Pure Blood 番外編(途中から18禁)

 

 

『…ヴァンパイアだ…』
チャンミンはパーティー会場で、ユノと話している外国人男性を見て直観した。
今日は某ファッションブランドメーカーの記念パーティーに呼ばれ、ユノといっしょに出席していた。 有名なブランドだけあって、多くの著名人が訪れ、ユノとチャンミンは挨拶周りに大忙しだった。 ユノと離れてマネージャーと話していたチャンミンが、ふとユノを見ると、四十代後半の年齢らしき外国の男性と話しているのが目に入った。 だが、その男性はヴァンパイアだったのである。
『契約者』となったチャンミンは「普通の人間」と「ヴァンパイア」の区別がつくようになった。
そうなると、思っていたよりも多くのヴァンパイアが人間社会に紛れて暮らしているのに気づいた。 そして、そんなヴァンパイア達は必ずと言っていいほどユノに近づくのだ。
『…またか…』
心の中で舌打ちしながら、チャンミンはすぐにユノの傍に駆け寄る。
少し驚いたが、ヴァンパイアの男性は流暢なハングル語を話していた。
「ヒョン…」
「あ、チャンミン」
ユノといっしょにヴァンパイアがチャンミンを見つめる。
チャンミンがヴァンパイアと分かるように、相手もチャンミンが『契約者』だと分かるようである。
チャンミンを見るといつも「あ…」という顔をする。
今回も例外ではないが、いつもと様子が違う気がした。
「こんにちは、君がユノ君のパートナーのチャンミンだね?たった今、話していたところだよ。エリック・ナイトラーだ。初めまして」
「チャンミン、ナイトラーさんはこの会社のデザイナーだそうだよ」
ヴァンパイアの男性が握手を求めてくるが、手にはしっかり手袋をしている。体温を悟られない為だろう。
「どうも…」
チャンミンは握手を返しながら、不機嫌そうに睨み付けた。
そんなチャンミンの様子にユノは「?」という感じである。
その時、ユノを呼ぶ声があったので、ユノは「失礼します」と丁寧に挨拶して場を離れた。
チャンミンはほっとしながら、再びヴァンパイアのエリックを睨んだ。
ユノに近づくな…とくぎをさしておこうか… などと考える。
これまで会ったヴァンパイアはチャンミンの姿を見ると、怯えたようにすぐにユノから離れて行ったが、このエリックにそんな様子はなく、興味深げにチャンミンを見つめてくる。
チャンミンはそれが不快だった。
「君がユノ君の「刻印者」か…『契約者』とは驚いたな…」
エリックが周りに聞こえないよう声をひそめて話しかけてくる。
チャンミンは無視しようかと思ったが、かねてからの疑問を聞いてみる事にした。
「どうしてお前たちヴァンパイアはヒョンに…ユノに近づく?」
「そりゃあ、『刻印』の刻まれた人間なんて見たことがないからね。興味を覚えるさ」
「……………」
なる程…そういう事か…
また、獲物として狙われるのではないか、という不安は消えた…
が、おもしろくない事に変わりはない。誰であろうとユノに近づく者は気に入らないのである。
「君はどうやってマイケルの『契約者』になった?」
「え?」
チャンミンはエリックの言っている意味が分からなかった。
「君と契約を交わしたヴァンパイアはマイケルだろう?マイケルは始祖「ドラキュラ様」の直系だ。どうやって彼と『契約』したんだ?」
「………………」
そんな事を聞かれてもチャンミンは知らない。
あの時は、ただユノを助ける為に契約しただけだ。ヴァンパイアが誰かなんてどうでもよかった。
「何故、気になる?」
「そりゃあ…君は知らないかもしれないが、普通『契約者』はヴァンパイアから軽蔑されるんだ。自分の欲望を叶える為に『契約』するからね。大抵は「人間社会での成功」と引き換えだ」
「………………」
「それなのに、あの気高い「始祖様」の血と『契約』しているとは…しかも人間の『刻印者』までいる。興味をもって当然だろう」
「そんな事を聞いてきたヴァンパイアはいなかった…」
「ほとんどのヴァンパイアは人間から変貌した『平民』だからな。「始祖様の血」は怖いから近づきたくないのだろう」
「あなたは違うようだ…」
「私は生粋の貴族なのでね」
チャンミンは眉を寄せてエリックを睨んだ。
こういう自分の「出生」を自慢する奴は人間だろうとヴァンパイアだろうとチャンミンは嫌いだった。
「おっと…」
エリックはポケットから携帯を取り出し、画面を見つめる。
「残念だが、もう行かないといけない」
「………………」
「では、またどこかで会おう。君のパートナーは魅力的すぎるから、せいぜい気をつけたまえ」
チャンミンは瞳に怒りを浮かべながら、立ち去っていくエリックの背中を睨みつけた。

