
るまでせつない思いをするのであった。
 約一ヶ月程そんな状態が続いていた。
 この事によって身体の方が岩城の意志に反して、快感を求める
ようになっていたが、岩城はまだ気付いていなかった。
「……ん……もういい………」
 飲みくだされる事を覚悟していた岩城は意外な気持ちで顔をあ
げた。
 仰向けに寝ろと言われて岩城が夜具の上に横たわると、男は膝
を胸元まで折り曲げさせ、足を大きく開かせた。
「な………!」
 行灯を近付けて、むき出しになった秘所を男はじっくりと値踏
みするように眺めた。羞恥心から岩城は瞳を堅く閉じて顔を背け
る。
「……濡れてるな……だが淡い色だ………」
「ひ…………!」
 男がそこに舌を差し込んだので、おぞましい悦楽が背骨にそって
駆け上がり、岩城は悲鳴をあげた。さらに岩城を昂らせようと指を
いれて中をかき乱す。
「……い……いや……あっ……うん……」
 岩城の白い身体が蛇体のごとく夜具の上でうねりだし、その淫
らさに男は忍び笑いををもらした。
「いいぞ……その感じだ……入れて欲しいだろ?」
「……あ、ああ………」
「もっと強い刺激が欲しくて疼くんだろ?男をここに感じたいん
だろ?」
「……ち、違………」
「嘘をつけ……こんなに指をしめつけてくるくせに……どれだけ
の身体になったか確かめてやろう……」
 男は指を引き抜き、岩城の足を肩に抱えあげると、自分の昂り
を岩城の中に突き入れた。
「あ…ぐっ………!」
 あまりの快感に岩城の意識が一瞬真っ白になる。
「……う…ん……すごいな……ここまでの身体になっていたとは…
……」
 岩城の内部は男が入れた瞬間とろりと溶け、吸い込むように包
み込んでいったのである。
「俺の見立てに間違いはなかったようだな………京介……お前は
最高の男娼になるぜ………」
「……う……う…ん………あ…………」
 男に激しく揺さぶられながら、岩城は自分が内部から腐ってい
くのを感じていた………

          *

 岩城は夢から覚めて飛び起きた。
 忌わしい過去の夢を見て、身体中が震え、吐き気がする程気分
が悪かった。
 昔の、あの男に身体を作り変えられていった時の悪夢だ。
 いや、悪夢はまだ続いている………
 岩城はベッドの上で自虐的な笑みを漏らした。

