この話を読む前の注意事項
1.この話は映画「ポイズン」を見て思い付きました
2.この話では岩城さんは男娼です
3.岩城さんと他の男のシーンがあります。結構キツイです;
 香藤とはないです;;
4.一つの話としては書きません
 (今回書いてて思いました;こんな暗いの無理;)

以上の事柄が駄目な人は読まないで下さい;;;頼みます;;

   暗闇でワルツを(別シーン)

だるい……
岩城は火照った身体をもてあまし、そっと壁に背中をつけて体重を預けた。
目の前には背徳な香りを放った豪奢なパーティーが展開されているが、他人
事のように眺める。
内側の疼痛が甘い苦しみとなって岩城を苛んでいた。
早く退席したくて仕方なかったが、男の言い付けを守るには、後30分はこの
パーティーに身を置かねばならない。
物憂気で妖艶な雰囲気をだしている岩城に、何人かの男性がチラチラと視線
を送る。
「あの、壁際に立っている青年は誰だ?」
「さあ?私は初めてみるが…」
「随分艶のある男性ですね…」
「どこかの爵位のある方でしょうか?」
「あなた方御存じありませんの?あれは岩城京介ですわ」
良家の家柄であるが上、遠慮がちに小声で話していた子息達に、豪華な西洋
風のドレスを纏った女性が耳打ちしてきた。内緒話を盗み聞きされていたよ
うな不愉快感が、一瞬場の雰囲気を覆ったが、好奇心の方が勝ったようであ
る。
「御夫人はあの男性を御存じなのですか?」
「よく知っておりますわ。元名家の家柄だった人ですが、今は落ちぶれて男
娼になっておりますのよ」
「え!あの人が?!」
子息達は例外なく驚いて、岩城を振り返った。憂いはあるが、礼服に包まれ
た立ち姿や所作は品の良いもので、とてもそんな生業をしているとは思えな
かった。
「生れは華族ですからね。育ちの良さは一級品でしょうね」
「随分お詳しいんですね」
「彼の仲買人がちょっとした知り合いですの…もし、彼を買いたければ紹介
して差し上げても良くてよ」
「…そんな…人を買うだなんて…」
咎めの言葉を婦人は玉のような笑い声でふり払う。
「あなた方、何をしにこのパーティーにいらしたの?」
「え?」
「普段の窮屈な生活から解放されたくて来たのではないの?」
「…それは……」
「ここでは情熱に身を焦がして咎めるのはいませんわ。むしろ、惰性に生き
るだけで、人生を楽しまない事こそ咎められるべきです」
「…しかし……」
「ほほほ…男娼ともなれば結婚を要求される事もないし、余計な気を使わず
に済みますわ。私はあなた方のような健康で魅力的な青年が、家柄に縛られ
て人生の素晴らしさを知らないのが口惜しいのです」
子息達は意味ありげな沈黙に包まれた。
「…甘い果実を味わわない手はなくってよ……」
婦人はそう言い残すと子息達から離れた。
パーティーの行われている広間からテラスに出て、中庭を散歩する素振りで
歩きだしたが、池の近くにいた男に小声をかけた。
「どう?見てた?」
「ああ、たいしたもんだな」
したり顔で振り向いた男は岩城を鎖で繋いでいる男だった。
「押し付けがましくなく、適度に好奇心とプライドをくすぶる技は真似でき
んな」
思わせ振りに身を引くタイミングも絶妙である。女性であるがうえに、警戒
心ももたれにくい。
「あの調子じゃ、必ず一人はお前に連絡してくるだろう。その時はまた知ら
せろ」
「分かったわ」
「今日はもう帰れ。あまり長居をしては、岩城の宣伝だって気づく奴がいる
かもしれんからな」
女に駄賃を渡して追い払う。男はこんな風に巧妙に岩城を買う男達を生産し
ているのだった。むろん、岩城は知らない。ただ、今日のパーティーに2時
間出席していろ、と言われるだけである。
その二時間が終わりを告げた事を知ると、岩城は肩の力を抜いて、パーティ
ー会場を抜け出した。
廊下に出て二階に上がると、男がいつも用意してある自室へ入る。
息つく間もなく、後ろから誰かに襲いかかられ、腕の自由を奪われる。
驚いた岩城だったが、誰かを問う間もなく声が返ってくる。
「今日も上出来だったな、京介」
岩城の支配者だった。
彼は岩城の腕を後ろ手に縛り、身動きを封じた。テーブルの上に岩城の身体
を俯せに押し倒す。
上半身をテーブルに乗せた状態で、首ねっこを後ろから押さえつけられたの
で、岩城は微かに頭を動かすしか出来なかった。
こんな事をする意味が岩城にはさっぱり分からない。
「…な…何をするんだ…」
「今日のお前は一段と色っぽかったな…きっと何人かの男の目に止まったぜ」
男は岩城のお尻を下から撫であげ、思わず岩城は顔をそらした。男は岩城の
ズボンを引きずり脱がせ、大きな声をあげた。
「どうして岩城がこんなに色気を振りまいているのか教えてやるぜ、貴族の
坊ちゃまよ」