パーティー会場を後にしてからも、チャンミンはずっと不機嫌だった。
ユノはそんなチャンミンの様子が心配だった。
一体、どうしたのだろう?
チャンミンの機嫌が悪くなったのは、エリックに会ってからである。
ユノが一度、離れてから戻った時にはエリックはすでにおらず、機嫌の悪いチャンミンだけがいた。
それに、「エリックと何を話したのか」やたらと聞いてきたのだ。
明日の予定とか、泊まっているホテルを教えたりしなかったか?個人的な事を何か話したか?など等…
「教えてないよ。デザイナーさんだから、ファッションの話を少ししただけだよ」
「………………」
チャンミンの機嫌は帰りの車の中でも、泊まっているホテルに着いた時も悪いままだった。
マネージャーと別れて、二人の部屋であるスイートに向かう途中、ユノはチャンミンに尋ねた。
「どうしたの?チャンミン?」
「……別に…なんでもないです……」
「そうかな〜?もしかして僕がナイトラーさんと楽しそうに話していたから、チャンミン妬いてる?」
ユノは半分冗談のつもりで言ったのだが、足を止めて振り向いたチャンミンは熱い男の視線をユノにぶつけてきた。
ユノがドキリとする間もなく、チャンミンはユノの手を引いて足早に廊下を駆け出した。
「あ、あの…チャンミン…?」
「………………」
部屋のドアを開けて中に入るなり、ユノはチャンミンに乱暴に壁に押し付けられてキスをされる。
「…ん…うん……」
激しい口づけに、ユノは頭がボーッとしてきた。 初めて肌を重ねた時から、二人は時々キスをするようになった。
チャンミンとキスをすると、いつもユノは身体が熱くて頭の中が夢心地になってしまう。
でも、こんな、奪うような激しい口づけをされたのは初めてだ。
倒れそうになって、ユノはチャンミンの肩にしがみつく。
唇が離れていくと、ユノは空気を求めて荒く息継ぎをした。収まる前にチャンミンはユノの手を引き、自分のベッドルームに連れていった。
ベッドに押し倒されると、ユノは覆いかぶさってきたチャンミンにまたキスをされる。
「…あ…は……」
苦しくて息をしようとしても、チャンミンの唇に塞がれた。
お互いの舌と蜜がからみあって、ユノは淫らな気持ちになってくる。
チャンミンの唇が離れた時は、意識が朦朧としそうだった。
「…ヒョン…いい…?」
「…あ……」
「…嫌なら、止めます…」
チャンミンが顔を突きつけ、熱いまなざしで聞いてくる。
その意味が分からないほど子供じゃない。
二人は初めて気持ちを確かめ合った日から、キスを交わすだけで肌は重ねていなかった。
ユノの中でどこか避けている部分があった。
あの時は、気が付いたらチャンミンとそういう事になっていて…
でも、今は…自分に選択肢があるのだ。
言い訳は出来なくて…
『僕は…どうしたい…?』
迷っているユノを見て、チャンミンは軽く息をはいた。
「…分かりました…」
ユノから離れようと身を引くが、ユノはチャンミンの腕をつかんで止めた。
「…嫌じゃない…」
「…え?……」
「い、嫌じゃない……」
「……よく聞こえませんが……」
「…嫌じゃないって言った!」
「………………」
「…チャンミンと…したい……」
言った途端、ユノは顔から火がでそうになった。
恥ずかしくてたまらない…
チャンミンは耳まで真っ赤になったユノを見て、愛しさがこみ上げてきた。
「…僕も…ユノとしたいです……」
チャンミンが優しくキスをしてくれるので、ユノはチャンミンの背中に手をまわした。
さっきまでの奪うようなキスではなく、包み込んでくれるような優しいキスに涙がこぼれそうになる。
チャンミンがユノの服を脱がしていくので、ユノもチャンミンの服に手をかけた。
服を脱ぐのがもどかしい。
…早く…チャンミンと一つになりたいのに……
服を脱がせ合いながら、ユノはずっとチャンミンとこうしたかった事に気づいた。
でも、どこか怖くて…恥ずかしくて…考えるのを無意識に避けていたのである。
昔、女性と付き合っていた時は執着しないようにしていた。プライドが高くて不安な事も見せないようにしていたけど…
本当に好きになったら…愛していたら…プライドなんてどうでもよくなる。
みっともなくても、恥ずかしくても、求めずにはいられない。
「…あ…チャンミン……」
チャンミンの手と唇がユノの肌をたどっていく。
身体が熱くて、まるで燃えているみたいだ、と思う。
恥ずかしそうにしながらも、自分を受け入れてくれるユノが、チャンミンは愛しくて仕方なかった。
ユノが好きで…好きで…どうしようもないくらい大好きで…
こんなに人を愛せるんだ、と思うぐらいで…
初めての夜は、『刻印』を刻まなければいかなかったので、どこかでユノの気持ちを不安に思ってもいた。
でも、ユノは「欲しい」と言ってくれた。
自分から求めてくれたのである。
「…え…あ…!…や……」
ユノは突然、膝を胸まで抱え上げられて、足を開かされた。
自分が濡れている事も、蜜をこぼしている事も分かっている。
何もかもチャンミンにさらけ出している格好に、見つめてくるチャンミンの熱い視線が恥ずかしくて思わず目を閉じた。
しかし、その恥ずかしさは、同時に甘くて…
「…あ……い……!」
チャンミンの熱が入ってきて、ユノはチャンミンの背中にしがみついた。
「…あ…あ……ん……」
深くなる快感にユノは脚をチャンミンの腰にからませる。こうしておかないとどこかにとんでいってしまいそうだ。
「……ユノ……」
耳元で囁くチャンミンの声が掠れている。
同じように感じているのだと分かって、ユノは泣きそうになった。
悲しいのではなく、幸せで…
「……チャンミン…大好き………」
次の瞬間、激しく揺さぶられて、思考も理性もユノから離れていってしまった。