 紅茶だけの朝食をすませると、岩城は外に出た。
 近くの駅に隣接してある公園で香藤を待つ為である。
 胸がどす黒い雲で覆われているような、気重な気分だ。
 昨日、あの男から電話があり、香藤がお前に英語を教えてもら
いたいそうだから会え、と言われたのである。
 岩城はもう二度と香藤に会いたくなかった………
 男の話では、香藤はまだ自分の正体に気付いていないらしい。
だからこれを機に彼を誘惑しろと命令されたのだ。
 岩城は絶対に嫌だと言ったが、自分に拒否権はなかった………
『どうすればいいんだ………』
 あの太陽のように明るく眩しい彼に、自分の本性を知られたく
ない………
 知られればきっと軽蔑されてしまう………
 考えた末に馬鹿な家庭教師のふりをしようと思い付いた。
 英語などまるで出来ない口だけの教師の振りをして、香藤を呆
れさせるのだ。そうすれば、もう二度と習いたいとは思わないだ
ろう。
 香藤に呆れられのは辛いかもしれないが、正体を知られるより
何倍もましである。
 なんとか逃げ道を考えた岩城は、気分が少し楽になった。
「お待たせしてすみません岩城さん」
 香藤の明るい声に、岩城が顔をあげると、そこには白いシャツ
にグレーのズボンという出で立ちの香藤がそこにいた。
 日本人にしては明るめの髪が日に照らされて光っているように
見える。
 岩城は眩しさのあまり目を細めた。
「すみません、大分待ちましたか?」
「…いいえ……私が早く来過ぎたのです……」
「じゃあ、早速課外授業に行きましょうか」
「え?課外授業?」
「そうです、じゃ〜ん、これ見て」
 香藤は手に持っていたバスケットを掲げてみせる。
「昼食の準備もばっちりだから、ここの公園の中を散策しながら
勉強しようよ。こんな五月晴れの気持ちのいい日なのに、部屋の
中に閉じこもってるなんてばかげてるよ」
「で、でも………」
「それに実際経験して分かったんだけど、紙の上で文字を書いた
だけじゃ言語は覚えないってね。実際使ってみてはじめて頭に入っ
てくると思うんだ」
「……………」
「いいでしょ、行こうよ岩城さん」
「分りました………」
 岩城は予想外の展開にとまどいながらも立ち上がった。
 それから岩城と香藤の二人は広い公園の中を歩きながら、言葉
を交わした。
 香藤が目に飛び込んでくるものを、英語でなんていうのか岩城
に尋ね、岩城が教えてそれを繰り返すのである。
 例えば
『私達は公園を歩いています』
『今日はいい天気です』
『遠くで子供が遊んでいます』
『ここでお弁当を食べませんか?』
 という香藤の質問に岩城が英語で答え、二人は木陰の下に丁度
あったベンチに腰を降ろして、香藤の持参したお弁当で昼食をと
る事にした。
「気持ちいいね〜」
「そうですね」
 心地よい風を身体に感じて、岩城はこんな風に気持ちよく散歩
したのは何年ぶりだろうか、と考えた。
 やわらかな日射しに、緑の香り。澄み切った空気が心を透明に
していくようだ。
 岩城は瞳を閉じて、風を頬に感じた。
 香藤は横でそんな岩城の姿に見とれていた。
『綺麗だな〜…会った時はなんだか顔色が悪そうだったけど、戻っ
てきたみたいで良かった』
 心なしか強張っているようだった身体も、今はリラックスして
いるようである。
「ねえねえ、岩城さん、サンドイッチはなんでサンドイッチって
いうか知ってる?」
「え?いいえ、知りません」
「昔、サンドという名の娘さんとイッチっていう名前の男性が結
婚する事になって結婚式を開く事になったんだ。でも、二人は貧
乏であまり大きな家に住んでいなかった。当然人数分の椅子も用
意できなかった。そこで、立ってでも食べられる料理として考え
だされたのが、サンドイッチなんだよ。名前も二人の名前からつ
いたんだ」
「そうだったんですか」
 岩城は感心したように息をついた、ので、香藤はプッと笑いだ
した。
「どうしたのです?」
「駄目だよ岩城さん、そんなに簡単に信じちゃ〜」
「え?違うのですか?」
「本当は、昔、カードゲームが大好きなサンドイッチ伯爵がいて、
彼が片手で食べれるようにって考え出したところからきてるんだ
って」
「そうなんですか?」
「実はこれも逸話なんだよね〜」
「じゃあ、本当はなんです?」
「知りたい?」
 岩城は子供のように頷いた。
「サンド(砂)と魔女(ウイッチ)以外はなんでも挟んで食べら
れるところからきてるんだ」
「本当ですか?」
「どうかな〜」
「どれが本当なんです?」
「へへへ〜秘密〜」
「気になるじゃないですか」
「ねえ岩城さん」
「はい?」
「俺に対して敬語使わないでくれる」
「え?」
「俺の方が年下だし、教えてもらう側の人間なんだからさ」
「でも………」
「お願い、なんだかくすぐったいんだ。先生の立場の人から香藤
さんとか呼ばれるの」
「しかし、私は雇われているし………」
「俺、そんな格式ばった付き合いじゃなくて、岩城さんと友達に
なりたいんだ」
「……え………」
「ねえ、俺と友達になってくれない?」
「……あ………」
 香藤の真直ぐに自分を見つめる視線に堪えられなくなって、岩
城は目を逸らした。胸が痛くて張り裂けそうだ………
「あ……も、もう帰らなくては………」
「え?」
「そ、それじゃあ……ごちそうさまでした……」
「え?ちょ、ちょっと岩城さん?」
 岩城は立ち上がり、急いでその場を離れた。そして自分を激し
く叱責した。
『何をやってるんだ俺は!馬鹿な家庭教師の振りをする筈じゃな
かったのか!?』
 でも、香藤といるのが楽しくて………いつまでも、この時間が
続けばいいのに……と思ってしまって……
 香藤に突き放されるのが怖くなった………
『俺の正体を知られたら、突き放されるどころじゃないんだぞ!
分っているのか!』
 岩城は込み上げてきた涙を必至の思いで堪えながら、歩き続け
た………
 一方、岩城に放っぽりだされた香藤は項垂れていた。
『失敗したな〜……急すぎたかな〜岩城さん人見知りするタイプ
だって分ってたのに………』
 自分と自然に話してくれている感じがして、思い上がってしまっ
たのかもしれない………
『次はもっと慎重にしなきゃ。絶対に岩城さんに友達になっても
らうんだ』
 香藤が気を取り直して歩きだそうとした時、後ろから声をかけ
られる。
「香藤!」
「え?」
 声をかけてきたのは従兄弟の佐藤 努だった。
「香藤……今、いっしょにいた男………」
「岩城さんの事?」
「あ、ああ……岩城京介だろ?お前、なんであいつといっしょに
いるんだ?」
 努の口調に少々不快感を覚えつつ、何故彼が岩城を知っている
のか気になる香藤であった。
「英会話の先生だよ。努はなんで岩城さんの事知ってるの?」
「……本当にただの家庭教師か………」
「は?どういう意味だ?ただのってなんだ?」
「……お前本当に知らないんだな………」
「だから何を?」
「………あいつが高級男娼だって事さ………」
 香藤は頭を殴られたかのような激しい衝撃を感じる。
「……な……んだって………」
「詐欺まがいの事もやってるってその道じゃ評判の男さ……騙さ
れた方も男娼を買ったなんて表ざたにしたくないから訴えられな
いんで警察も手がだせないらしい………」
「そ……そんな……でたらめ言うな!」
 香藤は思わず努に怒鳴り返した。
「でたらめなもんか!俺の友人の林田があいつに騙されたあげく
自害しちまったんだからな!」
「……自害って………」
「あの岩城って男の身体はすごいらしい……林田の奴すっかり骨
ぬきにされちまって、金を散々貢いだあげく親戚や友人に借金つ
くって死んじまったんだ………」
「……信じられない………」
 あの岩城さんが………!そんな、ばかな事が………!
 香藤は先程の岩城の純真さを思いだして、頭がグラグラした……
「香藤、あの男には今後いっさい近付くなよ……あいつは男を堕
落させる奴だぜ………」
 努の声が香藤に耳に恐ろしい警鐘のように鳴り響いた。

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