この話を読む前の注意事項
1.この話は映画「ポイズン」を見て思い付きました
2.この話では岩城さんは男娼です
3.岩城さんと他の男のシーンがあります。結構キツイです;
 香藤とはないです;;
4.一つの話としては書きません
 (今回書いてて思いました;こんな暗いの無理;)

以上の事柄が駄目な人は読まないで下さい;;;頼みます;;

   暗闇でワルツを(別シーン)

高級ホテルの一室で、岩城は客を待っていた。
あの男に男娼として肉体を作り変えられてから、岩城は何人もの客を
取らされた。
が、男は決して岩城を安売りしなかった。
客は絶対に財力のある各界の権力者に限り、普通の一般的な庶民の男
などは歯牙にもかけなかった。一日に何人もの客をとらせるなど論外
である。
立派な服で岩城を飾り立て、高級な部屋で相手をさせ、閨の環境は贅
沢を極めさせた。
その分莫大な金額を客に要求するのである。
一度、岩城の魅力を味わった者は、どれだけ高額な料金を要求されて
も、拒まないのを男は知っていた。そこにつけ込んだのである。
岩城が身を強張らせて待っていると、ドアが開いた。しかし、そこか
ら部屋に入ってきたのは意外な人物だった。
「…い、岩城…」
「…林田さん……」
岩城は驚いて立ち上がった。どうして林田がここに?
彼はかつて、岩城の客の一人であったが、岩城を買う為に財産を使い
尽くして破産したと聞いた。その彼がどうしてここに?
「岩城…」
林田は岩城の顔を見ると、破顔して駆け寄り、岩城を強く抱き締めた。
「…会いたかった…」
「…林田さん……」
どうして?何故、ここに?
そんな岩城が疑問をぶつける間もなく、林田は驚くべき言葉を口にした。
「岩城、俺といっしょに逃げよう」
「…え…?」
「分かってる、君は男娼なんかする男じゃない。苦しんでいるんだろ?
こんな事止めたいんだろ?」
「…………]
確かに林田の言う通りである。身体を売る行為など、誰が好きでやる
ものか…
しかし、病気の母の治療費を捻出するのは、こうするしかないのだ…
「俺といっしょにどこか遠くへ逃げよう」
「林田さん…」
そんな事出来る筈がないではないか。病気の母を置いていける訳がない。
岩城はなんと言っていいか分からず、苦し気な表情を浮かべた。
林田は岩城の身体を買った客の一人であるが、他の客と違い、岩城の身
体をもて遊んだりしなかった。
誠実で、どこか不器用なところがあって、愛を感じられるような抱き方
をしてくれた…
岩城は林田だけは他の客とは違うものを感じていた。
だから、彼が自分の為に破産し、家も追い出されたと知った時は胸が痛
んだ。
「…林田さん…私は…」
岩城はなんとか優しく諭そうとした時、背後から近寄ってきたあの男が、
林田の背中を思いきり蹴り飛ばした。
「う!」
「林田さん!」
大きく横に吹っ飛ばされた林田は、床に倒れる。岩城は助け起こそうと
近寄ったが、男に突き飛ばされる。
「近寄るんじゃねー京介」
「…………」
男の目に凶暴な色が宿っているのに気付き、岩城は背筋に寒気が走って
硬直した。冷酷で、人とは思えぬ程の残虐さを秘めた目の色だった。
「よー林田。こんなとこに何しに来たんだー?破産した駄目男が」
「…う…」
立ち上がろうとした林田の腹を男は蹴り上げる。
「金の無くなったお前なんぞ、何の価値もねーんだよ。いいとこの出っ
てだけが取り柄のお坊ちゃんよ!」
男は床を転がる林田の身体や、顔に何度も蹴りを入れ、林田の鼻や口か
ら血が吹き出る。岩城は林田が殺されるのではないかと恐怖を感じた。
「や、やめて下さい!」
なんとか止めさせようと、林田の身体を庇うように覆い被さる。やっと
男は攻撃をやめた。
「…ふん…」
「大丈夫ですか?林田さん…」
「…うう……」
林田の顔は血まみれであった。岩城はハンカチで血を拭ってやろうとし
たが、男が林田の首ねっこを捕らえて無理矢理立たせる。
「京介…客がくるまでに飛び散った血を拭いておけ。俺はこいつをこの
ホテルから追い出してくる」
「…でも…」
「早くしろ!」
「…………」
男は引きずるようにして林田を部屋から連れ出す。岩城はどうする事も出
来ずに、言われた通り、部屋に飛び散った血を拭き取った。
そして、翌日の新聞に、林田が自殺した記事が載ったのである。