ユノはチャンミンがベッドの隣に潜り込んでくる気配で目を覚ました。
微かな石鹸の香りに、シャワーを浴びたのだと分かる。
いつの間にかバスローブを身に着けている自分に気づく。身体もさらりと乾いている事から、おそらくチャンミンが拭いてくれたのだろうと分かった。
自分がとても愛されている事を感じて、ユノは胸が苦しくなる。
「…チャンミン……」
「…ん…起きたんですか…?」
ユノはチャンミンに身体をぴったりくっつけた。
肌が触れあっているだけで、こんなに心が満たされるなんて、今まで知らなかった…
「…チャンミン…ありがとう……」
「…え……?」
…僕を好きになってくれて…ありがとう…
こんなに好きな人から同じように愛されるなんて…
……まるで、奇跡みたいだ……
「神様にお礼言わなきゃな〜と思って……」
「何?」
「…チャンミンに会わせてくれてありがとう…って…」
「……な、何言ってるんです……」
愛想のない言葉はいつものチャンミンの照れ隠しだ。
ユノは、ふふっとほほ笑んで、そのまま眠りに落ちていった。
幸せそうなユノの寝顔を見つめて、チャンミンも幸せな気持ちになる。
自分は今まで、神だの悪魔だの信じた事はない。
でも、ヴァンパイアがいるのだから、神様もいるかもな… …
何より、天使が目の前にいるのだから…
チャンミンは天使の額に口づけを落とすと、いっしょに幸せな眠りに落ちていった。


 

はい、駄文をお読み頂き、ありがとうございました〜;

ヴァンパイア世界の裏設定など考えているのですが、話に関係ないし説明する必要はないので出しませんでした。

でも、ちょっと出したくなって書いてみました。

それに本編の濡れ場が「『刻印』の為」って感じがあったので、ちゃんと「二人の意志で」っていうのが書いてみかったのです;すみませんでした〜;