その言葉に驚いた岩城は、動ける範囲で顔を動かし、少し離れた場所に立っ
てこちらを見ている香藤の姿を認めた。
「……香藤……」
驚愕をうけて呆然とする。が、
「これが、その秘密だ」
男が無理矢理岩城の足を開かせたので、岩城は羞恥心よりも恐怖が沸き上がっ
て可能な限り暴れた。
「や、やめてくれ!」
「暴れるな…」
「頼む!止めてくれ!なんでもするから今だけは!」
香藤の前だけは止めてくれ!
心の中でそう叫んだ岩城の耳に男の非情な言葉が届いた。
「今さら取り繕っても無駄さ。香藤家の坊ちゃんはお前の正体をお知りあそ
ばしてる」
「…な……」
岩城の中で何かが音たてて砕け散った。
動きの止まった岩城の身体に男が手をのばしてきたので、岩城はまた暴れた。
「いやだ!お願いだ、これだけは!」
例え香藤が自分は男娼だと知っていても見られたくなかった。しかし、岩城の
抵抗も空しく、男の手はふりほどけない。
乱暴な行為を止めさせようと、香藤は男に走りよろうとしたが
「おっと、それ以上近付くなよ」
男はナイフを取り出したので足を止める。凶器など恐くはないが、そのナイフ
を男は岩城に向けたのだった。
足の間に刃先を入れてちらつかせる。
「こいつの身体に傷をつけたくなかったら、じっと見てるんだな」
…下衆が…!
香藤は心の中で罵倒した。
その時香藤は、岩城の足の間から銀の鎖が垂れ下がっている事に気づく。
岩城の秘部からであると分かって香藤は息を飲んだ。
男は鎖を指に持ってゆっくりと引いた。同時に岩城の身体がビクリと跳ね、せ
つない声を漏らし始める。
「…あ…ああ……」
ズルリと鎖に繋がった淫具が岩城の内から引きずりだされた。潤滑の為に入れ
ていたのだろう、蜂蜜色の密も岩城の白い腿を伝い落ちてくる。
「はあ…はあ…」
内部にこれが仕込まれていた為、パーティーの間岩城は異様な感触と戦わねば
ならなかった。
にぶい痛みと妖しい感覚が沸き上がるのを何度も堪えた。
時折、カッと身体が熱くなるので、その度に立ち止まって上気が去るのを待っ
たのである。
…こんな…淫らな姿…香藤には見られたくなかった……
岩城は砕けた心の欠片を散らしたまま、無意識に涙をこぼし、小刻みに震えて
いた。
「普段のこいつは上品すぎるんでな。これを入れて淫乱さが表に現れるように
してやったのさ」
香藤は男の言葉を、軽蔑を含んだ沈黙で返す。
男は蜂蜜色の密を零しているそこに指を入れてまさぐった。
「ああ…!」
強烈な刺激に岩城は身体を反らした。
「さっきまで挿れてたのに、もう締まりだしたか…」
「…や、やめ……」
「だけど、身体はますます欲しているみたいだな…指に吸い付いてきたぜ。こ
っちははしたなくも濡れてきたじゃないか…」
下品な笑い声をあげ、男は岩城の前方に手をやると、密を零しだしたそこを乱
暴に扱う。
「熱くなってるな」
「…い…いや…」
「止めないか!」
香藤はありったけの忍耐を動員して、男を殴るのを我慢していた。ナイフをま
だ手に持っているのだ。
「…香藤…見ないで…くれ……」
壊れそうになる心の中で、岩城はなんとかそれだけ声を絞りだした。
「…岩城さん……」
香藤の言葉に、岩城は身体を大きく震わせ顔を逸らせる。
いっそ狂ってしまいたい、と思った。
「分かったろう。こいつは淫乱な男娼だ。ふさわしい態度で接してやるのが礼
儀ってもんだぜ。買うのに迷う事はない」
「…岩城さんは…男娼なんかじゃない…」
怒りを押さえ、香藤は言葉を返した。
「ほう、金で身体を売るのが男娼じゃないってのか?」
「貴様が無理矢理させている事だ。岩城さんの意志じゃない。心は売っていな
い」
「こいつは男を破滅させる男なんだぜ。破産した男も大勢いるし、林田って奴
は自殺までしやがった」
林田という名前を聞いて、岩城の胸は張り裂けそうになる。
…優しい人だったのに…私が……
「違う…林田は自殺したんじゃない…」
「ではなんだというんだ?」
「お前に殺されたんだ」
驚きのあまり岩城は顔を上げ、男は射ぬかれたように立ちつくした。
知り合いの刑事に頼んで資料を見せてもらい、香藤は話を聞いていた。自殺に
しては不信な点がいくつかあったが、事件を早く処理したい林田家からの圧力
にあって十分捜査出来なかった事も。
今、男の目に脅えらしきものが浮かんだのを見て香藤は確信した。
「俺は岩城さんが好きだ…好きな人を金で買うなんて汚い真似はしない」
香藤は真直ぐ前を見つめて告白した。
「絶対に岩城さんを貴様から救いだしてみせる。裏からでも卑怯な手段を使う
のではなく、正々堂々とな」
そう言い放つ香藤の瞳は澄んで、曇りは一切もなかった。
彼の決意した胸の内と同じように。


H21.9.25

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