   *****

香藤は薄暗い部屋で待たされていた。
部屋には窓はなく、テーブルと椅子が置かれていたが、香藤は壁際にもた
れて立っていた。その表情は固かった。やがて、扉が開かれ、男が入って
きた。
「…お待たせしました…こちらにどうぞ…」
岩城が「私の支配者です」と言わしめた男が、下卑た笑みを浮かべながら
香藤を手招きする。
部屋と同じくらいうす暗い廊下を歩き、隣の部屋に入る。こちらの方は中
は真っ暗であった。
「…お静かに…声をたてぬようお願いいたします」
男がもったいぶった仕草で壁の方に香藤を誘導する。
壁には30cm四方の小さなカーテンが貼付けてある箇所があった。男はそ
こに香藤を立たせる。
「…こちらです…」
男がそっと手を引くと、その小さなカーテンは上にあがり、鏡が現れた。
それはマジックミラーで隣の部屋が見えるようになっている。そして、隣
の部屋にいたのは…
その部屋には明かりは灯っていなかったが、暖炉の燃え盛る炎の光が、壁
や床をなめるように這っていた。豪華な天蓋付きの寝台に、二人の男が横
たわっている。
その一人は岩城であった。
白く艶やかな全裸が炎に照らされ、妖しい輝きを放っていた。
そして、その上に岩城よりひと回り大きな身体をした、浅黒い肌の男が覆
い被さっている。
「…あ、あ…ん……」
「…岩城…いいよ……」
二人は身体を絡み合わせ、寝台を揺らしていた。
浅黒い肌の男が突き上げる度に、岩城は身体を捻り、シーツを乱れさせた。
濡れた音と岩城の切な気な喘ぎ声が、こちらの部屋にも響いている。
香藤は呆然と、取付かれたように、その光景を見つめる事しか出来なかった。
岩城の想像した事もない程妖艶な姿と、艶かしい声色に魅入られていた。
カーテンが降ろされ、その光景は香藤の目の前から消えた。
「どうです?お気に召して頂けましたか?」
男が押し殺した声で香藤に言葉を投げてくる。
香藤は呆然としながらも足を動かし、ぎこちない動作で後ろに下がった。
あまりのショックで声が出ない。頭も混乱している。
信じたくなかった。岩城が高級男娼など!だが、それが事実なのだ。
「どうです?一度、あの身体を味わってみては?」
「…黙れ…」
混乱の次は怒りが香藤の胸を占めていた。
それは、岩城の身体を売り物にしている、この男と、自分に向けられたも
のだった。
今見た光景に、岩城の妖艶な姿に欲情している自分に香藤は気付いていた。
これでは、金で岩城の身体を買ってもて遊んでいる男達と同じではないか!
『俺は…最低だ…!』
苦悩のあまり、目を閉じて俯いている香藤の耳もとに、男が悪魔の誘惑の
ごとく囁く。
「…京介を抱きたいんだろ…我慢するな…」
怒りが爆発した香藤は、男の襟首を掴んで睨みつける。が、男は平然と、
うすら笑いを浮かべながら香藤を見つめ返した。
二人はしばらく無言で睨み合っていたが、香藤は手を離して部屋を出てい
った。
「…ふん…」
あいつは、心底京介に惚れている。また、すぐ連絡をとってくるだろう、
と男は確信していた。
胸ポケットから煙草を取り出し火をつける。
雰囲気が少し林田に似ているかな?もしかしたら、あいつのように岩城と
共に逃げ出そうとするかもしれない…
「まあ、いいさ…」
紫煙をはきながら、男はぼつりと呟いた。
その時はあの香藤って男も林田と同じように、あの世に行ってもらうだけ
だ…
岩城も、世間の誰もが知らない事実がここにあった。
林田は自殺したのではなく、この男に殺されたのだという事実が…

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